下流優先論11  2019年水害の隠蔽                    (May 4, 2022)

 

ⅤI 国交大臣による情報公開法違反行為

 

 ここまでの5ページ(本項目6ページの「2019年水害の隠蔽 I」から10ページの「2019年水害の隠蔽 V」まで)で示した関東地方整備局による文書改ざん行為について、当該改ざん文書の開示をうけた請求者は、2021(令和3)年3月30日づけで、国土交通大臣に対して審査請求を申し立てました。

 国土交通大臣は、情報公開について審査請求を受けた場合は、ただちに受理して審査機関に諮問すべきところ、1年以上も放置したうえで、2022(令和4)年4月6日づけで請求を「却下」する旨決定し、審査請求人である開示請求者に通知しました。その「裁決書」は次のとおりです。

 


 

 「行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成十一年法律第四十二号)」第19条により、審査請求をうけた行政庁は「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問しなければなりません。この「情報公開・個人情報保護審査会」は、「第三者的立場から、公正かつ中立的に調査審議を行なっています」とのことですが(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/jyouhou/)、2020(令和2)年度の諮問・答申等件数の中身を見てもhttps://www.soumu.go.jp/main_content/000769483.pdf、厚生労働省が原処分の失当を指摘される事例が多いのを除けば、概ね原処分を認容する答申がだされるようであり(国交省の場合、25件中23件)、行政庁にしてみれば特段恐れるようなものでもないようです。

 その意味では、行政訴訟や国賠訴訟と同様に圧倒的に行政機関有利ということです。それどころかこの「審査会」自体が、総務省により運用されているわけで、「行政」に対する「司法」の独立のような一応の外見的特質すら持たないわけです。しかしながら、この「情報公開・個人情報保護審査会」の場合、裁判の場合とまったくことなる事情があります。すなわち、審査会の場合には、「インカメラ審査」がおこなわれ、「墨消し」(「黒塗り」)を施す前の、もとのpdfを見た上で審査手続きを進めることになります。そうなると、国土交通大臣は、問題となっているデータ改ざんを施す前のもとのpdfを審査会に提出しなければならないことになり、実際に開示したpdfとの差異(改ざんの痕跡)が一目瞭然となるわけです。いっぽう、裁判においては、被告国が「墨消し」(「黒塗り」)を施す前の、もとのpdfを提出し、それを原告には秘匿したまま裁判所(判事)だけがこれを見た上で、原処分の可否について判断するという「インカメラ審査」はおこなわれません。ということは、裁判所は「墨消し」(「黒塗り」)を施す前の、もとのpdfを見ずに、裁判するというおかしなことになるわけです。ここに「審査会」による審査と裁判所による裁判との、本質的な相違があるのです(https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100701090.pdf)。行政機関にとっては、裁判より審査会の審査の方が圧倒的に不利?なのです。改ざんしたことがあきらかな事例の場合、原処分庁(今回は国土交通大臣)は審査会に諮問することは、絶対に避けなければならないわけです。ここまでの5ページで示したことからも、改ざんの事実はあきらかなわけですが、であればこそ審査会による「インカメラ審査」は何があっても回避しなければならなかったということです。「審査会」による審査の結果、原処分が適法だったという「答申」が出れば、国土交通大臣は晴れて、審査請求を「棄却」する「裁決書」を書いて送付すれば良いのですが、間違ってもそんなことはできないわけで、ことここに至って、残された道は審査請求自体を受け付けずに門前払いする=「却下」するしかないという、なんとも情けないものです。

 「改ざんしたことがあきらか」だというのは根拠のない断罪だという人もいるかもしれません。もしそうなら、このような見えすいた小細工を弄せずに、法に従って審査会に諮問し、もとのpdfを提出してインカメラ審査をしてもらえばよいわけです。そうすれば、もとのpdfと実際に開示したpdfとのあいだには、「墨消し」(「黒塗り」)以外には何ら相違点がないことを審査会の委員にあきらかに示すことができるわけです。そうなれば、申立人の主張はなんの根拠もない誤謬推理であったとして、審査会は原処分は妥当であるとの答申を国土交通大臣に送付することになるのですから、こんな素晴らしいことはないわけです。にもかかわらず国土交通大臣が審査会の答申を回避したことそれ自体が改ざんの事実を示すものだったのです。

 今回の「裁決」については、以上で充分であり、これ以上論ずるまでもありませんが、ついでですから「裁決書」の支離滅裂ぶりを瞥見しておくことにします。

 まず、「理由」の「2」です。

 

 

 「プロパティ」中の「作成日時」(Creation date)は、「黒塗り」によっては変化せず、それらの加筆は「更新日」(Modification date)として記録されるのは、pdf生成プログラムの基本的仕様であることは、すでに本項目9ページ(2019年水害の隠蔽IV)で詳述してあるので、ここでは繰り返しません。この件について「裁決書」は、「変更となる可能性がある」としているのですが、さすがにそれがデタラメであることをある程度は認識しているようで、ずいぶん自信なさげです。本当にそのような仕様になっているのであれば、そう断言すれば良いのであり、大臣名で発した文書において弱々しく「可能性がある」などと腰の引けたことをいうべきではないでしょう。そのあとの、作成日時に関する情報は「文書の内容を構成するものとはいえない」とか、法令に「プロパティ中の『作成日時』に関する規定はない」などは、言うに事欠いての錯乱した文言です。

 つぎに、「理由」の「1」ですが、開示決定処分は「国民の権利義務に直接関係」するものであるが、当該処分による開示の実施いかんは、「国民の権利義務に直接関係するものではな」いというもので、これもまた、よくもまあこんなばかげたことを思いつくものだと呆れるほかありません。開示を決定しておいて、あとは改ざんした文書を送付することも許されるというロジックですから、語るに落ちるとはこのことです。さきほどの「理由」の「2」も同様ですが、これらの妄言は、改ざんをしたことを前提としなければ出てこない言い訳です。

 なお、「1⑴」で言及している最高裁判決(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/109/054109_hanrei.pdf)は、その当否についてはここでは触れませんが、妥当失当いずれであってもまったく無関係の、趣旨違いの事案に関するものであり、改ざんした文書を開示することも許されるとか、改ざんした文書の開示に対する審査請求は不適法だという趣旨ではありません。

 以上のような次第で、今回の「裁決書」は、「インカメラ審査」を何が何でも回避しなければならないがゆえに、勢い余って改ざんの事実を自白してしまい、自分の墓穴を掘る結果になっています。国土交通省は、この錯誤をみずから是正する機会を失ってしまいました。治水事業にたいする信頼回復は絶望的というほかありません。