鬼怒川水害まさかの三坂 5

 

対岸から撮影された破堤直後の画像

 

 

Oct., 1,  2019

 

 「まさかの三坂」はここまでで、写真1から写真13を見てきました。これで破堤前の写真の全部です。

 ひきつづき破堤の直後とされる画像を分析します。対岸にある篠山水門の河川監視カメラ(CCTV)による画像です(とりあえず、上にスライド表示しました。「提供」元は、関東地方整備局で、ウェブサイトページから32コマの静止画をダウンロードできます。ホームページ(いわゆるトップページ)から辿るには、「ホーム > 防災 > 関東地方のこれまでの災害 > 平成27年9月関東・東北豪雨関連情報について > 鬼怒川の堤防決壊のとりまとめ>〔見出し:鬼怒川左岸21k付近の堤防決壊>静止画(鬼怒川左岸21k付近の堤防決壊 9月10日12時53分頃の静止画)〕」。これについては、左岸堤防それ自体を撮影したものではなく、数時間分の動画から切り出したきわめて品質のわるい静止画像なので、当初は越水・洗掘・破堤の状況を知る上では特段必要性はないと判断して、29枚の写真のなかには組み入れていませんでした。

 しかし「鬼怒川堤防調査委員会報告書」(3−3ページ)が次のとおり言っています。

 

左岸 21.0k 付近の堤防決壊は、決壊区間対岸に設置されていた篠山水門の CCTV 映像により、12 時 50 分頃確認された。

 

 3ページと4ページで見てきた通り、11:11の越水状況は国交省職員が巡回中に現認したもので、そのあと12:00から12:05に委託企業従業員と国交省職員がそれぞれ別個かつ相互連絡なしに、しかもおそらく11:11の越水確認を知らずに、現認のうえ写真撮影しています。写真には複数の住民の姿のほか、国交省職員もしくは委託企業従業員かもしれない姿も写っています。しかし、報告書をふくめてそのことについての言及はなく、撮影されたかもしれない写真も出てきていません。堤防上にいて破堤の瞬間を見ていた住民もいるのですが、関東地方整備局ないし堤防調査委員会は調査していないようで「報告書」にも一切言及がありません。

 上の言明は、破堤は12 時 50 分頃に起きた、ということを確認したということなのか、それともいつ破堤したかはよくわからないが12時50分頃になって確認した、ということなのか、いつものことながらさっぱり要領を得ない曖昧な物言いです。文言上は後者つまり「確認」したのが「12 時 50 分頃」だということですが、普段使っていない家庭用のカメラで日時時刻設定がされていないというのなら格別、「篠山水門の CCTV 映像」は当然秒単位で記録されているのに、「頃」というのもおかしな話です。

 しかも後述のとおり、破堤前後の動画映像はあるのに正当な理由なく「非開示」としていながら、そこから切り出した画像を5カットだけ「報告書」に載せたうえで、それらを含む32カットをウェブサイトで公表しているのです。11:11の大型ポンプ車による発見以前は、篠山水門のカメラはその地点に向いていたのではなく、漠然と洪水を撮っていたとしても、発見の一報以後は(どんなに遅くても、下館河川事務所から常総市役所へ通報した11:42)リモートコントロールでカメラの向きと画角を設定してこの地点を撮っていたはずで、この「頃」まで1時間以上の動画ファイルは隠匿されたままです。

 などなど、いつものことながら関東地方整備局の言うことについて考え始めると不信感ばかりが先立ってしまうのですが、だからといって考えないようにする、というわけにも行きません。「篠山水門の CCTV 映像」から切り出した静止画像について、番外篇として一瞥しておくこととします。

 

 まず、篠山水門の河川監視カメラ(CCTV)の位置を確認します。常総(じょうそう)市三坂(みさか)町上三坂の破堤地点の対岸、常総市篠山(しのやま)の、将門川(しょうもんがわ、平将門〔たいらのまさかど〕に由来)が合流する右岸21k付近に設置されているのが篠山水門であり、そこに水門それ自体と将門川と鬼怒川の状況を監視するためのカメラ、いわゆるCCTV( Closed Circuit TeleVision 閉回路テレビ)システムが設置されています。CCTVというと何か特別な、ご大層な仕組みのような気がしますが、放送 broadcast 用のテレビではなく、その場で完結している映像機器という程度の意味で、近年増加している防犯カメラや監視カメラもこれにあたりますし、定義上は車にとりつけるドライブレコーダーも含まれるはずです。

 ただし近年は、無線ないし有線で画像を外部へ送信し、さらにはそれがインターネット回線で送信されるようにもなっていて、もはや「CC ( Closed Circuit 閉回路)」でなくなるというおかしなことになっています。篠山水門のカメラは光ファイバー回線で下館河川事務所に直結していて、撮影方向や画角もリモートコントロールできるようになっています。動画ではなく数分毎の静止画像ですが、インターネット上にも配信されています。

 

 右岸21kにある将門川の篠山水門です。鬼怒川の右岸堤防上から上流方向をみたところです。遠景は雲がかかっていますが筑波(つくば)山です(2019年9月)。

 その下が、グーグルアースの2014年3月22日の衛星写真上で、この篠山水門から最初の破堤区間とされる範囲の中点とを結び、距離(430m)を表示したものです。

 

 対岸のやや上流寄りから見た篠山水門です。水害後に堤防の嵩上げ拡幅をおこなった際に、左岸堤外の樹林もすべて伐採したので、このように右岸の篠山水門を見通せるようになりました。

 安物の超望遠レンズ(フルサイズ換算で450mm)で撮影したものです。コントラストの低い薄ぼんやりした画像のサンプルとしてもご覧ください。

 将門川左岸側の機械室にあがる螺旋階段の中心柱先端がカメラです。背景は常総市営公園墓地神子女(みこのめ)霊園です。

 左下はグーグルアースで真上からみたところです。

 右下は、2015年9月10日すなわち水害当日の18:00に、将門川の水位を確認するためリモコン操作でぐるっと回転して撮ったCCTVの自撮り?です(水門の扉それ自体は写らないのですが、将門川は全く流れていませんでしたから、完全に降ろされていた(閉鎖)のがわかります)。左右の機械室の円錐形屋根と、神子女霊園が見えています。暮石の写り具合から、このCCTVカメラは、さきほどの素人が使う安物の望遠レンズよりはるかに粗い画像だということがわかります。下館河川事務所と光ケーブルで繋いであるのだそうですが、いまどきこんな粗い画像のカメラはどこにも売っていないだろうという、時代遅れのチープな機器です。

 



 これから32枚の画像を総覧するのですが、1枚だけ見本を表示します。27枚目、9月10日13時35分44秒のものです。

 画像にスーパーインポーズされている「鬼右21K」は、鬼怒川右岸21km地点という意味です。樹々のあいだから見えているのは破堤した堤防直下の自然堤防地帯に立地する住宅と、後背低地の水田・住宅・橋梁などです。若宮戸からと、ここからの氾濫水により冠水しています。向こうの台地は小貝川左岸の更新世段丘(こうしんせいだんきゅう、いわゆる洪積台地〔こうせきだいち〕)です。

 

 開示請求に対して関東地方整備局が開示した動画ファイルから切り出したのが次です。(アスペクト比〔画面の縦横比〕がほんの少し違っていますが、おなじカットです。)

 

 なにせ元の画像自体がかなり粗いので、大して変わらないといえば変わらないのですが、一部を拡大すると次のとおりです。1枚目がウェブサイトで公表しているもの、2枚目が開示した元の画像です。けっこうな違いがあるのです。

 

 本ウェブサイトを含めて、インターネット上のウェブサイトに画像を表示すると解像度が落ちます。基本的には、保存容量節約というプロバイダ業者の都合優先の規格設定によるものです。それでもある程度までは高精細な画像とすることはシステム上も経費上も可能です。「無料」の「ブログ」でもあるまいし、政府機関が粗略な画像を掲載する理由などありません。まして、ページへの表示とは別にファイルをダウンロードするしくみ(FTP)であれば、解像度の高いままで公開できるのです。にもかかわらず、関東地方整備局はわざと解像度を落としたものをアップロードしておいて、国民にはその粗い画像をダウンロードさせているのです。国土交通省のデータを保存しておくサーバー・コンピュータの負担を減らすためではなく、主権者である国民に対する情報の出し惜しみ、情報隠しなのです。読み取れる情報を伝えまいとする姑息な手法ですから、情報の改竄といってもよいでしょう。しかも、そうした作為をほどこしてあることさえ、(すぐには)わからないようにしてあるのです。

 動画から切り出して公表している静止画像は全部で32枚ありますが、そのうち、13:23以降の9枚だけは開示された動画ファイルで代替できます。しかし、13:23以前については関東地方整備局が「非開示」としているので、ウェブサイトで公開している低解像度の改竄データを見るほかありません。より重要な破堤前から破堤初期にかけての画面が粗いのですが、やむをえません。

 

 この「非開示」の理由たるや「顔写真および自動車のナンバープレートが写り込んでいる」ので「特定個人を識別することができる」からだというのです(平成28年1月8日、国関整総情第1952号−1、関東地方整備局長)。「顔」でなくて「顔写真」が写っているとは噴飯ものですが、そもそもあんな徹底的に粗い画像で「顔写真」?やナンバープレートが識別できるはずはありません。(本当に識別できるというのであれば、その部分をマスキングするかカットして開示すればよいのです。)

 こういうデタラメな口実をつけて、破堤前から破堤直後の画像を非開示にしておきながら、うっかり、5時間以上あとの「自動車のナンバープレートが写り込んでいる」動画ファイルを開示しているのです。あの螺旋階段頂上から、県道24号線の石下大橋方向を向いた直下の自動車を撮影した画像は、車型はわかるが車名はわからないというものです。つまりバンであることはわかるもののそれがトヨタのハイエースであるのか、日産のキャラバンであるのかの区別すらつかないのです。ナンバープレートに至ってはそれらしいものがあるものの文字が書いてあるのか否かすらわかりません。当然読み取れません。ここに「顔写真」があったところで個人の識別は無理でしょう。テレビドラマなどで、粗い画像をコンピュータでちょちょいのちょいとやると、精細な画像になるという素晴らしい絵空事が出てきますから、おおかた関東地方整備局にもそういう夢のような機械があるのでしょう……。

 

 ということで、例の若宮戸の「いわゆる自然堤防」の「騙し絵」といい、1966年の大臣告示による河川区域の指定にあたっては「茨城県による指定を踏襲した」という口から出任せといい、最重要な事実に関して平気で大嘘を吐出し続けるその同じ口が言うことは到底信用できないのです。こうなると開示された「元のデータ」それ自体もあやしいことになります。

 

 4年前にいち早く現地入りして自転車で走り回り水害の状況を伝えていた、まさのあつこが、若宮戸一帯の河川区域境界の大臣告示を開示請求したのに対し、関東地方整備局は解像度の極度に低い画像データを開示したようです。本来の大臣告示には、等高線こそないものの要所要所に数多くの標高データが記されているほか、耕地や林地の区別、樹種や作物の種類、それらの境界などがかなり克明に記されていたのですが、まったく読み取り不可能な、というよりそのようなことが記されていることすらわからないような、薄ボンヤリとした画像なのです。

 

 さきほどから、チープな画像だと言っているCCTV画像は、本当はもっと鮮明なのかもしれません。つまり、「顔写真および自動車のナンバープレートが写り込んでいる」ので「特定個人を識別することができる」というのは本当のことで、ついうっかり自白してしまったということかも知れないのです。この点については、さらに調査するとして、いまのところははじめの23枚はウェブサイトのデータ、のこりは開示資料からの切り出しデータを用いることにします。

 


破堤直後だという12:52:16の画像

 

 これが、最初のカットです。このカットは、関東地方整備局内に設置された「鬼怒川堤防調査委員会」の第2回会合(2015年10月5日、さいたま市の関東地方整備局庁舎内)の際に、次のような描き込みつきで提出されたうえ、「鬼怒川堤防委員会報告書」(2016年3月)にも掲載されています(http://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/index00000036.html 3−4ページに5コマ)。

 

 国交省やお雇い学者たちは、堤防が損傷する「決壊(けっかい)」と、「決壊」のうち堤体が基底部まで全部流失する「破堤(はてい)」とを区別しないでルーズな議論をしているのですが、ここでの「決壊」は、「破堤」を意味しているようです。(「決壊」と「破堤」の語義・用法については、別ページのなかほどで触れました。)

 

ここが最初の破堤箇所であり、その幅は「約20m」である。

 

というのがこのカットの重要データです。これを平面図・衛星写真上で確定するのが最初の作業です。

 まず、「決壊幅:約20m」とある地点の向こうに見えている住宅や遠景を特定します。

 下の衛星写真は、前ページで写真10の撮影地点と画像の左右端の範囲を図示(黄実線)した時のものです。写真10では、茶瓦の住宅4と住宅5の間から(黄破線)、県道357号線をへだてた住宅7が見えていましたが、こんどは撮影点の違いのほかカメラが対岸の水門のかなり高い位置にあるため、住宅4の茶瓦の頭越しに住宅6が見えています。 

 さらにその住宅6の頭越しに別の住宅が見え、そのうえさらにその頭越しに高架道路が見えています。

 住宅6の頭越しに見えている住宅は一見すぐ近くにあるようですが、かなり遠方にあります。望遠レンズの画像の特徴です。番号はふりませんが黄丸の「遠景の住宅」の2012年撮影のストリートビュー画像も示しておきます。高架道路は、破堤地点から1.2km先で広域農道「アグリロード」が関東鉄道常総線をまたぐ橋梁です。

 グーグルアースの衛星写真画像(2014年3月22日)でみると、次のように並んでいます。


 

 CCTV画面上で縦にならんでいる被写体の位置関係を、平面上に示すと次のようになります。赤細線は、CCTVカメラと最初の破堤区間(F)の両端を結んだうえ延長した直線、黄細線はカメラと21k距離ポールおよびその背後に見える住宅3とを結んだ直線です。

 (住宅8が例の「ヘーベルハウス」です。)

 篠山水門は右岸21k付近にあります。将門川左岸側の螺旋階段上のCCTVカメラは右岸の21k距離ポールから約100m上流です。破堤地点は左岸の21k距離ポールの約20m下流です。

 と、コトバで言い、またこの1コマめの写真をみたときの印象で、なんとなく篠山水門のCCTVカメラは、破堤地点を真正面から撮影しているように誤認してしまいますが、実際にはかなり斜めからの画像だったのです。堤防も微妙にうねっていますが、カメラはおおむね20度ほど斜に構えているわけです。

 例えば堤防の破断面は一般的に河道側に「ハ」の字形に開くのですが、下流側と上流側では見え方にも違いが出ることになります。また、越水・破堤による氾濫流は、もとより堤防に直角に噴出するわけでもないのですが、たとえばこのカットで住宅4は氾濫水を真正面から垂直に受けているのではないことに留意することにします。

 

 国交省の写真に赤で追記された「決壊幅」の区画線が一見意味不明に斜めに描かれているのは、CCTVが堤防を正面からではなく斜めに撮影していることを示したつもりだったようです。いまさらこんなところで、不適切な図について素人が下手な再現作業をするまでもなく、2015年9月の時点で関東地方整備局河川部が平面図上で正確な位置関係を示すべきだったのです。手前に樹木があって堤防は見えないのに、どうしてそこが破堤断面だと言えるのかも不思議です。「約20m」と書いてありますが、グーグルアースの距離計で測ると17mです。技術系の専門職でなく、広報担当の素人官僚が安易な態度で作図するからこういうデタラメな図になるのでしょう。「堤防調査委員会」の委員たちは、こんなものを見せられても平気だったわけです。

 


破堤した堤防から注意を逸らす関東地方整備局

 

 破堤地点と破堤幅を確定する、というのが当面の課題です。破堤の原因をあきらかにするための前提となる作業です。原因解明の目的は、もちろん再発防止です。越水ですめばまだしも、破堤となるととんでもないことになるわけで、いかにして破堤を防ぐことができるか、その方策を計画し、そしてもちろんただちにそれを実施しなければならないわけです。

 

 若宮戸は違います。若宮戸には堤防がなかったのですから、破堤どころか越水すら起きなかったのです。そもそもないものは越えたり破れたりしようがないわけで、起きたのは「溢水(いっすい)」だというのですが、家庭の蛇口のパッキンが硬化してポタポタ水漏れする程度のことではなく、氾濫の態様や程度は、破堤によるものとほぼおなじだったのです。第一には、河畔砂丘を全部保存すべきだったのであり、もし河畔砂丘を一部でも破壊するのであれば、それ以前に堤防を建設しなければならなかったのです。事後では間に合いません。河畔砂丘を掘削し砂として売り飛ばして真っ平らにしてしまい、堤防もつくらずに放置して必然的に氾濫を引き起こしたのです。若宮戸については、異なった枠組みで考えなければなりません。

 

 ところが、破堤の原因をあきらかにすることに積極的でない団体・個人がけっこういるのです。いる、どころではありません。こう言ってはなんですが、鬼怒川水害に関して発言する団体や、その団体に属する個人のうちかなりの割合が、そんなことにはとんと関心がないのです。ない、どころではありません。破堤の原因をあきらかにすることを積極的に回避する行動ばかりとるのです。

 少し寄り道になりますが、関東地方整備局河川部の広報担当者と、彼らに都合よく引き回され無事任務を果たした「鬼怒川堤防調査委員会」が、この三坂の破堤に関して、何を言っているかを見ておくことにします。空疎な与太話に付き合う義理はないのですが、どうやるとダメかを知るという点では少々役にたつかも知れません。

 関東地方整備局河川部の広報担当者が作成し、「専門家」とは名ばかりの委員たちや不勉強な報道企業の記者・編集者たちが唯々諾々とこれに従った「鬼怒川堤防調査委員会」資料が、さきほどの1コマ目についでとりあげた2コマ目はつぎのものです。ウェブサイトで公開している切り出し静止画32枚のうち8枚目です。

 

 

 12:52から2分後で、特段大きな変化はないようです。変化といえば、描き込みのとおり、住宅4が流失したことです。というより、それだけを示すためにあえて切り出して「堤防調査委員会」の委員に示したものです。

 意味のない破線四角を描き込んで、破堤地点の水面の変化がわからなくなっています。

 水害の直後からしばらくの間、現地調査と称して、いろいろな「専門家」がたいてい関東地方整備局のご案内(送迎、説明)つきで三坂を見物して、似たり寄ったりの陳腐な感想文を書くことになります。落堀(おちぼり、ただしくは押堀〔おっぽり〕)、破壊された住居、傾いた住居、流されて泥だらけの自動車、一見被害の甚大さに心を痛めている風ですが、その原因となった堤防の崩壊(破堤)にはまったく関心がないのです。どうして破堤したのかをあきらかにしなければ、今後同様の災害を防ぐために何をしなければならないかは、絶対にわからないのですが、そんなことをはじめた日には、関東地方整備局のご機嫌を損ねてしまい今後一切お声がかからなくなるわけですから、何があっても破堤の状況、まして破堤の原因には触れないようにしなければなりません。「原因」といえば線状降水帯という自然現象で、それが途中を省略していきなり甚大な被害をもたらすことにして、もっぱらソフト対策とかいう、破堤を所与の事実としたうえでの避難奨励に落とし込むことになるのです。

 

 「ソフト」とは「ソフトウェア」のことのようです。堤防(とダム?)を整備するのがハードウェアで、ハザードマップをふまえた避難計画を机上で立てるのがソフトウェアだというつもりなのでしょう。これはハードウェア hardware とソフトウェア software ではありません。完全な語の誤用です。

 hardwareとsoftwareは、コンピュータ(なかんずくノイマン型コンピュータ)に関する用語です。コンピュータではないのに、河川施設をhardwareと呼び、避難行動をsoftwareと呼ぶべきではありません。あるいは、ハードウェア・ソフトウェアは比喩的な意味で使っているのだというのかもしれません。比喩もけっこうですが、河川管理と避難行動は別の事柄であり、両者が一体となってある動作をする、ある機能を果たすというものではありませんから、こんなところでコンピュータ用語を持ち出す必要性も妥当性もありません。

 大昔ですが、スキーの板や靴はハードウェアで、服や手袋はソフトウェアだと言った人がいました。wareがわからず、てっきりwearだと思ってのことでしょう。当今、よくわからない「ウェア」を勝手に取ってしまった「ハード」と「ソフト」が流行っているようで、最初に誰かが意味もわからずに言った戯言を、これはいい!とばかり皆で繰り返しているのです。

 

 数時間分の動画からたった5カット切り出して見せる際にも、すでにこの思考形式へと誘導するわけで、「家屋の流失」「樹木がなくなる」といういうように堤防の向こう側にだけ注意を向けさせるのです。「家屋の流失」「樹木がなくなる」は、その手前の破堤の事実を示すものだから堤防にも関心があるのだと言い訳するかもしれませんが、だったら例の加藤桐材工場が「流失しなかった」こと、その脇のケヤキが「なくならかった」こと、つまり越水していながら破堤しなかった理由を説明すべきだったのです。説明するどころか、そんなことには全然気づかないのです。

 このような、堤防の向こう側(堤内)への視点誘導による破堤原因究明回避方針は、この2カット目にもありありと現れていて、とうとう邪魔な破線四角で水面を隠してしまっています。

 

 ただし、これは世間の興味関心を誘導するのが職務である国土交通省河川部の広報担当者レベルの話です。技術系職員は越水による破堤などという、子供騙しの皮相な言訳でなんとかなるとは当然思っていないわけで、現地でのボーリング調査はもちろん、B区間が破堤しなかった原因をさぐるために残った堤体を数十mも縦断方向に斜めスライスして土質構造をさぐっています。土木学会に結集する「専門家」のなかで唯一この件に言及しているのが埼玉大学の田中規夫教授です。

 なお、田中教授は、八間堀川(はちけんぼりがわ)の大生(おおの)小学校近くの破堤地点では、八間堀川の右岸側堤内地から八間堀川河道への流入がおきたと説明しています。

 

 また、本来なら押堀ができた直上に本堤防を再建するなどしてはならないのです。まさか採砂のために掘削しすぎて地盤が不安定化している堤外側高水敷に新造するわけにもいきませんから、このさい被害をうけた堤内地側を買収し徹底的な浸透対策を施したうえで築堤すべきだったのです。

 そうすれば、破堤した地点、とくにさほど越水していたわけでもないのに、真っ先に破堤したF区間を地下10mくらいまで掘って調べることもできたでしょうし、行政行為のうえでは形式上河川区域外ではあるものの、実質的には川裏側法面の中途に建っているB区間脇の加藤桐材工場直下の地盤も全部掘削して地盤構造をあきらかにし、越水していたのに破堤しなかった理由をあきらかにできたはずです。越水していたのに破堤しなかったB区間について、そのメカニズムを究明することは、F区間がたいして越水していなかったのに真っ先に破堤したのはなぜか、そのメカニズムを究明することとは、じつは同じことなのです。関東地方整備局河川部の広報担当者は、世間がB区間の謎に気づかないようにするために、決壊と破堤を区別せず、「決壊幅約200m」と一緒くたにしてしまい、子供騙しの単純な「越水破堤論」を定着させようとしたのでした。この項目「まさかの三坂」1ページがこの点の指摘から始めたのは、このゆえです。

 

 写真は、作っている最中に不同沈下していた仮堤防と、完成から2年しかたっていないのにもう不同沈下が目立っている本堤防です。仮堤防は上流側のケヤキの脇あたりから撮影したもので、右が鋼矢板の締め切りです。(立ち入り禁止となっているフェンス内にいるのは、さいたま市の国土交通省関東地方整備局の中型マイクロバスで連れてこられた、どこかの団体です。おそらく外国の政府機関でしょう〔2015年12月〕)。その下の本堤防も同じく上流側から、ただし30mくらい下流側にくだって撮影したもので、「21.00K」の表示ペイントと、突き当たりに同じ家が見えます。遠景はアグリロードの常総きぬ大橋です。

 まだ一部しか見ていませんが、現在進行中の「鬼怒川プロジェクト」(洪水対策のハード?部門)で築堤された区間で、くぼみができて水溜りとなっているのはここだけです。天端のアスファルト舗装は、河道側にゆるやかな雨勾配がつけられているので、本来なら水溜りはできないようになっています。ここは車両通行止めなので、たとえば50トンも積んだ過積載のダンプが通行したために舗装が傷んだなどということはありません(2019年9月)。

 

  ダンプ道路が下り切った先の高水敷にできた洗掘痕(説明図右下の注記「洗掘痕」。別ページ参照)には触れない、気がつかない、見なかったことにする、というのもこのことに関係があるのです。高水敷の段附部分(段差約3m。ただし、どこまでを高水敷とするかは地図により区々です)の崖面崩壊と大量の砂の流出は、不思議で怖るべき現象なのですが、日本中でこのことに関心があるのは 数人のようです。(うしろは、仮堤防の河道側に設置された浸透防止のための鋼矢板による締め切りで、現在は撤去されて存在しません。2015年12月)



破堤直後の変化(12:52:55)

 

 堤防に話を戻します。「堤防委員会」資料の2カット目は、32枚のなかでは110秒後の8枚目でしたが、通り過ぎた2枚目に戻ります。

 左がさきほどの1枚目の12:52:16で、右が2枚目の12:52:55です。つまり39秒後です。

 


 住宅4がなくなったそのうしろに住宅の切妻部分と屋根があります。間が飛んでいるのでよくわからないのですが、先に東側(画面では上)の住宅が基礎から引きちぎられ反時計回りに90度回転したうえ、2階部分が崩壊落下して切妻がこちらに向いていたのが、住宅4が左側に倒れこむように崩落したために直接見通せるようになったようです。


 

 しかし、破堤状況、破堤原因を究明する上で重要なのは、堤防やその手前の状況です。

 

❶ 破堤したF区間です。画面右の樹木から電柱のように見える樹木の幹、そして住宅4の右付近まで、左の12:52:16の水面の辺縁(赤線)より、右の12:52:55の水面の辺縁(黄線)が下がっています。

 

❷ 21k距離ポールの向こうの住宅3の付近、つまりD区間からE区間にかけてです。すでに破堤しているF区間に近い画面右で、左の12:52:16の水面の辺縁(赤線)より、右の12:52:55の水面の辺縁(黄線)が下がっています。

 

 20m程度の破堤幅で数分間のうちに河道の水位が大きく低下するはずはありません。堤体底部の洗掘が進行し、流入する氾濫水の落ち込み方が変化したのが、局所的な水位の低下としてみえているように思われます。

 この現象を推測し、模式図を示します。この部分の横断方向の断面図で、茶が高水敷から連続する堤体基部と堤内地の地盤面、青が流入する氾濫水の水面で、1カット目が破線、39秒後の2カット目が実線です。洗掘による地盤面の低下で局所的に水面が低下したものと思われます。CCTV視角は縦方向に拡大表示してあります。地盤面の形状など、現地調査で見えもしないのに「しっかりした地盤がある」とテレビカメラの前で喋らされた堤防調査委員会委員長の安田進先生のように、見てきたようなことを描いてしまい恐縮いたします。

 ❸ 次は、水面の変化ではなく、別の現象です。最初にF区間が破堤すると、そこでできた破堤断面は下流側では下流方向へと漸進していきます。これがG区間の破堤断面です。 白く見えているのは、天端のアスファルト舗装だと思われますが、左の12:52:16の橙線から、右の12:52:55の緑線にズリ下がったように見えます。堤防全体が沈下したというのではなく、洗掘が進むことにより天端のアスファルトが崩落したように思われます。


 

 解像度を落としていただいたお陰様で、問題にしている水面の変化や天端のズリ下がりが、画素のひとつ分くらいであり、いささか無理な読み取りではありますが、次の3枚目ではどうでしょうか。この現象が継続進行していれば、気のせいではないと言えるでしょう。

 左が2枚目で、右はそこから14秒後の3枚目のそれぞれ部分拡大です。さきほどの現象、つまりD区間からE区間にかけての水面変化が、ほんの14秒のことでごくわずかながらも進行しています。特に住宅3の切妻の中心あたりです。


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