鬼怒川水害まさかの三坂 7

 

決壊する堤防を撮影した住民のVTR

 

Jan., 16, 2020

 

 至近距離から撮影された29枚の写真の検討にもどります。1枚目から13枚目までは、国交省職員または委託企業の従業員によるものでしたが、このページでは、破堤したC区間直下の住宅で被災した住民の方が撮影したVTRから切り出した静止画像を見ます。B区間の下流端からG区間の上流端まで、破堤した、あるいは破堤しつつある部分がほぼ全部写っています。

 このVTR画像は、2015(平成27)年10月2日に、さいたま市の関東地方整備局での「鬼怒川堤防調査委員会」の第2回会議で上映されたようで、関東地方整備局のウェブサイトで公表されています(ホーム > 河川 > 防災 > 洪水 > 鬼怒川堤防調査委員会 > 第2回 鬼怒川堤防調査委員会(平成27年10月5日))。ところが、例によって解像度を極端に落としてあります。

 この第2回委員会の際の配布資料に、パニングした画像から数カット切り出して、不器用につなぎ合わせたものが載っています(http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000633270.pdf)。その小さな画像を拡大してみると、こちらのほうがはるかに解像度が高く色味もよいのです(「17」の百日紅の写りがまったく違います)。なお、最終報告書では若干解像度が落ちます。

 解像度を落としてあるだけでなく、全部で5分36秒の映像自体が、間欠的に撮影したのもののすべてなのではなく、住民から提供された映像を編集してしまっているようです。時間表示などもまったく表示されないので、場面が切り替わっている場合、その間にどのくらいの時間が経過したのかなども、まったくわからなくなっています。

 このような、恣意を通り越して悪意のある操作は毎度のことですからいまさら驚きもしませんが、これが関東地方整備局の広報担当者の基本姿勢なのです。(当時の責任者は河川調査官の高橋伸輔で、現在は内閣府で防災関係の仕事をしているようです。冗談のような話ですが……)

 

 

 下が、公表されている低解像度の動画ファイルをダウンロードし、そこから切り出したものです(コマ送りで再生しながらスクリーンショット)。

 

 


  詳細を検討するまえに、撮影時刻を特定しておきます。

 「14」と「15」については「11時半から12時ころ」、「16」以下についてはその「10分〜20分後」とのことですから、「16」以下はどんなに遅くても12:20ということになります。ところで、一見してあきらかなように、「16」以下は、越水の段階を過ぎて、すでに一部で破堤が始まり、それが上下流方向に波及拡大している状態です。5ページで見た篠山水門のCCTV映像では、12:52:16の画像が破堤直後だということでしたから、すくなくとも30分以上ずれています。

 6ページで見たように、12:57:13にはL 21kポールは立っていましたが、13:00:45には流失しています。右は、上の「19」の数コマ前ですが、このコマだけでなく、動画の前後のコマにもL21kポールらしいものが写っていますから、13:00:54以前です。

 ということで、このVTRのうち、「16」以下は、12:52:16よりあとで、おそらく13:00:54の直前のようです。

 「14」と「15」は、その10分から20分前ということになりますが、「14」と「17」に写っているC区間で天端からほぼ垂直に氾濫水が流れ落ちる様子をみると、ほぼ同じように見えますから、それほどの時間差はなかったようにも思えます。

 撮影位置も確認しておきます。

 下の区間図でいうとC区間の堤内側の「住宅1」です。「14」と「15」が1階南側(右方向)から、「16」以下が、2階の南側ベランダから撮影しています。

 右の写真は、水害からほぼ3か月後の2015年12月ですが、1階は激しく破壊された様子がわかりますが、南側の「住宅2」のように地盤が抉られて大きく傾くことはありませんでした。住民の方は、ヘリコプターで救出されたとのことですが、おそらくこの2階の白いベランダから吊り上げられたのでしょう。この柱が、さきほどの写真に写っていた角柱です。

 「19」までは、柱の右から、「20」は、柱の左からの撮影です。これと、遠景を照合すれば、堤防の各地点をかなり正確に特定することができます。


14(不明2a)

 住宅1の1階南側から堤防を直角にみたところです。すなわち、C区間の下流側半分をアップで見ています。堤防の天端は、カメラ位置より上です。花をつけている百日紅は敷地内にあり、塀の向こうはすぐに堤防です。この百日紅は、4ページで見た、12:05ころに撮影された写真「12」に写っていたものです。

 このあとの2階からの「16」とあわせてみると明らかですが、天端から流下する氾濫水により堤内側の法面がほぼ垂直に洗掘されてしまい、おそらくアスファルトがまだ残っている天端から、ほぼ垂直に氾濫水が落下しています。堤内側法肩部分はまだすこし土の部分が残っているようで、草がところどころ顔を出していますから、氾濫水の水深は何十cmもあるわけではないようです。


15(不明2b)

 14と同じ撮影位置から、カメラをすこし左に向けたところです。車の入っている車庫は、住宅2と堤防の間にありますが、住宅1の方の車庫です。

 おそらくB区間やC区間からの氾濫水が住宅1の庭に流れ込んでいます。激しい水流ですが、まだそれほど深くはないようです。

 生垣の上、樹木の間から堤防が少し見えています。D区間の堤防の法肩です。D区間は結局のところ、越水せずに、F区間に始まった破堤が、横方向につまり上流側と下流側の2方向に波及することで、破堤したようです。

 


16(不明3a)

 ここからは、「14」と「15」から少し時間をおいて2階のベランダに出て撮影したものです。

 決壊する堤防を至近距離から撮影した動画としては、空前絶後の貴重なものです。

 画面右上の大樹は、B区間の下流端のケヤキです。3ページと4ページで見た通り、B区間はE区間と並んで早くから越水していた区間ですが、このケヤキはほとんど無傷で残ったのです。D区間からG区間の堤内にあった樹木は大小にかかわらずすべて流失したのに、どうしてこれだけが残ったのか、鬼怒川水害最大の謎です。「堤防調査委員会」の先生方は文字通り見向きもしなかったのですが、関東地方整備局の専門職員と埼玉大学の田中規夫教授は、多少の検討を加えたものの、真相は明らかになっていません。

 C区間の越水した氾濫水はほぼ垂直に落下しています。堤内側に少々の水煙があがっていますが、天端より高くはありません。次ページでみることにしますが、このあと、ここでは7〜8メートルにも及ぶ巨大な水煙が上がるのです。それは越水して落下することによる水煙とはまったく違います。


追加 16-17(不明3a-b)

 この付近の画像は「堤防調査委員会」の第2回会議の配布資料の写真がよく写っているので、その一部を抜粋し拡大して追加します。16と17の中間あたりです。

 百日紅の先に、ちょうど対岸の篠山水門が見えています。ということは堤外の樹木が邪魔をして、この時点でのB区間からD区間にかけてはCCTVには映りこまないでしょう。

 この高水敷の樹木や画面左端の堤外側法肩の草が水面に反射して、「逆さ富士」のようになっています。この部分での流速はさほど速くなく、水面がほとんど平滑だということです。

 このあと見る写真「21」「22」に写っている堤内側が垂直に切り立っている状況と整合します。


17(不明3b)

 C区間の下流側の一部からD区間にかけては、川表側の法面上部が天端アスファルト舗装面より高くなっていて、そのためD区間は越水していません(4ページの写真「13」参照)。

 越水しなかったため、D区間の法面は、C区間のように川裏側(堤内側)が垂直になるまで侵食されることもなく、E区間側(下流側)から洗掘がすすむことにより破堤したのです。


18不明3c)

 手前の電柱あたりが、C区間とD区間の境です。

 この時点では、D区間は堤内側の法面がまったく損傷していません。


19(不明3d)

 さらにカメラが左にパニングします。D区間の下流端近くに、21kの距離標のポールがまだ立っています。これにより、「12:52:16よりあとで、おそらく13:00:54の直前」だと推定できます。


20(不明3e)

 「堤防調査委員会」資料の画像と入れ替えたうえ、遠景の工場と破堤区間で流入する氾濫水の波濤がわかるよう、露出とコントラストを補正しました。関東地方整備局による低解像度化工作がなければ、もっとはっきりした画像なのでしょうが、これでもすでに破堤した部分が全部写っている奇跡のような画像です。

 破堤区間は上流側は 21kポールのすぐ下流ですが、堤内側はすでに絶壁になっていて、灰色の天端のアスファルトが下流端から少しずつ崩落しつつあるところです。下流側はG区間の上流側の部分で、濃茶の堤体土が切り立って見えています。左端にはG区間の川裏側(堤内側)法面の草が見えています。

 上流側断面・下流側断面のいずれも、下の地盤が先に洗い流され、残ったアスファルト舗装の薄皮一枚が続いて折損崩落するようです。

 

 このコマの対岸に写っている白い建物は、常総市の大生郷(おおのごう)工業団地にある三菱マテリアル株式会社筑波製作所で、1.46km離れています。

 

 この右下隅、三坂の部分を拡大し、撮影位置等を記入すると次のとおりです。

 これらから、破堤断面のおおよその位置を推定します。

 上流側はあと数分で流失する 21kポールギリギリと考えて間違いないでしょう。下流側は前ページで検討した際、篠山CCTVからE区間と住宅3方向を撮影した画像に写っていた、法尻の3本の樹木のうち上流側2本(山吹と橙)の間あたりです。

 ごく大雑把にみて、13:00直前で破堤幅は40mくらいだったようです。



 次ページでは写真「21」以降を検討します。