文科省原発推進部局による積算被曝線量測定のトリック

2011年8月25日 

はやばやと「1mSv」達成宣言


 文部科学省は原子力緊急事態発生から約3か月経過した6月以降、福島県内の合計1641か所の保育所・幼稚園・小中高校・特別支援学校に1台ずつ放射線積算線量計(富士電機製、Dose-iγ)を配布し、教職員に身につけさせて幼児・園児・児童・生徒の登校時から下校時までの被曝量を測定している。最初の1か月分の集計結果から、次のとおり結論づけている(/radioactivity.mext.go.jp/ja/1370/2011/07/1307691_0722.pdf リンク切れ)。

測定の結果、教職員が受けた積算線量(時間平均)は、0~1.4μSv/hで推移しており、全体の平均値は0.1μSv/h であった。学校滞在時間を1 日8 時間、年間200 日と仮定すれば、平均では年間約0.2mSv(約0~約2.2mSv)の線量を受けることが予測される。

 最小の値が「0」というのはありえない。それはともかく、はじめの1か月の測定結果だけですぐさま学校における外部被曝の年間平均はわずか0.2mSvにとどまるのだと宣言してしまうのは拙速だろう。「20mSv/年、学校で3.8μSv/時間」の放射線被曝を許容する通達(4月19日付け「暫定的考え方」)に国内外から激しい批判が巻き起こったが、計ってみたら「20mSv」のたった100分の1に過ぎぬ! 「今年度の学校での被曝線量1mSvをめざす」とした5月27日の文部科学大臣の約束の成就はほぼ確実だ! 文部科学省が安堵の胸をなでおろして、ほくそ笑む姿が目にみえるようだ。SPEEDIとWSPEEDIによる放射性物質拡散予測を公表せず、3月15日から2週間にわたった激烈な放射性物質の降下の事実を隠蔽して数千万人の国民の被曝をひきおこした文部科学省は、何の反省もしないどころかひきつづき情報操作をおこなっているのだ。

 文部科学省の計算は、学校以外の地域社会・家庭での生活をまったく捨象していること、学校に関しても「年間200日」は実態より1割以上少なめであるうえ、屋内での被曝量を校庭の「10分の1」と過小に見積もっていること、給食による内部被曝も、吸入による内部被曝も一切度外視し外部被曝だけを考慮したものであることについては、前回指摘した(本紙第1036号)。今回の集計にあたってはそれらに加えて、次のようなトリックが施されている。


不適当なサンプリングと統計操作


 (1)児童・生徒等の被曝線量を測定するというなら、全員は無理として最低でも一校あたり数十人の児童・生徒の事例を測定すべきだろう。しかし文部科学省は、たった1名の「児童生徒等の行動を代表するような教職員」に持たせるという妥当性のない手法を取った。 

 (2)集計表には1か月間の測定総時間数と建物外にいた時間数が記されているのだが、 多くの学校で測定者らは、ほぼ一日中鉄筋コンクリート造の校舎内にいたようだ。

 屋外活動が禁止ないし制限されているからであろう。短期間ならいざしらず、数か月あるいはそれ以上にわたる「屋内退避」(?)措置の結果としてもたらされる被曝線量の低減は、除染活動など被曝原因そのものを取り除く措置によるものではない。屋外活動の制限は、あくまで緊急の一時的措置であり、長期的な被曝軽減政策と同様のものとして評価することはできない。当然ながら「学校での被曝線量1mSvをめざす」ことを目的としてとられた措置の結果として評価することはできない。

 文部科学省は、放射性物質の大量放出のあった3月後半、少なくとも東日本全域においてとるべきであった「屋内退避」措置を正当な理由なく回避しておきながら、いまごろになって除染措置を怠るための口実として利用している。文部科学省にとっての「屋内退避措置」は日本国民の被曝回避のためではなく、行政機関のメンツをたてるための方便なのだ。日本国政府は原子力緊急事態への対処を根本的に誤っている。

 (3)屋外活動が禁止ないし制限されている学校以外の、一切制限のない学校であっても、6月の1か月間の屋外活動がわずか数時間という例が目立つ。ゼロという学校も少なくない。極めて不自然なデータである。

 じつは調査がはじまった6月の時点で、教職員組合に対して「ほとんど職員室にいる教頭が線量計を持っている。これでは調査の意味がない」との指摘があった。全事例が教頭だったわけではあるまいが、屋外活動時間の少なさは歴然としている。今回の測定は、「児童・生徒の行動を代表」しているものとは到底いえない。

 (4)計算方法もおかしい。積算線量(μSv)を積算時間で割って「μSv/時間」で表示されているが、小数点以下1位までしか表示しない。そして「0.1」の学校がたいへん目立つのである。「0.11」から「0.14」を四捨五入で切り捨てて「0.1」にしているのである。その一方で「0.08」とか「0.09」は、四捨五入で繰り上がり「0.1」となるはずなのに、そのまま「0.08」「0.09」と表示している。小数点以下の有効数字が一桁の学校と二桁の学校が混在するおかしな表になっている。

 資料がpdf形式になっていて、表計算ソフトウェア(MS Excelなど)を使って再計算できないようにしてある。全部入力し直して計算しないと確実なことは言えないが、小数点以下第二位が繰り上がった件数より、切り捨てになった件数の方が多いだろう。結果を小さくするためのセコい作為である。平均値とされる「0.1μSv/h 」には問題があり、有効性が疑われる。

 (5)放課後や週休日(土曜、日曜)の扱いは不明である。教頭が携帯する事例があるくらいだから、平均的にサンプリングされているとは思えない。集計表を一瞥した限りでは、多くの学校で除外されているものと推測される。結果的に、屋外で長時間にわたり部活動をおこなう生徒の被曝は一切考慮されないことになる。室内でじっとしている児童・生徒(?)になりきった教員ばかりの不自然なデータである。


隠しきれない事実


 ところが時として真実のデータがまぎれ込むことがある。

 福島県立富岡高等学校は、福島第一原発から半径20km圏内の「警戒区域」、すなわち避難指示が出され立入禁止区域となっている双葉郡富岡町にあった。現在同校は、福島県立福島北高校(福島市)・福島県立光南高校(西白河郡矢吹町)・福島県立猪苗代高校(耶麻郡猪苗代町)・福島県立磐城桜が丘高校(いわき市)の4高校に分散して移転している。一括移転が不可能なためにいくつかの学校に分割して間借りしているのだ。これを「サテライト方式」という。「サテライト方式」とは衛星放送を使った遠隔授業のことではない。このほか、学校間連携校である静岡県立三島長陵高校における「JFAアカデミー福島」に移った生徒もいる(www.tomioka-h.fks.ed.jp/index.html)。

 福島市飯坂町にある福島北高校では屋外活動が1日あたり2時間までに制限されている。積算線量計を携帯した福島北高校の教員は1か月のあいだにわずか2時間35分間、屋外にいただけという。生徒であればもう少し時間が長いだろう。線量計を携帯した教員は、およそ生徒を「代表」するような生活パターンとは言えない。ところが、線量計を預けられた富岡高校国際スポーツコースの「サッカー」の担当教員は、じつに64時間30分間屋外にいた。1か月間の測定時間数も198時間と並外れて長いから、週休日に出勤した分が算入されているのかもしれない。授業のほか放課後にもサッカーの指導にあたっているに違いない。積算被曝線量は87μSvで、1時間あたりは0.44μSvと目立って高い線量となっている(集計表上は「0.4」)。

 従って、133時間30分は屋内にいたことになる。屋内の線量は福島北高校の教員のデータからみて0.10μSv/h程度だろう。これを差し引くと富岡高校の教員は、福島北高校の校庭で1.15μSv/h程度の放射線による外部被曝を受けていたことになる。ここで重要なのは、校庭で運動している教員と生徒は、巻き上げられた放射性物質を呼吸により吸入していることである。1.15μSv/hの放射線による外部被曝のほかに、吸入した放射性物質による内部被曝も受けているのだ。以上が、富岡高校の生徒の被曝量に相当する妥当な数値とみてよいだろう。


さまざまの疑問


 福島県庁が6月上旬に実施した測定によると福島北高校の校庭の放射線量は1.7μSv/hである(www.pref.fukushima.jp/j/monitaring.school0707.pdf リンク切れ)。これは例の文部科学省指定「サイコロの五の目」方式によるものである。すなわち校庭の5か所の高さ1mの測定値である。これと比べると文部科学省が1641校に配布した富士電機の個人積算線量計「Dose-iγ」は、かなり低めの数値を示している

 そういえば概ね0.1μSv/h以下となっている室内の数値も中高度汚染地域である福島県内の数値としては、ずいぶん低めである。中程度の汚染地域である茨城県の県央から県南での数値とほぼ同様かむしろ低めの数値である。 前述の四捨五入のトリックも関係しているが、「Dose-i γ」の傾向なのかもしれない。 

 以上のとおりの事実を踏まえて、今回の文部科学省の個人積算線量計測定による「平均0.1μSv/h、年間0.2mSv」との断定について判断する必要がある。