MINIの設計思想と品質 1

 きわめて短時間の試乗ではわからないような、実際の車の状況についてその概略を記してみます。メーカーから接待をうけつつ「試乗」して「評価」などとおこがましいことを言っている「自動車評論家」たちは、以下に列挙することについては、ほとんど言及していません。短時日の「試乗」では気づくものではありませんし、かりに気づいたとして食扶持を失う危険を冒してまで書いてしまう世間知らずの愚か者は存在しないわけですから。

 なお、直進安定性、旋回性能などハンドリング特性における致命的な問題点については、「製造」メニュー中の「ゴーカートフィーリング」ページで、さらにこの点についてのBMW日本法人のきわめて不誠実な態度については「保証」メニュー中の「無策」にて詳細に記述するので、ここでは触れないこととします。

 まず、周辺的な状況からみていきます。とはいっても、多くの場合のミニの購入動機になるようなみてくれについては、議論する意味はありませんから(要するに好き嫌いの次元のどうでもよい話です)、実質的なものに限ったうえで、そのうえで周辺的なところから見ることにします。

 

メーター類の視認性と各操作スイッチの操作性

 

 当該車両にはついていませんが、ヘッドアップディスプレイなどという邪道がずいぶん一般化しています。運転席正面のダッシュボード上面に垂直に立った透明プラスチック板にいろいろな情報を表示する機構です。投影される表示が道路に被るわけで、本質的に不適当なものです。しかも、合焦点は、数m先であり、当然道路(それ自体奥行きがありますが)と一致せず、結局眼球の焦点移動は不可避です。さらに視点の移動により映像が上下左右に動くことになり、ひじょうに煩わしくなります。そこに表示するう必要があるとしてもせいぜい、速度とナビ情報のうち右左折方向くらいなのに、道路標識情報だとかあげくはラジオの放送曲名などかえって邪魔なだけでしょう。あのような余計なものをつけるよりは、メーターナセル最上部に液晶表示部をつければ済むことです。

 ミニ・ハッチバックの現行型は、ダッシュボード中央にあった速度計をやめて、運転席正面に速度計を置き、その左端に半円の回転系を置くのですが、速度計内下部に、平均燃費、瞬間燃費、平均速度、走行可能距離などのほか、速度を拡大表示することができます。小さな速度計は事実上読み取り不可能なのですが、これのおかげで速度を常時確認できるようになっています(もっと上にあるとよいのですが)。

 操作スイッチの操作性という点では、センターメーター跡地に設置された巨大な空間の無意味さが際立っています。上述のとおり、マーク1からマーク2にかけては、ここに巨大なスピードメーターがあったわけで、現行のマーク3では、オプションのナビゲーションのスペースとなっています。ナビゲーションのほか、オーディオコントロールや車両情報表示なども兼ねますが、主要にはナビゲーションのスペースです。オプションをつけないとこの広大な一等地は、オーディオコントロールと車両情報表示だけのためのスペースとなるのです。せいぜい1Dinあれば十分なのに直径20cm以上がこれだけのために使われ、結果的にエアコンのコントロールやエンジンスターターほかのトグルスイッチ(標準で3個、オプションで5個)が最下部に置かれることになります。ナビゲーションだけのスペースとしても5割ほど過大ですが、ナビなしの標準(?)タイプではこれ以上ないほどの馬鹿げたデザインとなっています。

 当該車両では、エアコン操作を頻繁にしなければならないのですが、直進性の欠如した車両では1秒と言わず、その何分の一かの視線移動でも大事故を誘発しかねないのですから、一応3つの別問題とはいえ、最悪の結果を引き起こしかねないのです。

 そのエアコンの問題とは次のとおりです。ミニ・ワンを除いて、クーパーとクーパーSではオートエアコンが標準装備となっています。ところが、この有難いオートエアコンは実質的にはオートではないのです。温度設定は1度刻みでデジタル表示される温度表示から左右独立に選ぶことになります。連動機能はないので、一人乗車の際には左右のダイヤルを操作することになります。風量設定は、連続風量変化ではなく、7段階のステップが刻まれていて、そこから一つを選ぶようになっています。その良し悪しはともかく、温度設定にあわせて風量を自動変化させるようにはなっていません。通例では、これではオートエアコンとはいわず、マニュアルエアコンと言います。風量の自動設定が必ずしも万能ではなく、結局こちらも手動で設定することがおおいのですが、問題はその先です。

 風量は7段階ですが、実際には2から5段階を使い、1や6、7はよほどの場合でなければ使わないでしょう。この4と5が落差が大きいのです。まるでトランスミッションのギヤ比の話のようですが、言って見ればよく使うギヤふたつがかけ離れていて、どうしても間に一つ欲しいのです。どういうことになるかというと、4では風量不足、5では過多となり、しょっちゅう切り替えることになります。直進性維持のために瞬時も外したくない視線を,そのつど多少の違和感を感じつつ、ほんの一瞬下げなければならないのです。

 本質的な問題ではないと嘲弄する向きもあるかもしれませんが、そうとばかりは言えません。このミニという見てくればかり気にして基本性能をおろそかにする車の欠点が集約的に現れる場面なのです。つまり、直進性欠如、無意味で巨大なセンターメーター跡地、下方におかれたエアコンコントローラーの弱点です。この解決は、ミニがミニでなくなることによらずしては、ほとんど不可能なのかもしれません。

 

運転姿勢

 

 ミニのもともとの設計が、左ハンドルであるのか右ハンドルであるのかははっきりしません。結局のところ、その基本構造をBMWブランドの小型車に流用することは当初から織り込んであったにちがいありませんから、左ハンドルが原型であると考えるのが妥当でしょう。それらしい証拠としては、ハンドブレーキレバーが左側によっていること、あまり本質的ではありませんが燃料タンク給油口が右側通行に適した車体右側にあること、排気管が歩行者から遠い左側にあること、などが指摘できます。

 左ハンドルが原型であり、右ハンドルが派生形であるとしても、そうはいっても同時に設計する、あるいは両方を想定して設計するのでしょうから、フランス車のように左ハンドルで設計し右ハンドルは間に合わせで対応するので、一見不自然な形を残しているというようなことは表面的にはないようです。20世紀後半には、BMWの車両でさえ左ハンドル用のワイパー(回転軸が左側)をそのまま右ハンドルにも使っていたことを想起すると、右ハンドル地域の大ブリテン連合王国のMINIブランドであるということを勘案しても、隔世の感があります。

 さて本題ですが、右ハンドル化されたミニ・ハッチバックの運転姿勢をみてみます。アクセルペダルは、一応自然に右脚を伸ばした先にありますし、したがってブレーキペダルも左によっていることはありません。ただし、ブレーキペダルとアクセルには大きな段差があり、アクセルからブレーキに右足を移す際に、ブレーキペダルの右側面にひっかかりやすくなっています。マニュアルミッションではないので「ヒールアンドトー」などという、レースまがいのことはしないにしても、あきらかに不適切な設計です。

 フロントウインドウの縦が極端に短く、通例よりはるかに直立し、しかも通常の車とくらべて大きく湾曲しています。そのため、中央付近のななめ上方の視界は、バックミラー(ルームミラー)があることもあり、非常によくありません。小さな交差点などで、信号機やカーブミラーを見るために、上体を大きく前方に動かし、さらには頭を左右に動かす必要があります。

 同じことですが、バックミラー(ルームミラー)が遠いので、運転姿勢をとったままではその角度調整をおこなうことはできません。上体を大きく前方に動かして調整するのですが、当然その状態では角度調整は完了しません。2度3度とやりなおす必要があります。

 自分専用の車両であればあまり問題にはなりませんが、家族などと共用する場合には、それでなくても椅子の前後、上下、背もたれの角度、左ドアミラー、右ドアミラーの調整をしたうえで、この難物が控えているわけで、「高級車」の位置記憶機能つき電動調整シ-トが欲しくなるところです。もっともバックミラー(ルームミラー)の調整まで位置記憶機能つきで電動調節する車は存在しません。なお、これらは、車体構造上の必然的結果であり、改良改善の余地はないでしょう。その意味で、欠点として糾弾するわけにもいきません。

 前照灯・尾灯などのスイッチは、従来は左コラムレバーにあったようですが、ほかのドイツ車同様、ダッシュボードに移されています。バックミラー(ルームミラー)同様、上体を起こさないと手が届きませんので、自動点灯機能のオプションつきでない限り、トンネルが多い路線でそのつど点灯消灯をするのはいささか面倒なことになります(これを指摘している評論家はひとりいます)。

 さらに、このロータリースイッチは右ひざ前にあるうえ、下に傾いているので、しらずしらず乗降時などに接触して、1段点灯状態になることが何度もありました。異なる運転者の場合も同様でした。あきらかに設計上の誤りであり、左コラムレバーに戻すべきでしょう。

 

良い点もある

 

 欠点ばかりというわけではありません。

 巨大なドアミラーの視認性のよさは特筆ものです。VWのゴルフは1代おきに、ドアミラーが極度に小型になります。マーク5とマーク6は実質的に同一ですから、現行のマーク7の2代前はマーク4なのですが、Cピラーに波型が入らないところだけにしておけばよいのに、ドアミラーのほとんど役に立たない寸前の小ささまで先祖返りしてしまったのですが、このミニのドアミラーはとにかく巨大です。巨大すぎて、助手席側は下部がドアにかぶって視野に入らないほど!なのです。これでルームミラーの極度の小ささをすこしは補っています。

 斜め後ろの他車両をカメラでとらえて、ドアミラーにシグナルを出すという、まったく愚かな装備が普及しつつありますが、そういう禄でもないことを考えるのなら、このようにドアミラーを大型化するほうがよほど安全に貢献します(もちろん、首を巡らして直接目視するのが基本です)。ドアミラーの小型化は、「燃費」向上だけを唯一の目的とする、走行時の空気抵抗の低減だけが動機のようです。本末転倒もはなはだしいものがありますが、この点のBMWの見識には敬意を表しておきましょう。

 ついでにいうと、ドアミラーに斜め後方車両の接近を表示するのは、どうせドアミラーなど見もしない悪質ドライバーには何の効果もありません。さきほどのヘッドアップディスプレイもそうですが、このように意味のない、もしくは百害あって一利なしの「安全」装備をつけて、さも安全ぶるのは愚かしいことです。

 当該車両は、とにかく一切のオプションがありません。このミニのオプション問題、これこそいまや国産車の世界にも蔓延している悪疫の発信元なのですが、これについては別のページで扱うことにしますが、結論を先に述べると、ミニのオプションはほとんどすべてが基本性能上は無意味なもので、とにかく見てくれだけを考えた集金装置でしかありません。

 もちろん、じつはクーパーの標準仕様といえども、ミニ・ワンから見れば相当のオプションがついているのですから、標準だといって清廉ぶってもしかたないのですが、その点も多少踏まえて、検討することにします。雑誌やネットに出てくるのはほとんどオプション満載のクーパーSで、もともとワンやクーパーからみてもすでに満載のところに、素の車両価格の3割から5割もオプションをつけた、50トンくらい土砂を積載した過積載ダンプのような化け物なので、そういうものを標準だと思い込まされた人たちの目には、当該車両はほとんどミニには見えない状態なのですが、評価してみることにします。

 本題にもどり、ヘッドライトについてです。マーク3のヘッドライトは全部LED型だと思われているに違いありません。あれは、クーパーSでは一応標準ですが、ワンとクーパーでは10万8000円なりのオプションです。とはいえ、輸入販売されるミニのほとんど全車両には、このLEDヘッドライトが装着されていて、「標準」状態で輸入される車両は、おそらくほんの2%か3%でしょう。広報車はもちろん、ほとんどの展示車両、試乗車がLEDです。当然販売されてあちこちで見かけるミニはほとんどすべてがこれです。

 「標準」は今時驚くべきことにハロゲンです。軽自動車でさえHIDがありふれているのに、なにもハロゲンにすることはないでしょうが、これも他と同様、事実上オプション付きを標準として、ただたんに定価を10万円ほど安く見せるために「オプション」扱いにしておくだけのようです。ただし、ミニの特徴である丸目のヘッドライトのおかげで、レンズが円形かつ巨大なためでしょうか、このハロゲンがたいへんあかるいのです。ロービームのレンズカットもくっきりしています。良し悪しがあり一概にはいえませんが、よくある薄ぼんやりした境界線のタイプよりは好印象です。照明のない高速道路を夜間に高速度で走行するとか、やはり郊外の無照明の道路を毎晩走行するなどの場合は、HIDやLEDにして光量を2倍にするのがよいとは思いますが、そういう機会が稀で市街地走行がほとんどだったり夜間走行の機会がさほどない場合には、標準のハロゲンで十分です。ドアミラー同様、無意味?にみえる円形多用デザインが、とんだところで実用上、好適なのです。

 

段付きブレーキ、カックンブレーキ

 

 そろそろ本質的部分です。

 ブレーキの初期応答性は、よく言えば食いつきがいいというところですが、やや過剰です。ブレーキペダルがブカブカで深く踏み込まないと制動力が働かないというのでも困りますが、やや唐突に制動力がたちあがります。いささか過剰です。ブレーキについては、実際の制動力とこのようなフィーリングの問題は厳密にわけて考えなければならないのですが、効き具合を確かめる、とくに強めのブレーキングをする機会がいまのところまったくないので、もっぱらフィーリングの面からの印象です。

 食いつきがよい、良すぎることと等価だと思いますが、カックンブレーキです。赤信号などで停止する最後の瞬間、カックン、となります。どんなに丁寧、慎重にやってもだめです。カックンを避けようとして、最後に力を抜くと、ローギヤにはいったエンジン駆動力がはたらいて前輪をまわそうとするので、止まり切らずずるずると進み続けます。あまりやりたくはありませんが、ギヤを抜いて、駆動力が働かないようにしてもそれでも、カックンです。実際には、ブレーキのカックンに、ローギヤの強いトルクが働いて、どうにも体裁のわるいことになります。運転者だけなら右足とステアリングの両手で支えているので、案外気にもならないのですが、同乗者はそうもいきません。普段はなりゆきで運転していても同乗者があると気をつかおうとするのですが、効果はありません。

 20年前のプジョー406の右ハンドル仕様も同じでした。プジョーの場合は、ブレーキのマスタバッグが左側のままで、長大なロッドで右側のブレーキペダルまで引っ張ってきていますから、そのせいでブレーキのフィーリングが悪いのだとばかり、当時おもっていたのですが、そうではないようです。現行のプジョー308つまり308マーク2の右ハンドル仕様は、あいかわらず左マスターバッグのままですが、運転して調べたところカックンではありません。ミニはきちんと右側のマスタバッグがあるのに、カックンです。詰めの甘さが露呈しています。(「自動車評論家」たちは、このへんの具体的確認を怠って、フランス車は左のままだから悪いとあちこちで書いています。もっとも書くだけまだ勇気の発露と見られないこともあり、大方は抽象的なサスペンションの柔らかさの賛美ばかりです。)

 エンジンの駆動力がはたらくということでいうと、制動時におそらく3速か2速あたりで(Dモードだとギヤ数が表示されないのでよくわかりません。Sモードだと表示されるのですから、なにもDモードで省略することはないのです)、強めのエンジンブレーキが効きます。他の車ではあまり見られない制御であり、それはそれでよいのですが、やや強すぎて、ブレーキペダルを踏み込む力に影響がおよぶ傾向があります。これまたプジョー406を思い出します。406の当初のモデル(1997年ころまで、ZFの4HP20搭載車両)では通常走行は3速!で、時速70キロ以上でやっとオーバードライブの4速にはいるという、まったく非日本的設定でしたが、ブレーキング時に、2速に入ると強いエンジンブレーキが働いて、それはそれでよいのですが、ブレーキペダルをやや緩めないとならない程度だったのです。そして最後がカックンです。素晴らしいと、あえて言いますが、素晴らしいサスペンション、(調整後は)これまた素晴らしいステアリング特性をもっていた406ですが、エンジンは非力で加速性能は褒められたものでないうえ、オートマ制御の不自然さとカックンブレーキという、無視できない欠点をもっていたのです。

 20年後のミニが、程度はいささか下回りますが、まさか同様のカックンブレーキに、不自然なエンジンブレーキ制御であるとは、まさに考えもしないことでした。乗り味の設定の詰めが甘いのです。現在の一般的水準からすると杜撰、といわざるをえません。

 このページはこのくらいにしておきましょう。