「政治的行為」とは何か 1

1 選挙のたびごとの「通達」

 

 下に全文引用したのは、選挙の際に文部科学省が都道府県・政令指定都市の教育長に出す通達である(2015〔平成27〕年の統一地方選の例。アンダーラインと本文【 】内の段落番号は引用者。http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1356104.htm)。

 本文末尾(第7段落)にあるとおり、文科省は都道府県教育長に対して、この文書の写しを都道府県立学校長に伝達するだけでなく都道府県内の全市町村教育長にも伝達したうえで、それを各市町村内の全市町村立学校(小学校・中学校等)の校長に伝達させるよう指示している。こうして「周知徹底」された都道府県立学校・市町村立学校の校長は、この文書を当該学校の全教職員に伝達することになる(通例は朝会等で口頭指示のうえ、文書を職員室内に掲示するようだが、場合によっては印刷して配布する)。これが選挙のたびごとに必ず実行されるのである。

 この指示文書は、わざと「誤解」されるよう仕組んである。それは、「教職員等の選挙運動の禁止」という標題においてとりわけ顕著である。選挙運動には禁止されている選挙運動と禁止されていない選挙運動とがあって、この文書ではそのうちの禁止されている選挙運動について根拠法をあげて説明しているのであるが、そうとは到底受け取れない。あたかも「教職員の選挙運動」がすべて禁止されているかのような印象を与えるのである。文法的にいってそうとしか受け取れない。誤読ではなく誤記、しかも故意の誤記である。

 印象操作はタイトルだけではない。本文で憲法、教育基本法、教育公務員特例法、国家公務員法、公職選挙法等々について言及したあと、さらに「記」以下でふたたびそれら諸法について述べているのであるが、まず本文についてみてゆくと、以下のとおり不適切かつ舌足らずである。

 第2段落では、「公務員は、全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではなく」と憲法第15条を「引用」して、それを以って「教職員等の選挙運動の禁止等」の根拠としている。これが、憲法第15条の誤った解釈であることは前ページのとおりである。しかしながら、文科省はここでこの字句が憲法条文の引用であるとはひとことも言っていない。鉤括弧でくくっているわけでもない。文部科学省は、国家公務員法と地方公務員法が規定する一般職の「公務員」が、憲法第15条において「全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではな」いと規定されている「公務員」ではないことをよく知っているからである。読み手である都道府県教委と市町村教委職員や校長そして教員らが、勝手に「誤解」することを期待し、故意にこのような表現にしている。そのうえで、「公共の利益のために勤務すべき職責があり、その政治的中立性を確保するとともに、行政の公正な運営の確保を図る必要がある」等の、抽象的一般的な(誤った)原則を呈示しておいて、その後に様々の人権侵害的な指示事項を羅列することになるのである。これは文部科学省以外の官庁が常々弄する手法であり、ここで文科省がそれを真似ているのである。

 第3段落の前半では、学校教育法制をあげて、そして第3段落の後半では、選挙法制における「教育者の地位利用による選挙運動の禁止」の規定をあげて、それぞれ教員らの政治的権利の剥奪を強弁する。(これらの点についてはそれぞれ別項で取り扱うこととする。)

 第4段落と第6段落では、教育公務員以外の職員や教育委員会事務局(通例は「教育庁」というが、たんに「教育委員会」と呼称されることが多い)の職員、さらには教育委員についてついでに言及したうえで、これら規制について都道府県内の全公立学校の全教職員に伝達するよう指示するのであるが、その際、第5段落のとおり、「厳正な措置」を取れと命令口調で指示しているのである。きわめて威圧的である。


 

 

26文科初第1231号

平成27年2月27日

各都道府県教育委員会教育長 

各指定都市教育委員会教育長 殿

文部科学事務次官 山中 伸一

教職員等の選挙運動の禁止等について(通知)

  【1】本年4月に統一地方選挙が行われる予定です。

 【2】公務員は、全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではなく、公共の利益のために勤務すべき職責があり、その政治的中立性を確保するとともに、行政の公正な運営の確保を図る必要があることは言うまでもありません。

 【3前半】特に、教育公務員については、教育基本法(平成18年法律第120号)等における教育の政治的中立性の原則に基づき、特定の政党の支持又は反対のために政治的活動をすることは禁止されています。さらに、教育公務員の職務と責任の特殊性により、教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)において、公立学校の教育公務員の政治的行為の制限は、国家公務員の例によることとされ、人事院規則で定められた政治的行為が禁止されています。また、【3後半】公職選挙法(昭和25年法律第100号)においても、選挙運動等について特別の定めがなされているところです。このたびの選挙に当たっては、下記の事項に留意の上、教育公務員が個人としての立場で行うか職員団体等の活動として行うかを問わず、これらの規定に違反する行為や教育の政治的中立性を疑わしめる行為により、学校教育に対する国民の信頼を損なうことのないよう、その服務規律の確保について徹底をお願いします。

 【4】また、公立学校の教育公務員以外の職員及び教育委員会事務局職員等については、地方公務員法(昭和25年法律第261号)及び公職選挙法により政治的行為が制限されているところであり、公務員の政治的中立性を疑わしめる行為により、教育行政に対する国民の信頼を損なうことのないよう、その服務規律の確保について徹底をお願いします。

 【5】もとより、上記の制限に違反することは許されず、非違行為を行った者には、厳正な措置をとられるようお願いします。

 【6】さらに、教育委員会の委員についても、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)及び公職選挙法において、積極的に政治運動をすること及びその地位を利用して選挙運動をすることは禁止されています。

 【7】以上の趣旨を貴委員会内、所管の学校及び教職員に周知徹底くださいますようお願いします。また、都道府県教育委員会におかれては、域内の市町村教育委員会に対し、以上の趣旨をそれぞれの委員会内、所管の学校及び教職員に周知徹底し、服務規律を確保するよう御指導方よろしくお願いします。

1 地方公務員法及び教育公務員特例法関係

(1)地方公務員は、地方公務員法第36条により、一定の政治的行為の制限がなされていること。

(2)公立学校の教育公務員(公立学校の校長、副校長、教頭、主幹教諭、指導教諭、教諭、助教諭、養護教諭、養護助教諭、栄養教諭、講師、実習助手及び寄宿舎指導員)の政治的行為の制限については、教育が国民全体に直接責任を負って行われるべきものであり、一地方限りの利害にとどまらないという教育公務員の職務と責任の特殊性から、教育公務員特例法第18条により、国家公務員の例によるものとされていること。これにより、国家公務員法第102条及び同法に基づく人事院規則14-7(昭和24年人事院規則14-7)に規定されている政治的行為の制限が適用されるものであること。

(3)したがって、公立学校の教育公務員について制限されている政治的行為は、公立学校の教育公務員以外の地方公務員について制限されている政治的行為とは異なるものであり、かつ、その制限の地域的範囲は勤務地域の内外を問わずに全国に及ぶものであること。

(4)本制限は、公務員としての身分を有する限り、勤務時間内外を問わず適用されるものであり(人事院規則14-7第6項第16号については勤務時間内に限られる。)、休暇、休職(いわゆる在籍専従も含む。)、育児休業、停職等により現実に職務に従事しない者にあっても異なる取扱いを受けるものではないこと。

 

2 公職選挙法関係

(1)公務員がその地位を利用して選挙運動をすることは全面的に禁止され、また、その地位を利用して候補者の推薦、後援団体の結成に参画するような選挙運動とみなされる行為をすることも禁止されていること。(公職選挙法第136条の2)

(2)学校教育法に規定する学校の長及び教員(以下「教員等」という。)は、学校の児童生徒等に対する教育上の地位を利用して選挙運動をすることができないこと。(公職選挙法第137条)

(3)(1)については公務員としての身分を有する限り、(2)については教員等である限り勤務時間の内外を問わず適用されるものであり、休暇、休職(いわゆる在籍専従も含む。)、育児休業、停職等により現実に職務に従事しない者にあっても異なる取扱いを受けるものではないこと。

 

3 その他

(1)選挙運動等の禁止制限規定に違反する行為は、公務員の服務義務違反として懲戒処分の対象となるばかりでなく、上記2の場合にあっては、処罰(2年若しくは1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金、選挙権及び被選挙権の停止)の対象となるものであること。(公職選挙法第239条第1項第1号及び第239条の2第2項並びに第252条第1項及び第2項)

(2)具体的事例について判断するに当たっては、適宜関係法令や関係判例を参照すること。

(3)第183回国会において成立した公職選挙法の一部を改正する法律(平成25年法律第10号)により、ウェブサイト等を利用する方法による選挙運動用文書図画の頒布が公職選挙法においては解禁されたが(公職選挙法第142条の3第1項)、公職選挙法の選挙運動等の禁止制限規定に該当するものは禁止されているほか、政治的目的をもってなされる行為であって人事院規則14-7第6項各号に掲げる政治的行為に該当するものは国家公務員法において禁止されていること。 

 

• (参考)教育公務員の違反行為の具体例  (PDF:96KB)

• (参考条文)教職員等の選挙活動の禁止等について



 そのうえで、「記」として、公務員法制・教育法制・選挙法制をあげて、規制について順次説明している。教育法制・選挙法制については後ほど検討することとし、以下、このページでは公務員法制について検討することにする。

 

 「1」では、地方公務員である都道府県立・市町村立学校等の教員に対して、国家公務員法の制限・処罰規定が適用される旨述べたうえで、国家公務員法に基づく「人事院規則14−7」に言及する。そして、法律の条文や人事院規則などは、「(参考条文)」として抜粋が示されている。

 「参考条文」の冒頭に示されるのは、憲法第15条第2項「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」である。前述のとおり、文部科学省は、公立学校教員が憲法第15条にいう「公務員」でないことを知っているから、通達本文では決してそうは書かないのであるが、このように紛らわしく憲法条文を引用して、読み手が勝手に「誤解」するように仕向けている。まんいち問い質された際には、いえいえけっして教員がここでいう「公務員」だとは言っておりせん、と言い逃れるつもりなのである。

 ただし、それは当初はそうだったのではあるが、何十年も踏襲しているうちに現在では本気で根拠条文だと思い込むようになっている可能性もある。誤った憲法解釈の自家中毒現象である。

 

 

2 「人事院規則14−7」と「運用方針について」

 

 憲法条文の誤った「引用」のほかにもトリックがある。すなわち、「参考条文」として「人事院規則14−7」を全文引用しておいて何らの説明もしないこと、さらに同規則に関する人事院の運用通達(昭和24年10月21日、法審発第2078号、人事院事務総長発「人事院規則14―7(政治的行為)の運用方針について」)に一切言及しないことである。これは、中央省庁当局が当該省庁の一般職国家公務員に対して常日頃からおこなっていることであり、文部科学省はここでもその詐術を真似ているのである。

 文部科学省は、ほかの場面でも「人事院規則14−7」だけを引用して、「運用方針について」の引用・説明を怠る。たとえば、「18歳選挙権」の施行に際して、文部科学省は総務省と共同して全国の高校生向けに「私たちが拓く日本の未来」と題するパンフレット(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shukensha/1366851.htm http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/senkyo/senkyo_nenrei/01.html)を作成のうえ配布した際、あわせて教員用資料(「活用のための指導資料」)を作成し配布した。そこでも人事院規則14−7を引用して全項目について説明しているのであるが、運用通達については次のように言うのみで、全文引用しないのはもちろん、一部引用することもしない。当然、内容については一切言及しない。

 

なお,以上については,「人事院規則 14-7(政治的行為)の運用方針について(昭和 24 年 10 月 21 日法審発 2078)(人事院事務総長発)」においてさらに詳細な解釈が示されて いるので,そちらも適宜参照していただきたい。 

 

 「人事院規則14−7」だけを示して、「運用方針について」を示さないことで、上述の通達の表題同様、受け手が「誤解」しやすくなっている。「人事院規則14−7」は憲法など意に介さぬ強硬姿勢を示しているのであるが、その「運用方針について」はその一部分についてではあるが、少々穏便な表現をしてヴォルテージを下げて見せたりしている。それだけでなく実際に規制を緩めている(ようにみえる)点もある。一概には言えないのであるが、総体的には運用通達を示さずに「人事院規則14−7」だけを示す方が、読み手に対して与える威嚇効果は高い。

 とはいっても、運用通達文書を引用して説明しさえすればよいというのではない。「人事院規則14−7」それ自体もそうであるが、運用通達文書は曖昧で不適切な言葉遣いに満ちていて、どう理解すべきか皆目見当がつかない記述が多い。かろうじて読み取れる趣旨も、最高法規たる憲法に反する内容や道理に反する内容ばかりなので、運用通達を読むことで余計に混乱をきたし、なおさら疑問を生ずるともいえる。アメリカ合州国のいわゆる「ハッチ法 Hatch Act 」や判例を下敷きにして作った文書であって、日本国憲法や道理に反するものであり理解不可能なのは当然である。

 以下、「人事院規則14−7」と「運用方針について」について検討する。二つを別個に見るよりは、二つ並べたうえで検討するのが適当である。まず両文書の全文を示す。左が「人事院規則14−7」、右が「運用方針について」である。(内容についてはこのあと項目ごとに逐一検討するので、当面、全体の分量と項目について見当をつけるために、とりあえずざっとスクロールして一瞥いただきたい。なお、「運用方針」と、それが言及する「人事院規則14−7」の各項目とが横に並ぶように、「規則」に適宜改行を挿入してある〔小画面やタブレットではうまく表示されない場合もあるのでご了承ください〕。赤字・青字は引用者によるもの。)


人事院規則一四―七(政治的行為)

 

(昭和二十四年九月十九日人事院規則一四―七)

最終改正:平成二七年三月一八日人事院規則一―六三

 

 

 

 人事院は、国家公務員法 に基き、政治的行為に関し次の人事院規則を制定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(適用の範囲)

 

1  法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定は、臨時的任用として勤務する者、条件付任用期間の者、休暇、休職又は停職中の者及びその他理由のいかんを問わず一時的に勤務しない者をも含むすべての一般職に属する職員に適用する。ただし、顧問、参与、委員その他人事院の指定するこれらと同様な諮問的な非常勤の職員(法第八十一条の五第一項に規定する短時間勤務の官職を占める職員を除く。)が他の法令に規定する禁止又は制限に触れることなしにする行為には適用しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2  法又は規則によつて禁止又は制限される職員の政治的行為は、すべて、職員が、公然又は内密に、職員以外の者と共同して行う場合においても、禁止又は制限される。

 

 

3  法又は規則によつて職員が自ら行うことを禁止又は制限される政治的行為は、すべて、職員が自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人、使用人その他の者を通じて間接に行う場合においても、禁止又は制限される。

 

 

 

 

 

 

 

4  法又は規則によつて禁止又は制限される職員の政治的行為は、第六項第十六号に定めるものを除いては、職員が勤務時間外において行う場合においても、適用される。

 

 

 

 

 

  (政治的目的の定義)

 

5  法及び規則中政治的目的とは、次に掲げるものをいう。政治的目的をもつてなされる行為であつても、第六項に定める政治的行為に含まれない限り、法第百二条第一項の規定に違反するものではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一  規則一四―五に定める公選による公職の選挙において、特定の候補者を支持し又はこれに反対ること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二  最高裁判所の裁判官の任命に関する国民審査に際し、特定の裁判官を支持し又はこれに反対すること。

 

 

 

 

三  特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四  特定の内閣を支持し又はこれに反対すること。

 

 

 

 

 

五  政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること。

 

 

 

 

 

 

 

 

六  国の機関又は公の機関において決定した政策(法令、規則又は条例に包含されたものを含む。)の実施を妨害すること。

 

 

 

 

 

 

七  地方自治法 (昭和二十二年法律第六十七号)に基く地方公共団体の条例の制定若しくは改廃又は事務監査の請求に関する署名を成立させ又は成立させないこと。

 

八  地方自治法 に基く地方公共団体の議会の解散又は法律に基く公務員の解職の請求に関する署名を成立させ若しくは成立させず又はこれらの請求に基く解散若しくは解職に賛成し若しくは反対すること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(政治的行為の定義)

 

6  法第百二条第一項の規定する政治的行為とは、次に掲げるものをいう。

 

一  政治的目的のために職名、職権又はその他の公私の影響力を利用すること。

 

 

 

 

 

 

 

二  政治的目的のために寄附金その他の利益を提供し又は提供せずその他政治的目的をもつなんらかの行為をなし又はなさないことに対する代償又は報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益を得若しくは得ようと企て又は得させようとすることあるいは不利益を与え、与えようと企て又は与えようとおびやかすこと。

 

三  政治的目的をもつて、賦課金、寄附金、会費又はその他の金品を求め若しくは受領し又はなんらの方法をもつてするを問わずこれらの行為に関与すること。

 

 

四  政治的目的をもつて、前号に定める金品を国家公務員に与え又は支払うこと。

 

 

五  政党その他の政治的団体の結成を企画し、結成に参与し若しくはこれらの行為を援助し又はそれらの団体の役員、政治的顧問その他これらと同様な役割をもつ構成員となること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六  特定の政党その他の政治的団体の構成員となるように又はならないように勧誘運動をすること。

 

 

 

 

七  政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること。

 

 

八  政治的目的をもつて、第五項第一号に定める選挙、同項第二号に定める国民審査の投票又は同項第八号に定める解散若しくは解職の投票において、投票するように又はしないように勧誘運動をすること。

 

九  政治的目的のために署名運動を企画し、主宰し又は指導しその他これに積極的に参与すること。

 

 

 

 

 

 

 

十  政治的目的をもつて、多数の人の行進その他の示威運動を企画し、組織し若しくは指導し又はこれらの行為を援助すること。

 

 

十一  集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。

 

 

 

 

 

 

十二  政治的目的を有する文書又は図画を国又は行政執行法人の庁舎(行政執行法人にあつては、事務所。以下同じ。)、施設等に掲示し又は掲示させその他政治的目的のために国又は行政執行法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し又は利用させること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十三  政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。

 

 

 

 

十四  政治的目的を有する演劇を演出し若しくは主宰し又はこれらの行為を援助すること。

 

 

 

 

十五  政治的目的をもつて、政治上の主義主張又は政党その他の政治的団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これらに類するものを製作し又は配布すること。

 

十六  政治的目的をもつて、勤務時間中において、前号に掲げるものを着用し又は表示すること。

 

十七  なんらの名義又は形式をもつてするを問わず、前各号の禁止又は制限を免れる行為をすること。

 

7  この規則のいかなる規定も、職員が本来の職務を遂行するため当然行うべき行為を禁止又は制限するものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8  各省各庁の長及び行政執行法人の長は、法又は規則に定める政治的行為の禁止又は制限に違反する行為又は事実があつたことを知つたときは、直ちに人事院に通知するとともに、違反行為の防止又は矯正のために適切な措置をとらなければならない。

 

付則〔略〕、雑則〔略〕

 

人事院規則14―7(政治的行為)の運用方針について

 

(昭和24年10月21日法審発第2078)

(人事院事務総長発)

 

最終改正:平成27年10月28日職審―275

 

1 この規則制定の法的根拠

 

  この規則は、国会が適法な手続によつて制定した国家公務員法第102条の委任によつて制定されたものである。

 

2 この規則の目的

 

 国の行政は、法規の下において民主的且つ能率的に運営されることが要請される。従つて、その運営にたずさわる一般職に属する国家公務員は、国民全体の奉仕者として政治的に中立な立場を維持することが必要であると共に、それらの職員の地位は、たとえば、政府が更迭するごとに、職員の異動が行われたりすることがないように政治勢力の影響又は干渉から保護されて、政治の動向のいかんにかかわらず常に安定したものでなければならない。又、この規則による政治的行為の禁止又は制限は、同時に、他の職員の側からするこれに対応する政治的行為をも合せて禁止することによつて、職員がこれらの政治的行為の禁止に違反しないようにすることが容易に達せられるようなものでなければならない。この規則は、このような考慮に基き、右の要請に応ずる目的をもつて制定されたものである。従つて、この規則が学問の自由及び思想の自由を尊重するように解釈され運用されなければならないことは当然である

 

3 規則の適用範囲

 

 (1) 第1項は、法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定が、特にこの規則で適用を除外している者を除き、一般職に属するすべての職員に適用されるものであることを明らかにしている。

 

 (2) この規則において、「法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定」とは、法第102条、第1次改正法律附則第2条、規則14-5及びこの規則中に含まれる禁止又は制限に関する規定をいう。

 

 (3) 「法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定」は、顧問、参与又は委員の名称を有する諮問的な非常勤の職員(法第81条の5第1項に規定する短時間勤務の官職を占める職員を除く。(3)において同じ。)の他の法令に違反しない行為には適用されない。また、顧問、参与又は委員の名称を有しない諮問的な非常勤の職員であつても、これらと同様な諮問的な非常勤の職員で、人事院が特に指定するものの同様な行為にも適用されない。なお、委員の名称を有するものであつても、国家行政組織法第3条に規定する委員会の委員は、ここにいう委員には含まれない。本項ただし書に該当する職員は、他の法令で禁止されていない限り、この規則に規定する政治的行為を行つたり規則14-5に定める公選による公職の候補者となつたり、公選による公職を併せ占めたり、政党の役員等になることを禁止されない。すなわち、この規則は、これらの職員の職務と責任の特殊性に基づき、国家公務員法附則第13条の規定に従い、職員の政治的行為の制限に関する特例を定めたものである。

 

 (4) 第2項は、職員が単独で又は他の職員と共同して行う場合だけでなく、職員以外の者と共同して行う場合でも、禁止又は制限されることを明らかにしたものである。この場合、「共同して行う」とは、職員が共同意思を単独で又は他人と共に実行に移すことをいう。

 

 (5) 第3項は、職員が自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人等を通じて間接に行う場合でも、その行為を行わせた職員に適用されることを明らかにしたものである。自ら選んだ又は自己の管理に属する者が職員であるか否かは問わない。「自ら選んだ」とは、明示であると黙示であるとを問わず、自らの選任行為があつたと認定されることをもつて足り、「自己の管理に属する」者とは、監督等の原因により通常本人の意思に基いて行為をなすべき地位にある者をいう。たとえば、部下、雇人等のような者である。「その他の者」とは、自ら選んだ又は自己の管理に属する者で代理人又は使用人以外の者をいう。「通じて間接に行う」とは、自己の意思を他人によつて実行に移すことをいう。

 

 (6) 職員は、職員たる身分又は地位を有する限り、勤務時間外においても、政治的行為を行うことを禁止又は制限される。但し、政治上の主義主張又は政党その他の政治的団体の表示に用いられる腕章、記章、えり章、服飾等を勤務時間外に単に着用することは禁止されない

 

 (7) なお、この規則は、職員が本来の職務を遂行するため当然行うべき行為を禁止又は制限するものではない。

 

4 政治的行為

 

  職員が行うことを禁止は制限される政治的行為に関し、この規則では政治的目的と政治的行為を区別して定義し、政治的目的をもつてなされる行為であつても、この規則にいう政治的行為に含まれない限り、国家公務員法第102条第1項の規定に違反するものではないとしている。

 

(1) 政治的目的

 

  第5項は、法及び規則中における政治的目的の定義を行い、これを明らかにしたものである。

 

 

 (一) 第1号関係 本号中「規則14-5に定める公選による公職の選挙」とは、衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の長、地方公共団体の議会の議員及び海区漁業調整委員会の委員の選挙をいう。「特定」とは、候補者の氏名が明示されている場合のみならず、客観的に判断してその対象が確定し得る場合をも含む。「候補者」とは、法令の規定に基づく正式の立候補届出又は推薦届出により、候補者としての地位を有するに至つた者をいう。「支持し又はこれに反対する」とは、特定の候補者が投票若しくは当選を得又は得ないように影響を与えることをいう。また、候補者としての地位を有するに至らない者を支持し又はこれに反対することは本号に含まれない。選挙に関する法令に従つて候補者の推薦届出をすること自体は本号に該当しない。

 

 (二) 第2号関係 本号に「国民審査」とは、日本国憲法第79条の規定に基づき、最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年法律第136号)に定める最高裁判所裁判官の任命に関する国民審査をいう。なお、本号中における「特定」及び「支持し又はこれに反対する」の意味については、前号に準じて解釈されるべきである。

 

 (三) 第3号関係 本号中における「特定」の意味については、第1号に準じて解釈されるべきである。「政党」とは、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを本来の目的とする団体をいい、「その他の政治的団体」とは、政党以外の団体で政治上の主義若しくは施策を支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくはこれに反対する目的を有するものをいう。「支持し又はこれに反対する」とは、特定の政党その他の政治的団体につき、それらの団体の勢力を維持拡大するように若しくは維持拡大しないように、又はそれらの団体の有する綱領、主張の主義若しくは施策を実現するように若しくは実現しないように、又はそれらの団体に属する者が公職に就任し若しくは就任しないように影響を与えることをいう。

 

 (四) 第4号関係 本号中「特定の内閣を支持し又はこれに反対する」とは、特定の内閣が存続するように若しくは存続しないように又は成立するように若しくは成立しないように影響を与えることをいう。なお、特定の内閣の首班若しくは閣員全員を支持し又はこれに反対する場合も本号に含まれるものと解する。

 

 (五) 第5号関係 本号にいう「政治の方向に影響を与える意図」とは、日本国憲法に定められた民主主義政治の根本原則を変更しようとする意思をいう。「特定の政策」とは、政治の方向に影響を与える程度のものであることを要する。最低賃金制確立、産業社会化等の政策を主張し若しくはこれらに反対する場合、又は各政党のよつて立つイデオロギーを主張し若しくはこれらに反対する場合、あるいは特定の法案又は予算案を支持し又はこれに反対するような場合も、日本国憲法に定められた民主主義政治の根本原則を変更しようとするものでない限り、本号には該当しない。

 

 (六) 第6号関係 本号中「国の機関又は公の機関において決定した政策」とは、国会、内閣、内閣の統轄の下における行政機関、地方公共団体等政策の決定について公の権限を有する機関が正式に決定した政策をいう。「実施を妨害する」とは、その手段方法のいかんを問わず、有形無形の威力をもつて組織的、計画的又は継続的にその政策の目的の達成を妨げることをいう。従つて、単に当該政策を批判することは、これに該当しない

 

 (七) 第7号関係 本号中「署名を成立させ」とは、地方自治法第74条及び第75条に定める数に達する選挙権者の連署を得ることをいう。

 

 (八) 第8号関係 本号中「地方自治法に基く地方公共団体の議会の解散の請求」とは、地方自治法第76条に定める地方公共団体の議会の解散の請求をいい、「法律に基く公務員の解職の請求」とは、地方自治法第80条、第81条若しくは第86条又は地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第8条第1項若しくは漁業法(昭和22年法律第67号)第99条第1項に定める公務員の解職又は改選の請求をいう。「署名を成立させ」とは、地方自治法第76条、 第80条、第81条若しくは第86条又は地方教育行政の組織及び運営に関する法律第8条第1項若しくは漁業法第99条第1項に定める数に達する選挙権者の連署又は同意の署名を得ることをいう。「賛成若しくは反対する」とは、本号の請求に基づく解散又は解職の投票において、賛成投票を得若しくは得ないように又は反対投票を得若しくは得ないように影響を与えることをいう。

 

(2) 政治的行為

 

  第6項は、法第102条第1項の規定により禁止又は制限される政治的行為を定めたものである。

 

 (一) 第1号関係 本号は、職員が、国家公務員としての地位においてであると、私人としての地位においてであるとを問わず、政治的目的の為に自己の影響力を利用する行為を政治的行為としてこれを禁止する趣旨である。「公の影響力」とは、職員の官職に基く影響力を、「私の影響力」とは、私的団体中の地位、親族関係、債権関係等に基く影響力をいう。たとえば、上官が部下に対し、選挙に際して投票を勧誘し、あるいは職員組合の幹部が組合員に対し入党を勧誘するためにその地位を利用するような行為は違反となる。

 

 (二) 第2号関係 「その他の利益」とは、金銭、物品のみでなく権利の授与、貸与等有形、無形の利益をいう。

 

 

 

 

 

 (三) 第3号関係 本号は、法第102条第1項前段の規定と同趣旨の規定であつて、「関与」とは、援助、勧誘、仲介、あつ旋等をいう。たとえば課員が課内の党員の党費をとりまとめることは違反となる。

 

 (四) 第4号関係 「国家公務員」には、特別職に属する国家公務員をも含み、地方公務員その他国家公務員以外の者に金品を「与え又は支払う」行為は、本号の規定に該当しない。

 

 (五) 第5号関係 本号に掲げる行為は、それ自体で政治的目的をもつ行為とされ、他に別な政治的目的をもつてすることを要件としない。「企画し」とは、発起人となり、綱領規約等を立案し、又は結成準備会を招集すること等を、「参与し」とは、綱領規約の起草を助け又は準備委員となる等企画者を補佐して推進的役割をすることを、「これらの行為を援助する」とは、企画し参与することにつき、自ら直接に行うと、間接に行うとを問わず、労力、財産、物品等を提供し又は宣伝、広告、仲介、あつ旋等を行うことをいう。又、「政治的顧問」とは、その団体の幹部と同程度の地位にあつて、その団体の政策の決定に参与する者をいい、単なる技術的顧問は含まない。「これらと同様な役割をもつ構成員」とは、名称のいかんを問わず、役員又は政治的顧問と同等の影響力又は支配力を有する構成員をいう。なお、本号は、その団体の本部の場合のみならず地域的支部及びそれに準ずる組織体の場合にも適用される。単にこれらの団体の構成員となり、又は役員、政治的顧問若しくはこれらと同様な役割をもつ構成員以外の地位を占めることは差し支えない

 

 (六) 第6号関係 本号の行為も当然政治的目的をもつ行為とされる。「勧誘運動をすること」とは、組織的、計画的、又は継続的に、勧誘をすることをいい、たとえば党員倍加運動のような行為はその例である。従つて、たまたま友人間で入党について話し合うようなことは該当しない。

 

 (七) 第7号関係 本号の行為も当然政治的目的をもつ行為とされる。自己の購読した機関紙の一部をたまたま友人に交付するような行為及び単なる投稿等は、本号に該当しない。 

 

 (八) 第8号関係 「勧誘運動」とは、第6号にいう「勧誘運動」に準じて解釈されるべきである。従つて、選挙に際したまたま街頭であつた友人に投票を依頼するような行為は該当しない。

 

 

 (九) 第9号関係 「運動」及び「企画し」とは、それぞれ第6号の「運動」及び第5号の「企画し」に準ずる。又「主宰」とは、実施につき自らの責任において総括的な役割を演ずることを、「指導し」とは、樹立された計画に基き実施を具体的に指導することを、「その他これに積極的に参与すること」とは、企画、主宰、指導の外、署名運動を企画、主宰、又は指導するものを助け又はその指示を受けて署名運動において推進的役割を演ずることをいう。なお、単に署名を行う行為は、本号の規定に該当しない。

 

 (十) 第10号関係 「示威運動」とは、多衆の威力を示すため、公衆の目につき得る道路、広場等を行進すること等をいう。単に「示威運動」に参加することは本号に該当しない。 

 

 (十一) 第11号関係 「集会」とは、屋内、屋外を問わず一定の目的のための多数人の集合を、「多数の人に接し得る場所」とは、公会堂、公園、街路等をいい、現に多数人の参集していることを要しないが参集し得る状態にあることを要する。「拡声器、ラジオその他の手段を利用し」とは、多数人に音声を伝達することのできる手段を用いることをいい、多数の人に接し得る場所におけると否とを問わない。又「公に」とは、「不特定の多数の者に」の意味である。従つて、組合員だけの非公開の会合の場合等は、本号に該当しない。

 

 (十二) 第12号関係 「文書又は図画」には、新聞、図書、書簡、壁新聞、パンフレツト、リーフレツト、ビラ、チラシ、プラカード、ポスター、絵画、グラフ、写真、映画の外、黒板に文字又は図形を白墨で記載したもの等も含まれる。「国又は行政執行法人の庁舎(行政執行法人にあつては、事務所。以下同じ。)、施設等」とは、国又は行政執行法人が使用し又は管理する建造物及びその附属物をいい、固定設備であることを要しない。「掲示させ」又は「利用させ」る行為には、他の者が掲示し又は利用することを、国又は行政執行法人の庁舎(行政執行法人にあつては、事務所)、施設、資材又は、資金管理の責任を有する者が許容する行為も含まれる。なお、本号後段の行為には、政治的目的のためにすることが必要であるが、前段の行為にはこれを必要とせず行為の目的物たる文書又は図画が政治的目的を有するものであることをもつて足りる。

 

 (十三) 第13号関係 「形象」とは、彫刻、塑像、模型、人形、面等をいう。職員が政治的目的をもつ文書、図画等を著作し又は編集した場合、それがこれらの「もの」を「発行し回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させる」ために行つたものでない限り、本号にいう政治的行為には含まれない。なお、本号の行為は、行為者の政治的目的のためにする意思の有無を問わず、行為の目的物が、政治的目的を有するものであれば足りる。

 

 (十四) 第14号関係 「演出」には、俳優として出演することは含まれない。「これらの行為を援助する」とは、演劇の脚本を提供し、その演劇の上演のために資金を与え又は募り、無償又は不当に安い対価で資材、設備、労働力、技術等を提供し、又はこれらをあつ旋し、積極的に宣伝を行うこと等を含む。

 

 (十五) 第15号関係 「その他これらに類するもの」には、まん幕、のぼり、鉢巻、たすき、ちようちん等が含まれる。

 

 

 

 

 

 (十六) 第17号関係 本号は、この規則の脱法行為を禁止するものである。

 

5 違法性を阻却する場合

 

  第7項は、形式的には、この規則の違反に該当する行為であつても、職員が正当な職務を遂行するために当然行う行為である場合には、この規則違反の制裁を受けないことを明らかにしたものである。例えば、労働情勢の調査の職務を有する職員が、各種の政党機関紙を関係職員に配布又は回覧に供する行為等は、この規則の禁止又は制限するところではない。また、この規則は、憲法23条に規定する学問の自由を拘束するような趣旨に解釈されてはならないことも当然である。



 

 

3 「人事院規則14−7」と「運用方針について」の逐条検討 (その1)

 

  以下、「人事院規則14−7」の全項目を検討する。いささか退屈な作業であるが、ありきたりの結論をただ繰り返したところで意味がないので、細部まで手間を厭わず見てゆくことにしたい。

 

 

(い)「……を除く他、人事院規則で定める行為」という条文によって無限に拡張する人権制限



規則

 人事院は、国家公務員法 に基き、政治的行為に関し次の人事院規則を制定する。

 

運用方針

1 この規則制定の法的根拠

 

  この規則は、国会が適法な手続によつて制定した国家公務員法第102条の委任によつて制定されたものである。




  人事院が作成する施行規則である「人事院規則14−7」は、国会制定法である国家公務員法第102条の委任規定に基づく、というものである。国会制定法(「法律」)が定める根本原則に則って、実施上の細則を(内閣が「政令」として、さらに)各省庁が「施行規則」として定めることは、一般的におこなわれている。しかしながら、国家公務員法第102条と「人事院規則14−7」との関係は、形式はともかく内容的にこの法制度の階層構造から逸脱したものとなっている。

 「人事院規則14−7」について具体的に検討する前に、同様に「政治的行為の制限」を規定している地方公務員法についてもみておくことにする。地方公務員法第36条の規定は次のとおりである。「政治的行為の制限」を具体的に規定している部分にアンダーラインを引いてある。

 

地方公務員法

(政治的行為の制限)

第三十六条  職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない

2  職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第二百五十二条の十九第一項 の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第一号から第三号まで及び第五号に掲げる政治的行為をすることができる。

一  公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること

二  署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること

三  寄附金その他の金品の募集に関与すること

四  文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎(特定地方独立行政法人にあつては、事務所。以下この号において同じ。)、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること

五  前各号に定めるものを除く外、条例で定める政治的行為

3  何人も前二項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおつてはならず、又は職員が前二項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない

4  職員は、前項に規定する違法な行為に応じなかつたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。

5  本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。

 

 いっぽう、国家公務員の「政治的行為の制限」にかんする国家公務員法の条文は 次のとおりである。同様に、「政治的行為の制限」を具体的に規定している部分にアンダーラインを引いてある。

 

国家公務員法

(政治的行為の制限)

第百二条  職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

○2  職員は、公選による公職の候補者となることができない。

○3  職員は、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これらと同様な役割をもつ構成員となることができない

 

  一見すると、地方公務員法の方が多岐にわたる制限を定めていて、地方公務員の方がより厳しい制限を受けているように見えるが、そうではない。両法ともに「……を除く他、条例/人事院規則で定める政治的行為」という項目があって、条例/人事院規則でさらに追加が可能になっている。国家公務員に関しては、国家公務員法制定から2年を経ずして、1949(昭和24)年に「人事院規則で定める政治的行為」が追加された。地方公務員に関しては、戦後すぐの時期に条例で追加した例が若干あるほか、近年の大阪市条例以降の動きがある。この「……を除く他、条例/人事院規則で定める政治的行為」次第でどうとでもなるような条文なのである。大阪市条例以前であれば、「人事院規則14−7」による広範かつ全面的な制限より、地方公務員法36条による制限の方が緩やかであるという解説がなされるのが通例であったが、すくなくとも大阪市条例以後は、両者は条文上同趣旨であり、差異は条例の制定状況による事実上のものにすぎず、そのような差異は構造上存在しないといえる。

 地方公務員法第36条に基づき早い時期に「政治的行為の制限」を条例で追加した例としては、福岡県福岡市(1946〔昭和21〕年、http://www.city.fukuoka.lg.jp/d1w_reiki/reiki_honbun/q003RG00000199.html)、宮崎県延岡市(1951〔昭和26〕年、http://www.city.nobeoka.miyazaki.jp/d1w_reiki/32600000100100000002/32600000100100000002/32600000100100000002.html)、愛媛県新居浜市(1952〔昭和27〕年、http://www.city.niihama.lg.jp/kouhou/reiki_int/reiki_honbun/o206RG00000160.html)、宮城県涌谷市(1955〔昭和30〕年、http://www.town.wakuya.miyagi.jp/reiki/reiki_honbun/t700RG00000071.html)、大阪府伊丹市(伊丹市一般職員服務分限条例第5章、http://www3.e-reikinet.jp/itami/d1w_reiki/326901010212000000MH/326901010212000000MH/326901010212000000MH_j.html)などがある。

 近年になって、大阪市の「職員の政治的行為の制限に関する条例」(2012〔平成24〕年、http://www.city.osaka.lg.jp/jinji/page/0000179915.html)が、このあとみるような国家公務員並みの制限を追加した。内容的には従来のものと歴然たる差異がある。これは、通達文書「職員の政治的行為の制限に関する条例の解釈・運用について」(http://www.city.osaka.lg.jp/jinji/cmsfiles/contents/0000179/179915/kaisyakuunyou.pdf)を見ても明らかなように、「人事院規則14−7」並びに人事院の通達文書「運用方針について」を下敷きにしている。下敷きどころか、文言も同一で、示された例も同じである。その意味では、地方公務員に関する「政治的行為の制限」は、国家公務員の「政治的行為の制限」と併行関係にあるといえる。したがって、たとえば大阪市の「職員の政治的行為の制限に関する条例」についての検討・批判は、いまここでおこなっている国家公務員法および「人事院規則14−7」による「政治的行為の制限」についての検討・批判と併行しておこなわれるべきである。

 地方公務員の場合、地方公務員法第36条にいう「条例で定める政治的行為」の追加は、当然ながら各地方自治体の議会の条例によって個別におこなわれることになるので、「人事院規則14−7」ひとつですべての一般職国家公務員に対して一挙に規制をかけるようなわけにはいかない。その意味では地方公務員に対する規制強化は、国家公務員の場合よりは少々ハードルが高いとはいえる。しかし、大阪市の翌年に大阪府が同様の条例を制定したほか(http://www.pref.osaka.lg.jp/houbun/reiki/reiki_honbun/k201RG00001812.html)、大阪府吹田市(http://www.city.suita.osaka.jp/var/rev0/0086/7629/116322195022.pdf)、同堺市(https://www.city.sakai.lg.jp/shigikai/kaigi/giansyo/fugianken27.files/fugi2703-12.pdf)で議員提案の動きがある。大阪市に追随する動きが、今後ある程度広がる可能性もある。

 このほか、いまのところは差し迫った現実性があるとはいえないが、よくやるように総務省あたりが範型を示して、全国の地方自治体が右へ倣えをしてほぼ同旨の条例を制定するようになれば、いずれ同様の事態には立ち至ることになる。

 もっとも、いちいち地方議会制定法である条例によっておこなうなどという迂遠な手法をとるまでもなく、国会制定法である地方公務員法を改正して、「政治的行為の制限については、国家公務員の例による」ことにしてしまうことも可能なのである。いくらなんでもそんな無体なことはありえないと思いたいところでははあるが、そもそも教育公務員特例法による地方公務員である公立学校教員への拡張という無法がまかり通っているのであるから(前ページ参照)、ありえないことでもない。「人事院規則14−7」によって追加された国家公務員の「政治的行為の制限」の深刻さにくらべて、地方公務員による「政治的行為の制限」は軽度であるとされてきた従来の通説的解説は、大阪市条例以降はもはや妥当しない時代になったのであるが、地方公務員の最大部分である公立学校教職員が教育公務員特例法ひとつで国家公務員並みの扱いを受けていた時点で、地方公務員法の場合の制限軽減は、すでに存在していなかったとみるべきである。

 人事院の「施行規則」である「「人事院規則」は、「1」から「26」まであるが、さらにそれぞれに枝番を付した規則が追加され、総数は数百にのぼる(http://www.jinji.go.jp/kisoku/ichiran.htm)。その内容は多岐にわたり単純ではないが、地方公務員でいえば、労働基準法施行規則、労働安全衛生規則、さらに地方公務員法に基づく各地方自治体の条例に相当するものが含まれる。そのなかの「14」の中の枝番「7」が「政治的行為の制限」を定めたものである。国会制定法である国家公務員法の第102条だけでも相当程度の権利制限・剥奪となっているが、人事院がその「裁量」で任意に制定改廃できる「規則」で、さらに全面的かつ重度の制限・剥奪がおこなわれているのである。

 

 

(ろ)「目的」として羅列される様々の恣意的口実



規則

 

〔記述なし〕

運用方針

 

2 この規則の目的

 

 国の行政は、法規の下において民主的且つ能率的に運営されることが要請される。従つて、その運営にたずさわる一般職に属する国家公務員は、国民全体の奉仕者として政治的に中立な立場を維持することが必要であると共に、それらの職員の地位は、たとえば、政府が更迭するごとに、職員の異動が行われたりすることがないように政治勢力の影響又は干渉から保護されて、政治の動向のいかんにかかわらず常に安定したものでなければならない。又、この規則による政治的行為の禁止又は制限は、同時に、他の職員の側からするこれに対応する政治的行為をも合せて禁止することによつて、職員がこれらの政治的行為の禁止に違反しないようにすることが容易に達せられるようなものでなければならない。この規則は、このような考慮に基き、右の要請に応ずる目的をもつて制定されたものである。従つて、この規則が学問の自由及び思想の自由を尊重するように解釈され運用されなければならないことは当然である。




 「人事院規則14−7」では触れていない「目的」を「運用方針」が説示するという、逆立ちしたことがおこなわれている。それもそのはずで、一応「法」の末席を汚している「規則」となるとそうそうでたらめをならべるわけにもいかないが(おそらく内閣法制局のチェックもあるだろう)、たんなる通達文書であれば書きたい放題も許されると考えているようで、後付けの口実を無思慮に並べ立ててある。「目的」として5点ほどあげられている。

 

 ①「民主的」

 「民主的」に運営されなければならないことが、どうして「政治的中立」を要請するのか、まったく説明になっていない。

 日本国憲法条文には「民主的」あるいは「民主主義」の語はないが、近年は法律の条文に「民主的」という語が現れるようになった。それ自体は悪いことではないが、この「運用方針」では「民主的」という語が何を意味しているのか曖昧で、不当な内容を美しい言葉で隠蔽するための口実になっている。

 

 ②「能率」

 これは、おそらく国家公務員法第71条(「職員の能率は、十分に発揮され、且つ、その増進がはかられなければならない」)からきているのだろうが、「能率」は、(どういう意味であれ)「民主的」とはおよそ異なる次元の事柄であって、「民主的」のあとに「且つ」で付け加えられるようなものではない。

 そしてまた、「能率」の発揮増進が、どうして「政治的中立」を要請するのか、まったく説明になっていない。政治的行為にエネルギーを割くと、本業がおろそかになるとでもいうのかもしれないが、そういう屁理屈が通用するなら、ギャンブル・飲酒・喫煙はもちろんのこと、趣味に没頭することも、家族との時間を重視するのも、なんでもかんでも「能率」を理由に制限禁止しなければならならないことになり、しかもそれらをいちいち法律の条文に明記すべきことになる。

 もっとも、国家公務員にあっては、「職務に専念する義務」(国家公務員法第35条)を理由のひとつとして営利企業従事が制限されている。公務労働者の人格を無視する支配的姿勢は、戦前からひきつづき戦後の公務員労働者支配の基本姿勢になっているのである。

 

 ③「政治勢力の影響又は干渉から保護」

 その次は、いわゆる猟官制 spoils system に対する成績主義 merit system 成績主義のもとで、職員(一般職国家公務員)のために「政治的行為の制限」が必要となるというのである。

 猟官制 spoils system (スポイルズ・システム)は、政治任命ともいい、選挙で選ばれた行政官庁のトップが部下たる公務員を任命するというもので、選挙結果によりトップが交代すると、従前の公務員が解雇され新たに別のものが任命されることになる。選挙で勝利した政党が役職をspoils (戦利品、略奪品)として獲得する制度、とされる。これに対して、採用試験によって証された実力・成績により公務員を任用するのが実力登用制度ないし成績主義 merit system (メリット・システム)。現代日本では、後者が採用されているとみなされている。国務大臣や副大臣、政務官などの公職者である「公務員」については猟官制になっているものの、「試験」で採用される多くの公務員労働者は成績主義のもとにあり、政治的任命や政治的解雇からは保護されている、とされているのである。これが、「運用方針」がいうところの、「政府が更迭するごとに、職員の異動が行われたりすることがないように政治勢力の影響又は干渉から保護されて、政治の動向のいかんにかかわらず常に安定したもの」となっている状態、というわけである。

 だが、こうした通説的説明にはすでにいくつか難点がある。たとえば、各県庁は中央官庁の職員を、たいてい2年くらいの任期で幹部職員として順繰りに受けて入れている。よく知られているように(県により名称はさまざまだが)総務部長や地方課長としては総務省から、土木部の部課長としては国土交通省から、農林水産部の部課長としては農林水産省から、主としてそれぞれの「キャリア組」を受け入れている。広島県は文部科学省から県教育長を受け入れていて、1999年に日の丸・君が代強制政策のもとで校長の自殺者まで出した。なお、これとは別に、警察庁は県警察本部や警察署へ、財務省は国の出先機関である税務署へ、厚生労働省は国の出先機関である都道府県労働局へというように、中央省庁が県庁ではなく地方の自前の出先機関にそれぞれ「キャリア組」等を送り込んでいる(警察の場合、厳密には出先ではないが、事実上は出先機関)。この両方をやっている省庁もある。たとえば国土交通省は国の出先機関である河川事務所・工事事務所へ派遣する他に、県庁へも送り込む。国から県への派遣と同様のことは、県庁から市町村役所への副市長や教育長、部課長としての派遣としておこなわれる。これらは、どうみても通例の成績主義的人事ではなく、選挙された首長による任命権の猟官制 spoils system 的行使というほかない。大阪での「民間人校長」は、完全に猟官制的運用がおこなわれ、醜状をさらした。

 一般職公務員(公務労働者)については、成績主義が実施されているという前提での理由づけなのだが、上記のとおり、運用実態をみると公務員人事の基幹部分においては一般職においても猟官制的な運用がおこなわれているのであり、いまさらここで恩着せがましく絵に描いた餅の成績主義を唄うのは事実に反する。成績主義は、いまだ職階制が確立していいなのに、根幹部分ですでに骨抜きになっているのであって、「政治的行為の制限」を実行する理由にはならない。

 

 ④「他の職員の側からする政治的行為の禁止」

 地方公務員法36条5項でも同様趣旨のことが唄われている。

 「他の職員の側からする政治的行為」によって「政治的行為」に駆り立てられてると懲戒処分や刑事罰を課せられる不利益を受けることになるが、かりに本人の「政治的行為の制限」がされることで不利益があったとしても、「他の職員の側からする政治的行為」を制限することで懲戒処分や刑事罰から免れる利益があるのだから差し引いても利益があるという、理由づけである。「政治的行為の制限」が入れ子構造になり、なおかつ自己言及的な構造をとっているのである。「他の職員の側からする政治的行為」の制限により或る者に利益なるものがあろうがなかろうが、その「政治的行為の制限」それ自体の正当性(合憲性・合法性)の欠如は正当化できない。「運用方針」の論旨は、論点先取の誤謬をおかすものであり、成り立たない。

 

 ⑤「学問の自由及び思想の自由」

 「目的」の」項目の最後に述べられているが、これは「目的」ではなく、趣旨不明の言明である。「従って」とか「当然である」などと言っているが、どうみてもそれまでの言明とは脈絡がない。おそらく他に書くところがないので、当時は国家公務員であった国立大学の教授らを念頭において言い訳的にここに追加したものであろう。小学校・中学校・高等学校の教員についてはもちろん、一般職公務員(公務労働者)については念頭にないだろう。もし問われれば「学問」を職務としていないのだから、「学問の自由」など関係ない、などと言うかもしれない。

 脈絡のなさはともかく、きわめて問題のある言明である。「尊重する」というのは、尊重することもできるし、尊重しないこともできるものが、あえて「尊重する」方に自己を限定することを宣言する場合の語である。憲法 constitution は「学問の自由及び思想の自由」を与える confer のではなく、たんに保障する guarentee するに過ぎず、したがってそれを侵すことや剥奪することなどは、絶対的にありえない(別項目参照)。まして、憲法のもとでの公務員法制や行政機関の規則、さらに下って一片の「運用通達」が国民の権利を「尊重」するなどと言うこと自体が越権行為である。「学問の自由及び思想の自由」は「尊重」されるべきものなのではなく、侵害することが絶対的に許されないものであって、いまさらこんなところでこういうことを言うこと自体が間違いである。

 あえて「学問の自由及び思想の自由」への配慮のそぶりをみせたことで、「人事院規則14−7」が他の自由・権利を抑圧・制限するものであることを自白してしまっている。憲法第19条が保障する「思想の自由」を「尊重」するようであるが、同条の「良心の自由」については言及しない。「政治的行為の制限」が、「良心の自由」を侵すものであることをよく知っているからだろう。とりわけ憲法第21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」については一切言及していない。それもそのはずで、「人事院規則14−7」は、公務労働者の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を根底的に剥奪するものである。

 ひとびとの自然権を実現することを目的として樹立された国家体制 connstitution すなわち日本国憲法体制 The Constitution of Japan のもとで、法にもとづいて運用されるたんなる手段にすぎない行政機関が、尊大にも国民の権利を「尊重する」などとおおきな勘違いを口にしているのである。

 

 

(は)一般職国家公務員=公務労働者の権利剥奪の宣言



規則

(適用の範囲)

1  法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定は、臨時的任用として勤務する者、条件付任用期間の者、休暇休職又は停職中の者及びその他理由のいかんを問わず一時的に勤務しない者をも含むすべての一般職に属する職員に適用する。ただし、顧問、参与、委員その他人事院の指定するこれらと同様な諮問的な非常勤の職員(法第八十一条の五第一項に規定する短時間勤務の官職を占める職員を除く。)が他の法令に規定する禁止又は制限に触れることなしにする行為には適用しない。

 

運用方針

3 規則の適用範囲

 (1) 第1項は、法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定が、特にこの規則で適用を除外している者を除き、一般職に属するすべての職員に適用されるものであることを明らかにしている。

 (2) この規則において、「法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定」とは、法第102条、第1次改正法律附則第2条、規則14-5及びこの規則中に含まれる禁止又は制限に関する規定をいう。

 (3) 「法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定」は、顧問、参与又は委員の名称を有する諮問的な非常勤の職員(法第81条の5第1項に規定する短時間勤務の官職を占める職員を除く。(3)において同じ。)の他の法令に違反しない行為には適用されない。また、顧問、参与又は委員の名称を有しない諮問的な非常勤の職員であつても、これらと同様な諮問的な非常勤の職員で、人事院が特に指定するものの同様な行為にも適用されない。なお、委員の名称を有するものであつても、国家行政組織法第3条に規定する委員会の委員は、ここにいう委員には含まれない。本項ただし書に該当する職員は、他の法令で禁止されていない限り、この規則に規定する政治的行為を行つたり規則14-5に定める公選による公職の候補者となつたり、公選による公職を併せ占めたり、政党の役員等になることを禁止されない。すなわち、この規則は、これらの職員の職務と責任の特殊性に基づき、国家公務員法附則第13条の規定に従い、職員の政治的行為の制限に関する特例を定めたものである。

 




 国家公務員法における一般職と特別職の区分を前提として、一般職の国家公務員すなわち「職員」だけが「政治的行為の制限」を受けることを宣言している。前ページでみたとおり、憲法は、一般職の公務労働者ではなく、特別職の公務員、とりわけ「選挙」される「公職者」に対して「全体の奉仕者」たるべきことを命令しているのである。憲法は、特別職の公務員の一党一派に偏した行為を厳に戒めているのに、国家公務員法第102条と「人事院規則14−7」は、特別職公務員は野放しにしておきながら、公務労働者に対してだけ憲法違反の人権制限・剥奪をおこなうのである。このように、適用対象の錯誤という点でも、国家公務員法第102条と「人事院規則14−7」は憲法の規定に反する。

 「休暇」中の者も規制の対象にするというのは、このあとの「2」や「3」、とりわけ「4」が勤務時間外も規制対象とすることと一連のもので、公務労働者の全生活を監視し、干渉し、抑圧することの宣言である。勤務時間内の勤務について規定する(それも無制限ではない)にすぎない公務員法・政令・規則が、勤務時間外のことにまで規定するのは端的に違法である。同様に年次有給休暇を取得してもその自由使用を許さないというのは、あきらかに違法である。

 「休職」についての規定は、職員団体の役員のうち、「休職」して「専従役員」となっている者をも規制対象とするというものである。地方公務員も同様だが国家公務員については労働組合法が適用されず、かわって労働組合的(あくまで擬似的であり、本質的・実態的に大きく異なる)団体としての「職員団体」が設立される。その役員が職務上の命令を受けることもないかわりに給与も受けていないのに、どういうわけか「政治的行為」に関しては禁止的な規制を受け続けることになる。このあとの規定と一体となり職員団体を通じて公務労働者の人権制限を集団的に実行するための問題のある規定である。