7 株式会社ドワンゴから来た「民間人知事」

 

 

 

 ChatGPTに関する勘違い

 大井川は2023年春、話題になっているChatGPTを試した。部下による説明をひととおり受けた後で「茨城県知事は誰ですか」と聞いてみたところ、自分ではない他人の名前を返してきたのでがっかりしたようだ。もっとほかのことから試してみればいいのに、自分がどれほど有名かを確かめようしたのである。稚拙さの発露だが、無意識のうちにChatGPTの弱点を衝くものでもあった。

 

 例えば、長文の原稿を要約するとか、あるいは様々な営業のためのプロモーションのためのアイデア出しをするとか、そういうところで十分有用な機能がある可能性が高いというふうにも思っています。

 特に注意すべきは、個人情報であるとかあるいは公開すべきじゃない情報を、どんどんチャットGPTでそういう情報が漏えいしてしまう可能性もあるというふうにも考えておりますので、その辺については十分しっかりとしたルールを庁内でもつくっていきたいというふうに思っています。

 ちなみに、私、茨城県の知事は誰かとチャットGPTに聞いたんです。そしたらね、全然違う人の名前が出てきた。存在しない人の名前、キノシタケイスケさんとかという名前が出てきまして。ということもあって、信頼性にもいろいろ課題があるんじゃないかなというふうに思っております。133

 

 定例記者会見録では「キノシタケイスケ」となっているが、ChatGPTの画面ではおそらく「木下惠介」だったのだろう。映画監督の木下惠介(1912-1998)である。それを大井川は「存在しない人の名前、キノシタケイスケさんとかという名前」と言ってしまうのだ。

 ChatGPTとは、文章の読み込みと作成に特化したコンピュータ・プログラムのひとつであり、大袈裟に「生成 generative 」を冠して、「生成AI」( generative AI )と称される。チョムスキーの「生成文法 generative grammar」から用語を拝借したものだろう。コンピュータがいかにも真実らしい文章を自動的に作り出すということであり、その点をもって画期的な技術だと言っているにとどまり、そこで述べられた内容の真実性は二の次である。インターネットを漁ったうえで本当のことを述べるかも知れないし、もっともらしい虚偽を述べるかもしれないが、しかし、その述べ方がまるで人間が述べたかのようだ、というのである。だから、アメリカで弁護士がChatGPTを使って準備書面を作成して裁判所に提出したら、存在しない判例を「引用」していて裁判所から叱責された、などということが起きる。

 定型文の作成は得意だが、そこで取り扱われる「事実」の真実性についてはまったく無頓着であり、ひどい場合はもっともらしい嘘を平気で捏造する。2023年に奔流となって出現したChatGPTについての書籍・雑誌・ネット記事が、いかに生成AIの成果を称揚したところで、その実例として示された例ときたら、どれもこれも平凡陳腐なものばかりだった。134

 ChatGPTなどのすべてのAIは、すでにデジタルデータになっているものしかインプットできない。それもインターネット上で、無料で閲覧できるデータに限られる。音声・画像はもちろんPDFの閲覧すらできないから、いちいち会話やPDFをテキストに変換したうえで読み込ませるしかない。有料の情報、特定会員向けの情報、書籍雑誌にはアクセスできない。電子書籍フォーマット eBooks は読めないし、紙面をスキャンしてOCR(光学的文字認識)でテキストデータに変換して読み込ませたりすると、著作権侵害の違法行為となる135。プロジェクト・グーテンベルク136で欧米語の一部の古典的著作は公表されているが、日本語では皆無である。インターネット上の情報のアクセスのし易さは、おおむねその信頼性に反比例する。

 

 情報通信技術(ICT)・人工知能(AI)の原理的制約

 ChatGPTの出力例を見ると、なんとなく文章らしくなっているのは、おそらく定型的言葉遣いのパターンを人海戦術でつきっきりで仕込んでいるからだろう。定型文の雛形を作っておいて、そこに(検索エンジンは使用していないと言っているが)ネット検索して拾ってきた中身を自動で嵌め込んでいるだけのようだ。一応定型的な文章の体裁はあらかじめ人為的に教え込んであるので、「ヤフー知恵袋」より少しだけサマになっている程度だ。キッパリと断言しないで、ああもいえるがこうもいえると曖昧に言い逃れる安全策を、あらかじめ人為的にプログラムしてあるようだ。その意味でまさに「人工知能 Artificial Intelligence」なのだ。取り込める対象は無料のネット情報だけで、肝心の真贋を見極める能力など当然ながら持ち合わせない。文章作成能力は、それを教え込んでいる人間程度には、つまり人並みには賢くなるだろう。人工知能が人間並みに賢くなるのではなく、そんなものに心酔する人間が人工知能程度に愚昧蒙昧になるのである。

 生成AIは、そこで述べられている事実については、インターネット内を行き交っている情報を越えることはできない。だから、自然現象、社会現象、あるいは人間の感情・思想・行動について、人工知能が総体的で正当な認識を獲得することは原理的にできない。ましてや人間と社会がどのように行動すべきか、どのように改変されるべきかについて、人工知能が人間と社会に教えてくれることは、原理的にありえない。人工知能技術がさらに発展し一層高度化したとしても、この限界を越えることは論理的原理的に不可能である。インターネットに妥当な情報が行き渡るようになればAIも賢くなるというのかもしれないが、インターネットにはその十倍どころか百倍以上の空疎で無意味な情報が溢れることになるから、状況はかえって悪化する。

 したがって、人工知能と称される言語解析作成プログラムを現時点における仮の頂点とする、すべての情報通信技術には、原理的制約がある。ICTの入力は、インターネット内のものに限られるわけではなく、個別にデータが入力されることもあるが、それらを全部含めたとしても、ICTの全集合体に入力されるデータには大きな空白がある。しかも、茨城県知事が誰であるかなどの枝葉末節の瑣末なデータが欠けているだけではなく、重要なデジタルデータが入力されていないのである。存在するのに入力されないのではなく、デジタルデータ自体が存在しないのである137。国民・県民の生命=生活(life)・財産(property)に直接かつ根底的に関係する重要なデジタル情報の不存在、ICTとAIにとっての、致命的な制限である。138

 ChatGPTは「信頼性にもいろいろ課題がある」などという代物ではない。そういう呑気で的外れなことを言っている御当人の「信頼性」のほうが心配である。この一事をとってみても、大井川がICTについての初歩的な知識認識を欠いていることはあきらかである。

 もちろん、そういうものはなくても差し支えないが、「十分有用な機能がある可能性が高い」として県庁の業務に使えるなどと本気で考えているとしたら大問題である。というのも、プロンプト欄に入力した情報は、即座にOpenAI社のスーパーコンピュータ群に取り込まれるのだから、第三者への「漏洩」以前に、すでに県が保有する行政情報の不適切取り扱いになってしまうのである。個人情報はもちろんだが、そのほかにも開示提供できない行政情報の量は膨大である。「その辺については十分しっかりとしたルールを庁内でもつくっていきたい」などと言っているくらいだから、すでにやってしまっている可能性がある。

 大井川はマイクロソフト・アジアの役員だったと吹聴しているが、有力ICT企業の日本法人はせいぜい顧客対応やマーケティングくらいしかしていないのであり、日本法人では社長でさえアメリカ本社の許可なしには何ひとつできないようだ139。大井川のようなICTの素人でも勤まる下級役員は、アメリカ本社の上級執行役員などとは全然レベルが違うのである。大井川のICTについての知識技能は、世間が思っているほどではない。

 そして本当に問題なのは、ChatGPTに幼稚な幻想を抱いていることもさることながら、大井川が「木下惠介」がわからないことである。こういうことも、ICTやAIは素晴らしいなどと言いふらす人たちの特徴である。

 

 ICTに全面的に依存する通信制高校の設置

 コンピュータが人間の能力を超え、神のごとくに人間と社会に君臨するかのような幻想は、IBMの大型コンピュータが実用化されて以来50年以上にわたり、継続的にコンピュータ産業とその協力者たちによって煽り立てられてきた。2023年のChatGPTの大流行は、あたかも2020年から2023年までのコロナ・ウィルス流行の代替・後継であるかのような巨大なパンデミック状態となった。茨城県内でもとりわけ「民間人校長」が配置された学校では、この蔓延に便乗した関連企業(ソフトバンク)による「AI講座」が開催され、ChatGPTの宣伝布教活動が活発におこなわれるなどした。

 もうひとつ、茨城県内で大井川が協力して、急激に勢力を拡大しているICT関連団体がある。大井川は、沖縄の「日本一」のひとつである「ジンベエザメ」の模倣には失敗したが、同じ沖縄のもうひとつの「日本一」現象の移植には成功したのである。すなわち、「学校法人角川ドワンゴ学園」がつくる広域通信制高校である。

 「学校法人角川ドワンゴ学園」が設置する高等学校の1校目は、沖縄県うるま市与那城伊計よなしろいけい224の、うるま市立伊計小中学校140の廃校跡を「本校」とする「Nエヌ高等学校」141(略称・愛称ではなく本名)であり、2016(平成28)年4月1日に開校した。そして2校目が、茨城県つくば市作谷つくりや578番地2の、つくば市立筑波西中学校の廃校跡142を「本校」とする「Sエス高等学校」143(これも本名)であり、2021(令和3)年4月1日に開校した。

 「N高校」と「S高校」は、単位制かつ通信制の高校であり、それだけだと特段目新しいものではないが、広域通信制の形態をとるのが特徴である。通信制高校は施設でのスクーリング(対面形式の授業と特別活動)が必要となるので、全国展開にはかなりの数の講習施設を確保しなればならない。それらの条件を整備したうえで、「N高校」「S高校」は、独自のICTによる授業の全国展開(国外含む)を売り物にしている。さらに、従来の公立私立の通信制高校との差別化をはかるために、その規模と資金を活用してICTを使った「ホームルーム」「学校行事」や「部活動」さらには「ヴァーチャル校舎」などの多種多様なイベントを展開し、「日本一」の生徒数(2023年度に両校合わせて、25,000人以上)の高校となっている。「5分でわかるN高とS高校」は次のとおり説明する。

 

○インターネットの普及により私たちを取り巻く環境は大きく変化しています

世界中の情報が簡単に⼿に⼊る パソコン1台でものづくり可能

誰もが情報発信できるようになる より専門の高い知識が求められる

○多様な時代には多様な学びを

○そこで2016年4月KADOKAWAとドワンゴがインターネットと通信制高校の制度を活用してネットの高校“N高”を創立 その後、2021年に“S高”が設立されました

○インターネットとICTツールを活用し高卒資格取得はもちろん幅広い学習や体験ができます

高卒資格取得 ICTツールの活用 イベントへの参加  最先端のオンライン学習

○N/S高なら高卒資格だけでなく豊富な課外授業で将来につながる学びができます144

 

 ICT推進勢力の一員である「民間人校長」たちが口を揃えて言っていたことは、すでに「N高校」「S高校」で実現していたのである。

 

「ITシステム 生徒の全情報をデータ化し、進路指導、戦略策定に。各業務の電子化」(土浦一高・ヨゲンドラ)前掲

「インターネットが生活の隅々まで浸透し、AI(人工知能)が日々進化する中、学校の存在意義が問い直されています。」(元・太田一高・鈴木清隆)145

「成熟化への「課題先進国」を自称する日本は、未だ昭和と令和が入り混じった長い遷移期にあります。中でも、先進国最低の普及度を示すICT教育が象徴するように、日本の学校の腰の重さは桁外れです。」(竜ヶ崎一高・太田垣淳一)146

 

 茨城県の公立高校のなかでも〝トップクラス〟の○○一高には「民間人校長」を送り込んで、ばっさりとICT化を推進(したと宣伝)する一方、急激かつ徹底的な廃校(「統合」)による定員削減の結果溢れた青少年を、まずは市域の私立高校に振り向け、それでも溢れた青少年を吸収するために「S高校」を誘致する、というのがICT関連産業と政府内ICT化推進勢力(政権中枢・経済産業省・一部文科省)の意をうけて行動することを使命とする、茨城県知事大井川である。

 新型コロナによる学校閉鎖状況下、遠隔授業にほとんど対応できない既設の学校を尻目に、最初から先進的な遠隔授業を実施してきた「N/S高校」は、遠隔授業をなにごともなかったかのように継続することができた、と豪語するのである。こうして、他にいくところがないからしかたなくいく学校ではなく、国内でもっとも先進的な学校、すなわち最新のICT機器を使う「個別最適化」された授業、それだけでなく「ホームルーム」や「部活動」までICT機器によって実行できている学校として、一挙にその価値が高まった、という。隅っこに追いやられていた「N/S高校」が、(すでに廃れた)オセロゲームのように、盤面のコマを一斉に引っ繰り返して一躍時代の寵児となった。

 

 ICT産業による市場開拓行為としての学校DX推進

 学校法人は、金銭的利益追求を目的とはしないので税制上の優遇措置があるのだが、それだけではわざわざ営利企業である株式会社ドワンゴが、「学校法人角川ドワンゴ学園」を設立する意味はない。株式会社ドワンゴは、「N高校」「S高校」に、教材ソフトウェアを供給販売することで、株式会社ドワンゴの利益とすることができる。教科書会社や教材会社がわざわざ学校法人を設立して、その私立学校に教科書や副教材を販売したところでたいした金額ではないが、ICTによる教材ソフトウェアだと相当の額になる。

 通信コースの授業料は、「普通科ベーシック」で年額 243,000円、仮想立体画像教材を使う「普通科」(以前は「普通科プレミアム」と言っていた)で 363,000円である。ただし、年収 910万円未満世帯の生徒には、年収に応じて上限300,000円の就学支援金が支給され保護者・生徒負担はその分軽減されるが、学校の授業料収入は変わらないから、この授業料の在学人数分が学校の収入となる。そのかなりの部分が教材ソフトウェア代金として、それを製造納入する株式会社ドワンゴないし関連会社の売り上げとなる。そのひとつが、「普通科プレミアム」すなわち仮想立体画像による学習プログラムを共同開発した株式会社バーチャルキャストであり、その取締役会長は「学校法人角川ドワンゴ学園」の理事にして株式会社ドワンゴ顧問の川上量生のぶおである。「普通科ベーシック」と「普通科」が半々として、25,000人でざっと75億円である。なお、そのほかにパソコンないしタブレット、仮想立体画像メガネ、さらに制服などの販売利益がある。

 生徒数の目標は当面10万人とのことで、その場合の授業料収入は300億円となる。人件費や講習会場費などは生徒数に比例して増加するだろうが目一杯切り詰めてあるし、教材ソフトウェアはコストを回収するための一定数を超えて販売すれば、それがそのまま利益となる。「N高校」「S高校」のテレビCMで、ガクトが生徒数「日本一」を強調する意味がよくわかる。「N高校」の15,000人では、せいぜい作成コストをやっとペイする程度か、あるいはまだ赤字だっただろうが、「S高校」さらにそれ以降の「G高校」?を増設して生徒数が増えれば、あとは順調に利益が積み上がる。

 1校の最大生徒数は15,000人とのことで、すでに2校で25,000人を超えているから、3校目の設置準備も進んでいるに違いない(おそらく群馬県)。沖縄県の「N高校」より茨城県の「S高校」の方に集中しているだろうから、遅すぎるくらいかも知れない。「本校」にする土地・建物は、全国で展開された小学校・中学校・高等学校の大規模廃校政策によって作り出されたものが、日本中に何百とある。今後も、公立学校の廃校、さらには経営状態が悪化した私立学校の撤退が続くだろうから、通信制学校の市場は広がるばかりである。郊外・農村部での廃校による通学可能学校の消滅、市域の私立学校への補助金削減、とりわけ大井川がすでに実施している補助金の不公平配分による撤退促進など、積極的な介入政策が実施されているのである。147

 

 iMode・ニコニコ動画から学校DXへの転進

 日本のICT産業においては、一時的にハードウェアの組立生産が拡大したが、結局CPUの国産はならず、周辺的な記憶素子生産でもアジア諸国諸地域に追い抜かれた。ソフトウェアではトロンプロジェクトの(一部を除く)消滅で「日の丸OS」は実現せず、ほとんどのアプリケーションプログラムとSNSなどのプラットホームの国産化も実現しなかった。LINEは例外といえるが、純国産とはいえず、展開も日本とアジアの一部に限られる。外国製パソコンに外国製のマイクロソフトオフィス(Word、Excel、PowerPoint)とアドビのAcrobat、スマホに外国製のTwitter(X)、Instagram、Facebookがインストールされる。「Society 5.0」148の空疎な掛け声のもと、たとえばその一環としての「GIGAギガスクール」に国費を投入しても、その過半がアジア諸国諸地域で生産されるアメリカ企業のハードウェアと、アメリカ企業のソフトウェアの売り上げに貢献するばかりで、日本のICT産業はせいぜい販売手数料と周辺的機器・通信網の売り上げを手にするだけである。

 今、不用意に「日本のICT産業」と言ったが、すでにあきらかなように、そのようなものは存在しない。資本 das Kapital に国境はない。ICTの場合とくに顕著だが、取扱う製品(ハードウェアもソフトウェアも)が外国製品が過半であるのはもちろん、関係企業の多くが日本企業(日本に本社があり、日本国籍のある者が役員をしている企業)ではない。大井川がいたマイクロソフト・アジアは言うに及ばず、「民間人校長」の太田一高鈴木清隆の横河メディカルシステムズは外資との合弁だし、竜ヶ崎一高太田垣淳一の転職元は「外資系企業」である(ただし、それ以上は〝秘密〟のようで、ICT分野なのかどうかはわからない)。

 日本製ゲーム機・ゲームソフトとアニメは世界を席巻しているとされるが、結局のところCPU生産もOS開発もできず、主要なビジネス系・画像音声処理系のアプリケーションプログラムやインターネットの検索エンジンでは競争に加わることすらできず、完全に敗退した〝日本の〟ICT産業界にあって、本流から外れたニッチ商品に販路を見出して部分的に売り上げを伸ばした企業がいくつかあった、というだけのことである。アニメ映画企業は、昔の虫プロ、現在のジブリの例からわかるとおり、企業自体の存続すら困難なのだ。

 〝日本の〟ICT産業の敗北を象徴的に示すのが、アップルのiPhoneとグーグルのAndroidの出現によるNTTドコモ(日本電信電話の子会社)のiModeアイモード携帯電話の消滅と、グーグルの動画公開ソフトYouTubeの台頭によるニコニコ動画の消退である。「N高校」や「S高校」をつくった人たちは、ICT社会の先駆者にして偉大な成功者のように見える。しかし、彼らは一時的には日本国内においてだけ先駆者として振る舞ったのではあるが、かつての成功者としての栄光はすでに失っている。

 「学校法人角川ドワンゴ学園」理事149の夏野剛は、かつてNTTドコモの社員で、iModeの開発者だった。iModeというと、松永真理150ばかりが有名だが、夏野も関係しているとのことで、もっぱらそのことに言及する何冊かの著書があり、自分のおかげでNTTドコモは「1兆円かせいだ」と法螺を吹いたり151、あげくはiPhoneとAndroidは、iModeから着想を得たのだと、誰も本気にしない自慢話を展開している152。iModeの壊滅後退社していろいろな会社に関係し、2014年には東京オリパラ組織委員会の参与となり、「盗作」騒動をおこしたエンブレム委員会などに関係した(当然、株式会社電通の役員や従業員らと面識があるだろう)。2008年に株式会社ドワンゴでニコニコ動画を担当し、現在は株式会社KADOKAWAと株式会社ドワンゴのCEOとなっている。川上量生はアメリカドワンゴの日本法人のドワンゴで一時ニコニコ動画を成功に導き153、その株式会社ドワンゴを子会社化した株式会社カドカワの役員を務めている。

 2人とも、かつての大成功こそ過去のものとなったが、そうかといって完全に落ちぶれたというわけでもなく、そこそこの企業の役員であり続けているし、川上量生はカドカワの株を6.3%ほど所有154するなど、金に不自由しているわけでもない。角川歴彦は、東京地検特捜部に逮捕された時点で、会社から尻尾切りならぬ〝頭切り〟され、高齢のうえ健康もすぐれないので、もはや再起は望めないだろうが、夏野と川上は、あらたな分野で再起をめざして、今は「N高校」「S高校」に取り組んでいるのである。

 

 お粗末なヴァーチャル・リアリティ画像

 しかし、問題は「N高校」「S高校」のICTによる教育プログラムと、それを中心とする教育体制全般、教職員組織がどうなっているか、である。 「N高校」「S高校」のウェブサイト上に埋め込まれた動画があり、MetaQuest2メタクエストツーという立体画像を眼前に映写する巨大なメガネ155で視聴する、必修授業・スマートチューターという英会話ソフト・面接練習・レクリェーションルーム・バーチャル運動会・アバターコンテストの例を垣間見ることができる156。年間363,000円の「普通科」コース(以前の「普通科プレミアム」)のもので、「世界最先端のオンライン学習」だという。先入見なしに評価しなければならないと考え、虚心坦懐に見た。まさかバトルゲームソフト並みの手の込んだものは不可能としても、シンプルなりにも魅力的なデザインを想像していたのだが、拍子抜けするほど粗略なものだった。

 せいぜい数時間分の映像1本ならば手の込んだものを作ることも可能だろうが、年間30時間分のワンセットを、少なめにみて200科目分作るとして、6,000本である。ある程度は同じ雛形を使い回しするとして、その雛形を50セット作るのもたいへんな手間である。さらに「個別最適化」を謳う以上、1つ1つの授業について、分岐型にせよ段階昇降型にせよ、多様なストーリー展開が要求される。これらの教材を作成し、「学校法人角川ドワンゴ学園」の「N高校」「S高校」に納入するのは、株式会社バーチャルキャストのようだが(単独なのか、ほかに共働者がいるのかは不明)、その取締役会長は、先述のとおり株式会社ドワンゴ顧問で「学校法人角川ドワンゴ学園」の理事でもある川上量生である。川上は宮崎駿と鈴木敏夫(「学校法人角川ドワンゴ学園」の理事でもある)のジブリで修行したことになっていて157、それなりの技量をもっていると思われているようだ。しかし、株式会社バーチャルキャストの代表取締役として、自社で作成した製品を「学校法人角川ドワンゴ学園」に納品するにあたってこの程度のものにオーケーを出し、受領する「学校法人角川ドワンゴ学園」の理事として、これで返品もせず受け取ったとあっては、言われるほどではなかったようだ。川上量生は、ジブリで宮崎駿からはほとんど何も学ばなかったようだ。

 VR(Virtual Reality 仮想現実)だといいながら、そもそも仮想する以前の現実=実在 Reality についての認識がいかにも浅薄で類型的なのであるから、それについて仮想される認識が、極めてお粗末なものになるのも当然である。毎日何時間もMetaQuest2を装着して、頭部と胴だけの単純な身体をもつ無表情なクラスメートとの会話とか、薄気味悪い画像の人物との英会話を続けるのは、いくらゲームに慣れた青少年でも相当の我慢を強いられることになるだろう。

 提供者側にしても、当面は規模拡大による順調な利益増大があるとしても、立体映像ソフトウェアによる授業等のプログラム数千本についてつねにメンテナンスを施し、さらには数年おきにはそれらを新版に置き換えなければならない。バソコンやタブレットはすでに枯れた技術であるから、数年で陳腐化することはないだろうが、VRメガネは規格の変更や、異質な新規格での代替、場合によっては従来機の打ち切りもありうるから、その場合の教材ソフトウェアの対応は極度に難しくなるだろう158。アメリカ企業の都合に振り回される「日本ICT企業」のその場しのぎ体質は、学校DXをますます混乱させることになるだろう。竜ヶ崎一高の太田垣は「日本の学校の腰の重さは桁外れ」などと言っているが、外資も国内もICT企業の融通無碍の無責任体質こそ「桁外れ」である。

 

 ひとりで150人の生徒を担任する

 教職員の労働条件・労働環境について、「私学教員ユニオン」が見解を公表している159。「学校法人角川ドワンゴ学園」理事の川上量生と「N高校」校長の奥平博一による記者発表160に対する反論である。「担任」となった教員の受け持ちはじつに150人であること、生徒から提出されるレポートは毎日200件に及び、1つのレポートを20秒で採点しなければならないことなど、過重な負担を生じて、生徒に対する指導に支障をきたしているという。それ以外にもキャンパスの清掃や受付業務なども課されるなど、一般の私立学校に比べても問題は深刻である。

 なお、本質的なことではないが、隈研吾が「設計」したヴァーチャル校舎と称するものがある161。建設しないことを前提に「設計」したというのであれば、構造力学的な合理性など無視して、さぞや自由奔放で壮麗なのかと思って見たところ、呆れるほど薄っぺらの締まりのない形状で、なんの魅力もない。隈研吾は中小規模建築を得意とするのであって、国立競技場をみればわかるように、およそ巨大建築物を設計するような建築家ではない。安倍晋三の介入で無に帰した当初のザハ・ハディッド(1950-2016)の国立競技場ならば、北京の銀河ギャラクシーSOHOビル(2012年)162の壮大かつ流麗な姿から想像するに、隈顕吾のものとは雲泥の差だっただろう。(もっともザハの巨大建造物では神宮外苑に相応しくないというのであれば、旧江戸城本丸か浦安あたりに作ればよかったのである。なお、相応しくないという点では、銀杏並木通りの北端の広場にその醜怪な姿をさらす「聖徳記念絵画館」の方がよほど相応しくない。)

 隈研吾のヴァーチャル校舎の出来上がりをみて一番ショックを受けたのは、たぶん川上量生だろう。返品するわけにもいかず、宮崎駿に依頼すればよかったと後悔したに違いない。もっとも、たとえ鈴木敏夫の紹介があったとしても宮崎は絶対に引き受けなかっただろう。これもまた、ICT推進者が現実 reality 認識をないがしろにしたまま、仮想現実 Virtural Reality ごっこに興ずることがいかに空疎であるかを示すエピソードである。

 

 株式会社ドワンゴが設置し運営する「N高校」と「S高校」

 「学校」を設置することができるのは、国(国立大学法人を含む)、地方公共団体、学校法人の3つだけである(学校教育法第2条を略記)。「株式会社立」の学校は、市町村の申請を受け文部科学省が指定する構造改革特区163に限り設置することができる(茨城県では、高萩たかはぎ市の第一学院高等学校高萩校、久慈郡大子だいご町のルネサンス高校がある)。設立するのは容易だが、税制上の優遇措置や私学助成金を受けられない。また、学校を設置する株式会社は、業務及び財務に関する情報を公開しなければならない。以前つくば市教育特区164にあった通信制のつくば東豊学園つくば松実まつみ高等学校が結局閉校している。

 「N高校」と「S高校」を設置したのは、株式会社ではなく、学校法人である。すなわち、「学校法人角川ドワンゴ学園」である。ということは、さきほどの「5分でわかる」(本稿53頁)に「KADOKAWAとドワンゴがインターネットと通信制高校の制度を活用してネットの高校“N高”を創立 その後、2021年に“S高”が設立」とあったのは、誤記だということになる。株式会社KADOKAWAとその子会社の株式会社ドワンゴは、「N高校」と「S高校」の設置者ではない。このように重要な点で間違うとはどういうことか。

 しかし、どうやら、この記述は単純な間違いとも言えないようだ。「学校法人角川ドワンゴ学園」は沖縄県から認可を受け2016(平成28)年4月に設立されてはいるが、実際にはそれはほぼ名目だけで、「N高校」と「S高校」は、税制上の優遇措置を受けながら、実質的には学校教育法第2条に違反して株式会社ドワンゴが設置運営しているのである。

 傍証がいくつかある。崎谷美穂『ネットの高校、日本一になる』(2021年、発行:株式会社KADOKAWA)は、フリーランスライターが、現地沖縄と東京で取材して書いたもののようだが、こういう記述がある。

 

ドワンゴというIT企業が運営を担っているため、内部では業務の自動化も進めている。……ICTでブラックな勤務環境を改善する施策においては、そのうちN高がモデルケースとみなされるかもしれない。(180-181頁)

 

N高とそれを支えるドワンゴは、世界トップのEdTechカンパニーになるステップを、段階を追って進んでいこうとしている。(258頁)

 

ドワンゴは株式会社として教育市場に入っている……」(川上〔量生〕さん)(264頁)

 

 長期にわたる取材で、しかも「N高校」に好意的なスタンスで書かれているのだから、悪意にもとづく誤記誤解ではない。曖昧な記述ではあるが、実質的には株式会社立学校だというのである。

 株式会社ドワンゴのウェブサイトの代表取締役社長夏野剛の「代表挨拶」も同様である。

 

ビジネス的に難しいとされてきた動画配信プラットフォームで黒字化し、ネットの会社なのに日本最大級のリアルイベントやライブを毎年開催して日本中から注目を集めました。
2016年には通信制高校を開校いたしました。デジタルテクノロジーを活用し、最先端の教育とコミュニケーションを届けるこの事業は社会に受け入れられ、生徒数は国内最大の2万人以上となり、さらに拡大を続けています。165

 

 理事長や理事・監事も含めた学校法人の職員が、その学校法人の設立に関与した株式会社の役員や従業員を兼ねていたりすることはあるだろうが、そうであっても、どちらの組織の人間として行動しているかは峻別しておかなければならない。株式会社の役員や従業員が学校法人の職員を兼職する場合には、いずれの日、どの時間に勤務するのか、双方の間であらかじめ契約するはずである。当然、報酬や賃金についての経理文書はそれぞれにおいて作成保存される。株式会社では内部監査・外部監査があるし、学校法人は都道府県が指導監督し、学校法人が設置した学校に対しても都道府県のヒアリングと実地調査がおこなわれる。設立に関与した株式会社の人間が、学校法人の人間でもないのに、学校法人が設置する学校の設置や運営に関わることは、あってはならないことである。

 そんなことがおこなわれるとすれば、学校法人は実質的には機能していない名前だけのもので、株式会社が学校を設置運営しているということになる。これは、学校教育法に違反するものであり、学校法人としての違法に税制上の優遇措置を受けているということになる。広域通信制の学校ということで、補助金については文部科学省が管轄することになる。「学校法人角川ドワンゴ学園」は、まだ補助金を受けていないようであるが、この状態で補助金を申請すれば、明らかな法律違反である。

 

 株式会社ドワンゴで「N高校」をつくった大井川

 ここまでの話であれば、たまたま茨城県の廃校跡地と空き校舎を「本校」として、私立の広域通信制高校が設置された、というだけの話である。しかし、知事になる前年の2016(平成28)年に株式会社ドワンゴの取締役になった大井川は、この件に深く関係しているのである。

 2020(令和2)年10月14日、「S高校」設置についての発表会166が開催された(会場は不明)。そこに私人としてではなく茨城県知事として大井川和彦が出席している。ウェブ記事によると次のように言ったという。

 

 大井川氏は以前ドワンゴの取締役を務めており、N高の立ち上げに携わっていた今回、新たに開校するネットの高校の構想を知り「ぜひ茨城県に」と、声をかけたという。

 大井川氏は「今の教育に不足しているものをN高は持っている。茨城県の公教育にとっても良い刺激となれば」とコメントした。167

 

 そのうえで、6人で記念写真に収まっている。すなわち、「S高校」の小さな錦織の校旗を左右から掲げるのが校長になる予定の吉村総一郎と「学校法人角川ドワンゴ学園」の「CEA」とかいう役職の鈴木寛で、彼らに挟まれて画面中央で校旗の後ろに立つのが大井川とつくば市長五十嵐立青たつお、左右に添え物のように立つのが「学校法人角川ドワンゴ学園」理事の夏野剛と川上量生である。

 もちろん端っこの2人が最重要人物で事実上の「学校法人角川ドワンゴ学園」の支配者である。なお、川上については「角川ドワンゴ学園の理事であり『普通科プレミアム』〔その後「普通科」に改称〕を共同開発した株式会社バーチャルキャストの取締役会長も務める川上量生氏」と説明されている。たんなる発表会のニュース記事だが、組織関係とそこでの人間関係が一目瞭然となっている。

 「今回、新たに開校するネットの高校の構想を知り『ぜひ茨城県に』と、声をかけた」というのは大嘘である。大井川はお客さんなどではなく、まさに「S高校」設立のために率先して動いた、関係者のひとりなのである。さらにいうと、そのために知事になったと考えたほうが、辻褄が合う。

 大井川本人の発言をもうひとつ引用する。「S高校」設置発表の3年前、知事になった直後、2017(平成29)年11月24日の発言である。9月26日の就任から2か月、本稿3頁で見た天才=ビル・ゲイツ論を展開した「茨城県総合教育会議」での発言である。例によって、興奮したのか〝あわあわ〟状態だが、英語とプログラミングについて特定の者の教育の必要性を説くなかで唐突にドワンゴと「N高校」の話が飛び出す。ワンセンテンスが延々続くので、引用は途中で切る。

 

「プログラミング教育も文科省が学習指導要領で位置づけるものは基礎的なものとして全員に義務的に勉強してもらっていいと思うんですけど,もっと興味を持っている人がもっと先に行きたいって言うのを助けるようなそんなことできないかなと思っていましてね,この仕事に就く前にわたし通信制高校を自分で作った,ドワンゴって会社で一緒に作った経験があるんですけど,やっぱり興味ある人がもっと意欲を持ってっていうそこのサポートって意外と日本ってなくて,みんなが一緒に底上げするサポートっていっぱいあるんですけど,〔以下略〕」

 

 大井川は取締役として株式会社ドワンゴにいたのであり、「学校法人角川ドワンゴ学園」にいたわけではない。その株式会社ドワンゴの人間が、通信制高校、これが「N高校」のことだが、それを「自分で作った」「一緒に作った」と明言しているのである。

 違法行為を自白広言しているのだから、たいしたものである。しかしこれもまた、大井川の模倣性向のゆえなのである。実質的には株式会社立なのに、名目上は学校法人立であるから、外に向かっては決して本当のことは言わないとする当然のことは、誰も考えもしなかったようだ。ウェブサイトにおける株式会社ドワンゴ取締役の夏野剛、インタビューに答える株式会社ドワンゴの川上量生、「学校法人角川ドワンゴ学園」のウェブサイトでの説明文など、違法行為を一糸乱れず自白広言して憚らないのである。「一緒に作った」その株式会社ドワンゴから来た大井川和彦としてみれば、決して口にしてはいけない秘密であるとは思いもせずに、議事録が残る会議の場や、インターネット上で流布され続けるネットニュースが記録する会合の場で、得意になって吹聴したのである。こういうことについて指摘してくれる人もいないようで、いまだに「失言」の自覚もないようだ。

 大井川は、自分は日本国憲法第15条にいう「全体の奉仕者」であるとはまったく考えていないのであり、あたかも株式会社ドワンゴから出向しているかのように振る舞うのである。その意味で大井川は、「民間人知事」なのである。学校教育法を蹂躙する行為とあれば、株式会社ドワンゴの人間であっても役員を辞するくらいでは済まないだろうが、よりによって「S高校」を認可し指導する知事部局(総務部総務課私学振興室)の長として大井川和彦は、いかにしてその責を負うのだろうか。

 

【追補】 茨城県庁職員に「S高校」設立のお手伝いをさせる

 本稿が一応完成し組版も済んだ時点で、茨城県庁に開示請求していた文書が届いた。8月に「S高校の誘致に関する行政文書一切」の開示を請求したところ、秘書課では、知事の業務遂行に関するものは公用車の運転記録を含めてすべて廃棄済み、担当課の産業戦略部技術振興局技術革新課でも、関係文書は全部廃棄済なので、当の物件が存在しないとして「不開示決定」処分を下した。それというのも、茨城県文書等整理保存規定によれば「事務事業の計画及び実施方針の決定並びにこれらの変更に関する文書等で特に軽易なもの」の保存期間は1年なので、いずれも翌年度末に廃棄したというのである。

 これに対して、処分は違法であるとしてその取り消しを求めて、原処分者の茨城県知事に審査請求を提起したところ、他課において関連する文書が存在するので、原処分を取り消したうえでそれらを開示するとして、「S高校」誘致に当たって、県職員を出張させた際の14件分の「旅行命令票」を送ってきた。会計事務局にあったようで、「S高校」誘致は「特に軽易」な案件だと称して廃棄隠蔽したとしても、まさか厳正な取り扱いを旨とする金銭出納業務とあればそうはいかないわけである。とんだところで小さな尻尾を出した。

 そうなると、この7節はその件を踏まえてだいぶ書き直さなければならないことになるが、少々スペースを空けて摘記するだけにする。簡略ながらも「用務内容」が記されているのでそのまま転記し、旅行期間、旅行者(いずれも産業戦略部職員)の人数、目的地の名称、住所(略記)を付記する。(局は部の内部組織で、普通とは逆)

 

2018(平成30)年

○9月20日 「N高等学校との意見交換」3人、株式会社ドワンゴ、中央区銀座・歌舞伎座タワー

○12月11日 「(学)角川ドワンゴ学園との打ち合わせ」3人、(学)角川ドワンゴ学園東京事務所、中央区銀座・歌舞伎座タワー

○12月25日 「(学)角川ドワンゴ学園との打ち合わせ(第2回目)」部長小泉元伸他2人、(学)角川ドワンゴ学園、中央区銀座・歌舞伎座タワー15階

2019(平成31)年

○1月11日 「(学)角川ドワンゴ学園との打ち合わせ(第3回)」部長小泉元伸他2人、(学)角川ドワンゴ学園東京事務所、中央区銀座・歌舞伎座タワー

○1月16-17日 「N高校沖縄本校視察」技術振興局長他3人、N高校沖縄本校、沖縄県うるま市与那城伊計224

○1月28日 「(学)角川ドワンゴ学園との打ち合わせ(第5回)」3人、(学)角川ドワンゴ学園東京事務所、中央区銀座・歌舞伎座タワー15階

○1月30日 「廃校活用に係るつくば市打ち合わせ」技術振興局長他2人、つくば市役所、つくば市研究学園1-1-1

○2月13-14日 「N高つくば視察(二日間かけてN高関係者に対して、つくば市内を案内、県職員が送迎する)技術振興局長他3人、つくば市

○2月15日 「N高関係業務」1人、「打合せ室」、小美玉おみたま市佐才さざい265-3

○2月21日 「つくば市N高打合わせ」3人、つくば市役所、つくば市研究学園1-1-1

○3月12日 「N高・つくば市打合わせ」3人、つくば市役所、つくば市研究学園1-1-1

○5月24日 「N高校地元説明会(第1回目、第2回目)1人、つくば西中学校、つくば市作谷578-2

○5月25日 「N高校地元説明会(第3回目)1人、市民ホールつくばね、つくば市北条ほうじょう5060

2020(令和2)年

○10月15日 「S高等学校新設に係る記者発表会」1人、CROAK PRIME Studio、渋谷区広尾1-1-7

 

 最後の2020年10月15日は、前述の6人記念写真の発表会の翌日である。

 「S高校」設立発表までは、株式会社ドワンゴは「N高校」を名乗って行動していた。茨城県職員が、いちいち東京、さらには沖縄にまで出かけ、時には校舎の下見の送迎までいたして、そのお手伝いをして差し上げていた。小泉元伸とは、2020(令和2)年4月1日、任期途中で辞職した柴原宏一に代わって教育長になり、2022(令和4)年3月31日に任期途中で辞職したあの小泉元伸である。大井川は小泉ら茨城県職員を便利に使ったのである。

 【追補ここまで】

 

 「連携協定」に基づいて「N/S高校」が茨城県立高校に浸潤する

 大井川による「S高校」に対する特別待遇はなおも続く。2021(令和3)年3月25日、茨城県知事大井川和彦は、「学校法人角川ドワンゴ学園」理事長山中伸一168との間で、「教育・地域活性化包括連携協定」を締結した。「教育向上や地域の活性化」という目的の達成のために、「教科教育、特別活動、部活動などの教育分野」、「オンラインシステムなどの情報通信技術を活用した教育」、「産業振興」、「その他」である。部活動や産業振興など、教育過程の範囲を逸脱しているし、教科教育におけるICT活用とあるのは、「ドワンゴ」側から茨城県側への技術導入を図ることになるだろう。もっとも、法律制度上は、この「連携協定」は、茨城県知事と「学校法人角川ドワンゴ学園」理事長との間のものであり、茨城県立学校に効力が及ぶようなものではない。2015(平成27)年改正の地教行法によっても、「大綱的基準」でも何でもないこのようなものを、大井川が県教育庁に強要することは許されるものではない。

 しかし、許されないことが強行される。「学校法人角川ドワンゴ学園」は、茨城県教育庁に対して、矢継ぎ早に働きかけをおこなっている。県教育庁は、それらを言われるままに県立高校に取り次いでいる。2022(令和4)年4月には、「角川ドワンゴ学園『起業部』参加者の募集」として、「N/S高校起業部」に、県立高校の生徒を受け入れ、参加費無料で、「起業に向けたヒトモノカネの三位一体のサポートを受けられます」という。学外団体の活動への参加は自由であるが、「N/S高校」の部活動という法令に根拠のない学外団体の活動への参加を県教育庁高校教育課が各校長を通じて呼びかけるとあっては、とんでもない公私混同の脱法行為である。携わった県職員は職務専念義務に違反するから、本来なら懲戒処分の対象となる。生徒に事故があれば当然補償対象外となるだろう。

 当然、参加呼びかけでは終わらない。同じ2022(令和4)年4月には、「N/S高校」で実施している「プロジェクト型学習『プロジェクトN』において、株式会社ローソンと協働したプログラム」として「『e-sportsをサポートする食品』をテーマにした商品開発を行い、茨城県内のローソンで販売」することについて参加校の募集があった。生徒個人ではなく、学校としての参加を求めるというもので、これに県立水海道第二高校が応募し、3年生チームが参加して「ぱくぱくプロテインド~ナツ」が「最優秀」となり、県内どころか関東甲信越4,800店舗で販売された。2023(令和5)年2月に同校の校長と「指導教員」および生徒、「角川ドワンゴ学園経験学習部部長」(生徒か?)、高校教育課長柳橋常喜が、大井川を表敬訪問したという。教育庁職員と水海道二高の校長、指導教員は、営利企業による営利行為に生徒を従事させ、自らも従事した。当然、地方公務員法違反である。

 2021(令和3)年5月には、「角川ドワンゴ学園による国際教育プログラム」としてスタンフォード大学の「オンラインサマープログラム」と「オックスフォードインターナショナルスタディセンター中高生対象国際教育プログラム」への参加者募集がおこなわれた。その後コロナ明けということで、「オックスフォード国際教育プログラム」に土浦一高の生徒が選ばれ、2023(令和5)年7月から8月にかけて、実際にイングランドに9日間滞在した。169

 「N/S高校」は、「部活動」「生徒会」に対してかなりの金額を投入したうえで、ウェブサイト上で生徒募集のための宣伝材料とするだけでなく、茨城県に対してしているように、「N/S高校」の影響力拡大のいとぐちとして利用しているのである。たとえば、生徒会執行部170には年間1,000万円の予算を与えるが、顔出しと本名使用を義務付ける。部活動の指導者として、放送局も二の足を踏むような有名人を動員する。村上世彰が指導する「投資部」171では、村上の判断で、ひとりあたり20万円を与えて株式投資をさせる172。「政治部」173は特別講師三浦瑠麗174が担当し、著名な国会議員などを呼んでイベントを催す(大井川も出演した175)。一部の生徒の外国派遣にも多額の費用を投入する。

 こうして授業以外の活動の豊富さを宣伝するのである。「N/S高校」は潤沢な学校予算を裏付けとし、すべてにおいて桁違いかつ極端である。こうした場面に参加して、「利益」を受けることのできる生徒はきわめて限定されているうえ、完全に「学校法人角川ドワンゴ学園」理事が主導権を握っていて、参加する生徒はいわば生きた宣伝材料としてめいっぱい利用されるのである。

 「英語」「起業」「平等からの脱却」

 このように、大井川の私的経歴に動機づけられた教育行政介入により、実質的には株式会社ドワンゴである「学校法人角川ドワンゴ学園」の茨城県行政・教育行政への浸潤が急激に進んでいる。キーワードは、「英語」「起業」「平等からの脱却」である。公平の否定ということで、本稿冒頭(5頁)で大井川の発言をとりあげたが、じつは自分で考えたのではなさそうで、これも株式会社ドワンゴ時代に教えられた論法なのである。

 

「今の日本の高校は、平等を建前にして均一性や同一性がベースの教育システムがつくられているんですよ。一例として、今は運動が苦手な子も、アスリートとして活躍している高校生も『指導要領に書いてあるから』と全員同じ体育の授業を受けている。それは教育上、本当に必要なのでしょうか」(夏野〔剛〕さん)176

 

 「アスリート」がどの程度のものか曖昧だが、その是非は別として、そのような生徒は学校の部活動やさらにはスポーツ庁の「競技力向上事業、ハイパフォーマンス・サポート事業」177等により、十分なトレーニングの機会を与えられているのであるから、「体育の授業」の問題などではない。夏野はなんとなく画一的だと罵っているだけで、具体性・論理性はかけらもない。これでは、「N/S高校」は「指導要領」を無視すると言っているようなもので、こういう乱暴な発言は、学校経営者としては許されるものではない。本当にそのようなことをすると「N/S高校」の存続すら危うくなる。しかし、2016年ころに、株式会社ドワンゴの社内ではこういう論法が頻繁に使われていたのだろう。それまで学校教育に関心などなかった大井川が、知事就任2か月後に早くも口にしたのは、その時そこで聞き齧ったこの幼稚な論法だった。

 

 1億2,496万円の「茨ひより」

 大井川による県庁DX事例もひとつ見ておく。大井川は、県庁の産業戦略部に、「茨いばらひより」による茨城県の広報宣伝をおこなわせている。

 「茨ひより」はアニメーターの「ハルタスク」178がデザインしたアニメキャラクターで、茨城県庁が運営する「いばキラTVティービー179上で使用されている。現在の「いばキラTV」は茨城県知事大井川和彦が株式会社茨城放送代表取締役社長阿部重典に、2023(令和5)年4月1日から1年間の運営費として1億2,496万円で委託し、即日、茨城放送が株式会社TRIBALCON(東京都渋谷区)と株式会社パブリックアート(水戸市)に再委託して運営されている。具体的には、「若年層を中心に本県に対するイメージの向上を図るとともに、国内外に向けた観光誘客に特化した動画」を「130本程度」作成し、茨城県のYouTubeアカウント180で公開するというものである。

 「若年層」向けということで、在り来たりの感覚発想で若年女性のアニメキャラクターを作ったのだろうが、個人や民間企業ならともかく、地方公共団体が「公式」キャラクターとするのは、LGBTQ運動やルッキズム批判の高まりという時代趨勢から完全に取り残された、時代錯誤どころか時代逆行の感性を印象付ける。さらに、茨城というと必ず「茨城弁」が登場するのだが、県外とりわけ東京から向けられる漠然とした蔑視感覚に過剰適応しようとするもので、たとえば今日「ごじゃっぺ」などという人はいないのに、「茨ひより」が「ごじゃっぺ」を絶叫するなど、茨城県の「青年層」には受け入れ難いものとなっている。「国内外に向けた観光誘客」という場合に、「標準語」と「茨城弁」のバイリンガルで「感情的になると周囲が見えなくなり茨城訛りが強く出る」女性をを登場させる意味はないのであって、大井川の「周囲が見えなくなる」傍若無人さは、益々顕著になっている。

 2023年4月の1か月分の費用1,210万円の内訳は、動画制作費100万円、「茨ひより」キャラクター代金1,000万円、SNS運用35万円、サイト運営40万円、その他35万円である。桁を間違って記載したわけではない。ひと月で1,210万円分費やした上でのYouTube動画の再生回数は27,838回に過ぎず、コスパも最悪である。なお、6月30日時点で、1年分の総額1億2,496万円のうち9,996万8千円をすでに支払済みである。世の少年少女たちが「将来の希望は、YouTuberユーチューバーになること」と言ったりする時代である。かれらは動画投稿でおおいに稼げると思っているのだろうが、お金儲けどころかYouTube動画に大金を投入し続ける茨城県庁の失策を見て、何と言うだろうか。

 茨城県庁は、この「茨ひより」に音声変換システムで入出力してChatGPTで受け答えする「AI茨ひより」181を開発し、「ニコニコ超会議2023」会場で作動させた182。「ニコニコ超会議2023」183は、株式会社ドワンゴが、2023年4月29日(土曜)と30日(日曜)に幕張メッセ(千葉市)で開催した「サブカル」分野の展示会であり(ほかに、4月22日から30日まで「ネット開催」)、大井川の出身企業である株式会社ドワンゴの事業である。茨城県は延べ10人以上の県職員を出張させて、120万円支払って確保した間口6メートル、奥行き4メートルのブースでの展示発表を実施した。

 なお、「運転日誌」によると、1日目の4月29日に知事公用車(日産エルグランド)は286km運行している。「運行先」は「浦安市 千葉市」とある。「千葉市」だけであれば、水戸市笠原町の県庁舎と千葉市の幕張メッセの往復ということだが、「浦安市」とあるところを見ると、おそらく千葉市の幕張メッセに顔を見せた後、大井川は浦安市の「自宅」まで送らせてそこで下車し、公用車は空車状態で水戸に帰したのだろう。浦安市は幕張メッセから間に船橋市をはさんで20kmほどのところにある。一般の県職員であれば、立ち寄って水戸に帰ったにせよ、あるいはそこで出張を終わりにして泊まったにせよ、復路は私的行為とみなされ勤務時間からは除かれ年次休暇扱いになり、当然旅費も支給されない。本来なら、幕張メッセから「自宅」までは自分で料金を支払って電車かタクシーで移動すべきであった。空車で返したのでなく、立ち寄っただけでも公用車を私用のために運行させたことになる。大井川の公私混同癖はあいかわらずのようだ。

 

 次に狙うのは農業と農村

 「茨ひより」は難航しているが、大井川の間違った「ブランド」志向による、前例のない戯画的独善的茨城県行政運用は今後も続くだろう。すでにつぎの狙いも定まっているようだ。

 

 農業高校については、最大の課題として、やはり農業を生業とされた場合に、どう成功していくかということの意識付けのきっかけみたいなものを、きちっと農業高校で学ぶことが重要かなと。栽培方法の学習に集中するだけではなく、栽培して育成したものを、どう利益を出す形で、どうやって値付けをし、流通に出して、販売していくかということも視野に入れた形で学べていくような、そういう新しいカリキュラムを作ることができないかということを、今、検討を進めております。農業高校の方々が卒業したときには、栽培方法に加えて、農業経営という分野もしっかりと学んで、かつ体験できるような、そういう仕組みを今後、充実していきたいと思っております。184

 

 「新自由主義」政策の次のターゲットは農業と農村である。北海道に次ぐ大農業県としての茨城県に、大井川は短慮にもとづいて変動をもたらそうとしている。紙数が尽きたので、この件は次の機会に検討する。

(終)

 

 

 

133 2023(令和5)年4月27日定例記者会見、https://www.pref.ibaraki.jp/bugai/koho/hodo/press/19press/p230427.html##2

134 たとえば情報理工学博士である「起業家」の岡野原大輔おかのはらだいすけ『大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた世界』(2023年、岩波科学ライブラリー)で挙げられている一例が、「10歳の男の子の誕生日にはどのようなものがお薦めですか. 5つほど例を挙げて. また, それらの理由についても教えてください. 」である(4頁)。それでも岡野原は、タイトルのとおりChatGPTなどの大規模言語モデルは「生活や社会を変えうる」(6頁)のだと言う。

135 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)の、2018年に改正された第34号の4第2項を根拠にして、人工知能の「学習」のために、「学習データ」として入力するものについては、すべて著作権法による保護の対象外だとする解釈がこの〝業界〟では有力らしい。つまり書籍・絵画映像・演奏など何でも取り込み放題だというのである。演算処理は国外のスーパーコンピュータでおこなわれるにしても、入力するのが国内であれば国内法が適用されるから合法的だという、おかしな解釈である。とはいえ、それにしても人工知能の「学習」の場合に限られ、そのデータをその後も流用すると、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当するので違法である。

第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。〈 略〉

   情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合

136 https://www.gutenberg.org/

137 基幹的な軍事情報通信機能や原子力発電所の基幹的な制御機能などはインターネットに接続していないに違いない。侵入攻撃を防ぐためには接続しないのが唯一有効な対処法なのである。このように、インターネットに接続していない情報処理機能体系が広範に存在することにも留意しなければならない。

138  一例を挙げる。新型コロナ(Covid-19)が蔓延した2020年から2023年の全過程において、国とほとんどの地方自治体は感染症対策の基本としての大量検査と隔離・治療の実行、そのための医療態勢確立を全て怠り、特権階層以外の一般国民に対してはPCR検査を制限・拒否し、感染判明しても大部分を放置(「自宅待機」)する医療拒絶方針を実行してきた。もし感染しても、治療入院はもちろん、感染したか否かの検査もしてもらえないという、いつ、どこの話かと思うような人命軽視行政が、最後まで改められることがなかったのである。(その一方で、政権中枢など特権階層に属する人たちは、平気で会合を開いたり宴会をしたりしていたのであるが、それというのも彼らはもし何かがあっても、自分たちだけはPCR検査をしてもらえるし、必要なら特別室に入院して手厚い医療をうけられることがわかっているからである。大井川が毎週、千葉県の自宅に帰ることができたのも、そういう安心感があったからである。)

 検査もしないし、治療もしないという診察・治療不実施体制にあっては、ICTに機能発揮の余地はない。当然、そこからのデータ取得に依存するAIにも能力発揮の機会はない。仮に部分的情報入力によってAIがありがたいご託宣を下したとして、それを実行する医療体制が存在しない。日本国家におけるCOVID-19状況下では、IoTとAIは完全に幻影だったのだが、次に何かあっても同じことだろう。そういえば、2011(平成23)年の福島第一原子力発電所の爆発飛散事故の際にも、重要データは測定停止、隠蔽、消去、公開禁止されたのだった。  

 ここで、坂村健の登場である。坂村は東京大学工学部の助手だった1980年代前半の時点で、大型コンピュータから、制御用マイクロコンピュータ、そしてビジネス用パーソナルコンピュータまで、各領域のコンピュータ用OS(オペレーティングシステム)のセット、すなわちトロン・システムを作り上げた、おそらく日本のICT史上最高の「電脳建築家 computer architect 」(坂村の造語)である(坂村健『TRONからの発想』1987年、岩波書店)。CPU(コンピュータの中央演算装置)の新設計・製造も構想していた。もしそれらが実用化されていれば、日本国内のパソコン用OSの市場では、マイクロソフトのMS-DOSエムエスドスさらにWindowsウィンドウズ、アップルのマッキントッシュ用OSなどを抑えて支配的地位を獲得した可能性が高い。しかし、トロン・システムは、一部の制御機器で採用(ITRON)されたのをのぞいて、中心の事務用コンピュータ(BTRON)は実用化されずに終わった。その後、坂村は「ユビキタス」、すなわち今日のIoT(Internet of Things 物のインターネット)を提唱するなどしたが、結局日本のビル・ゲイツになることはなく、東大定年後は東洋大学に移り、現在は、角川とドワンゴの周辺で著作などをおこなっているようだ。

 坂村は、AI, ICTの限界を画するデジタル情報の不存在という原理的=究極的弱点をよく認識しているようで、DX(デジタル化)についての著作のなかで、新型コロナ蔓延時の検査拒否体制を正当化するために、新書の中で場違いなことに14頁も費して延々議論を展開する(『DXとは何か』2021年、角川新書、142-155頁)。

 坂村は、「検査を希望した人にはどんどん検査すればいい、というのは科学的に間違っている」、「国民全員にPCR検査を受けさせるのは非現実的だ。〔……〕1億2千万人に検査するとすれば、医療資源を全振りして、米国並みの1日数十万件という検査をしても、1年近くの時間がかかる。」という。

 希望者全員とか、国民全員を一挙に検査するという、誰も言っていない誤った仮定を置いてそれを論破してみせる、典型的なすり替え論法である。発熱があり、ひどい症状に苦しんでいるのに検査を受けられず、医療を受けることなしに死亡する事例が続出したのを無視する支離滅裂な詭弁である。

 さらに言う。PCR検査は検査の際に汚染が拡散しやすく、他の検体を汚染して「偽陽性」をつくりだして検査精度も低下させ、医療従事者への感染拡大の危険もあるとしたうえで、唐突に「CTは感度は高いが特異度は低く、スクリーニングに向いている」として、PCR検査の前に、CT(コンピュータ断層撮影)で検査をするのが妥当であると主張する。効率的で簡易なPCR検査にケチをつけておいて、CTが良いと言い出すなど、一流のコンピュータ技術者だった坂村健の議論とは思えない。こうまでして厚生労働省方針を擁護するのも、ICTの原理的限界の例としてのデータ欠如を正当化しなければならない、その必要性に駆られての無理筋の議論だった。

139 https://www.youtube.com/watch?v=aS9kYbfUdxI (33’00”以降)

140 http://ikei-shochu.edu.city.uruma.okinawa.jp/

141 https://nnn.ed.jp/high_school_feature/n_high_school/

142 https://www.city.tsukuba.lg.jp/soshikikarasagasu/toshikeikakubukoyuchirikatsuyosuishinka/gyomuannai/2/1/1/1006840.html

143 https://nnn.ed.jp/high_school_feature/s_high_school/

144 https://nnn.ed.jp/high_school_feature/introduction/

145 2023年4月22日、https://note.com/symphonicbrain/n/n6696b35fadd2

146 https://www.ryugasaki1-h.ibk.ed.jp/竜ヶ崎一高とは/ようこそ竜ヶ崎一高へ

147 私企業の活動に対する「規制緩和」政策だけが「新自由主義」の本態なのではない。国・自治体による積極的な予算投入、公共財産の無償または格安提供により、特定産業分野・企業群(一分野とは限らない)の成長拡大を促進する(当然それ以外の産業分野・企業群を見捨てることになる)ための積極的立法・行政(それらを容認する司法)の実施こそが、現代日本の「新自由主義」(「新しい資本主義」)である。そのための新法制定、省令による既存法律の骨抜き、担当する特定官庁の権限拡大と「官邸」への登用、それに抵抗する官庁の権限剥奪が断行される。公立学校については低予算継続と、事実上の選別格差の「複線」型制度への発展、労働条件改悪、ICT拡大、そして「個別最適化」された授業への転換(学習指導要領の根本改訂)である。

 なお、経済への政府の介入は別段目新しいものでもない。製鉄、造船、重電、原子力発電、家電、自動車、鉄道・港湾・道路などの土木建設、流通、ICT等の領域に参画介入してきたのは、主として通商産業省=経済産業省、建設省・運輸省=国土交通省である。全体としては明治以来の「財閥系」大企業集団への格段の利益供与によるその維持にご奉仕してきたが、いくつかの基幹的領域では決定的な失敗(原子力発電の巨大事故と破綻、治水の破綻による水害常襲化)を招き、いくつかの分野では順当に成長する諸外国にくらべてかなりの劣位(家電・自動車・ICT)を呈している。しかも、優遇の一方で「国民経済」の冷遇によるその衰退困窮化、たとえば、大規模店舗の制限撤廃による地元商店街の壊滅、解雇条件の緩和、非正規雇用の容認、民間職業斡旋業解禁による、雇用不安定化=失業率上昇、賃金の低下、労働条件の切り下げなどが起きている。

148 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

149 「学校法人角川ドワンゴ学園」の理事の名簿などは、https://nnn.ed.jp/corporate/

150 松永真理『なぜ仕事するの?』2001年、角川文庫

151 夏野剛『1兆円を稼いだ男の仕事術』2009年、講談社

152 夏野剛『iPhone vs. アンドロイド』2011年、アスキー新書

153 https://www.youtube.com/watch?v=aS9kYbfUdxI、なお、川上は「僕、英語喋れない」と言っている(11’00”以降)。

154 『会社四季報』第475号、2020年、東洋経済新報社

155 その名称のとおり、Facebookを運用するMetaが開発したもので、OSはAndroid、128GBモデルが59,400円(2022年8月1日価格改訂)。

156 https://nnn.ed.jp/learning/vr/

157 川上量生『鈴木さんにも分かるネットの未来』2015年、岩波新書

158 2023年10月10日、MetaQuest3が発売された。これは、VR(仮想現実)とAugmented Reality(拡張現実)を組み合わせたMixed Reality(複合現実)とのことで、価格も上昇し128GBモデルが74,800円。

159 https://shigaku-u.jp/2021/07/【n高】「一連の報道に関する、角川ドワンゴ学園/

160 https://www.youtube.com/watch?v=PiLL9FY7pMk

161 https://www.youtube.com/watch?v=XHeAM8XEKRk&t=2s

162 https://journey.tw/galaxy-soho/

163 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/attach/1411966.htm

164 https://www.chisou.go.jp/tiiki/kouzou2/kouhyou/071122/dai15/05toke.pdf

165 https://dwango.co.jp/company/

166 https://nnn.ed.jp/news/blog/archives/11416/

167 https://edtechzine.jp/article/detail/4583

168 文部科学省職員で、2010年に初等中等教育局長、2013年から2年間文部科学事務次官をつとめた。いずれも前川喜平の前任だが、2人は退官後は対照的な道を歩んでいる。文科省教育行政への挑戦ともいうべき「学校法人角川ドワンゴ学園」への山中伸一の転身は、文科省教育行政の自壊の予兆と言える。

169 https://www.tsuchiura1-h.ibk.ed.jp/announcements/announcements/view/2317/b3d35d95802e13902ea188052e2414bf?frame_id=2477&from_topics=true

170 https://nnn.ed.jp/about/seitokai/

171 https://nnn.ed.jp/about/club/investment/

172 https://president.jp/articles/-/37708

173 https://nnn.ed.jp/about/club/politics/

174 https://www.youtube.com/watch?v=wI69WuZ_ob8

175 https://www.youtube.com/watch?v=PJ2HdL-ODGI

176 崎谷前掲書、216頁。

177 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop07/list/detail/1372076.htm

178 https://twitter.com/emo863063

179 https://www.ibakira.tv/

180 https://www.youtube.com/channel/UCErkC29SJY8RGSpIJa9qJoA

181 https://www.youtube.com/watch?v=8V7UT_Swgfs&t=320s

182 https://www.youtube.com/watch?v=A19GRzp2Xgohttps://www.youtube.com/watch?v=Ax5GT7O-pYg

183 https://chokaigi.jp/2023/about/

184「令和4年度茨城県総合教育会議」議事録、2022(令和4)年12月8日、https://www.pref.ibaraki.jp/bugai/seisakushingi/chousei/sougoukyouiku/documents/221208_r4sougoukyouikukaigi_gijiroku.pdf、6-7頁。