PCR検査禁止体制のもとでの隔離戦略

 

May, 10, 2020

     

国民にはPCR検査を受けさせないのが、現行のCOVID-19危機下の基本戦略です。しかし、それでは官邸・厚労省・感染研自体はもちろん、特権集団の安全もおびやかされます。PCR検査による感染者隔離にかわって、特権集団が自分たちを「隔離」する狂態を演ずることを余儀なくされるのです。


 政府の「専門家会議」を代表して、当初から登場しているのが副座長の尾美茂です(なぜか座長はあまり出てきません)。医師だと言っていますが、経歴をみると医師免許をもっている厚生省の元役人というところです。最新の医学的知識とは縁遠い素人くさい雰囲気を振りまくばかりで、的確にも児玉龍彦に「昭和の懐メロ」と酷評されています。

 3月23日のオリンピック「延期」決定と同時に突如危機感煽りに乗り出した都知事(小池百合子)の記者会見に同席して以来、出演機会が急増したのが、厚労省内の「クラスター対策班」の自称「8割おじさん」の西浦博です。通例脇に控える役人は何も喋らないのですが、数値を並べて長々説明して、尾美茂と違ってなんとなく最新の医学的知識があるような印象を与えました。その西浦博は4月15日に、このまま何もしなければ41万8千人が死亡するとの衝撃的言辞で、多くの国民に恐怖心を振りまきました。何が「このまま」なのかもわからない、「8割削減」というのも抽象的で、そもそも「8割」とは何の数値なのかまったく曖昧、そのために必要な経済的措置について言及することもない……など、初期条件も明確な算定根拠も示さないまま、たんに41万8千人というショッキングな数字だけを放り出す空疎な科白で、これが大学教授である医師なのかと呆れるようなものでしたが、厚労省記者クラブの面々は中身をキチンと確認(「裏取り」)するわけでもなく、いつものとおりそのまま無責任に「報道」して、危機感掻き立てのお先棒担ぎをしたのです。


 4月24日の延々2時間近くにも及ぶ記者会見は西浦教授と未熟な記者たちによるお勉強会の体です(https://www.youtube.com/watch?v=0M6gpMlssPM)。西浦は、こうした試算は「専門家個人として発表するものであり、クラスター対策班の意をうけたものではない」と言ってのけます。「クラスター対策班」のメンバーでありながら、「個人的」などと支離滅裂なことを言ってふざけているのです。「個人的」な記者発表を厚労省が許すはずもなく、厚労省記者クラブ室以外の場で強行したとしても即刻委員解任でしょう。そもそもそのようなものを記者クラブ所属の報道企業が横並びに「報道」することなど絶対にありえません。官邸と厚労省の意をうけた、「外出自粛」に向けた雰囲気づくりのために国民を脅迫する宣伝にすぎないのですが、「東京新聞」までが西浦先生にかなり心酔気味の提灯記事を載せる始末です(2020年5月2日)。

 西浦の説明によると感染拡大は、50メートル×50メートルのメッシュ(方眼)ごとに感染源となる者と被感染者の接触による「再生産率」を勘案して感染数を予測し、それをつみあげるというのですが、あまりにも空疎で単純素朴な計算です。たとえば単純な同一形状の物体の運動とその衝突であっても、それを完全に予測することはできないというのが、「複雑系」理論の教えるところです。まして人間の行動を決定論的に捉えて全部予測することは絶対に不可能です。西浦教授は、記者たちに対するお授業のクライマックスとなるこの肝腎要のところで、社会的接触を80%減らすと感染現象がおこる接触がどの程度になるかは分からないので、感染現象も80%減少する、と恣意的にとらえるのだ、というのです。語るに落ちる。大昔の SimCity や Gaia より単純そうな、方眼の中に碁石でもならべる程度の粗略なモデルで複雑な人と人との接触をシミュレートできるはずもないことは、本人もうすうす承知の上での法螺話です。西浦も「昭和の懐メロ」を唄っているのです。

 さらに「実際の感染者数は、感染確認〔発表数〕の10倍以上はいるかもしれない」と、びっくりするようなことまで言い出します。同様のことをいう人は他にもいますが、行政機関等のメンバーではありません。西浦は厚労省「クラスター対策班」所属とのことですが、そもそも「クラスター」とは単に「集団」という意味であり、疫学においてはたとえば、感染地帯である外国からの帰国者のクラスター、非感染者のクラスター、学校生徒のクラスター、満員電車で通勤している人のクラスター、等々をさすのであって、感染者の集団だけを意味するわけではありません。重要概念における用語の曖昧化は、百害あって一利なしですが、COVID-19事件では、あたりかまわず胡散臭い用語が飛び交っているのです。それはともかく、西浦が属する「クラスター対策班」なるものは、さまざまのクラスターについて疫学的な比較検討をおこなおうとするものではまったくありません。PCR検査の即時的かつ大量実施によって感染者を発見し、迅速に隔離・治療を実施することで、感染者を救命しつつあわせて感染拡大を阻止するという、とるべき手法を否定するのが日本政府(官邸・厚労省・国立感染研)の基本方針です。感染疑いのある患者のPCR検査を制度的に禁止して感染数の把握を原理的に回避したうえで、「クラスター」と称する数人以上の大量感染事例だけに注目して対応する(それも次ページのとおりきわめて粗略で中途半端ですが)というのが日本政府(官邸・厚労省・国立感染研)の方針です。PCR検査禁止による感染者数把握回避を重要な方針とする政権周辺で跳梁するメンバーが、いまさら「実際の感染者数は、感染確認の10倍以上はいるかもしれない」などとはいったいどの口がいうのでしょうか。正常な責任感の持ち合わせがあれば、即刻辞任のうえそれまで異常な方針に同調してきた責任を取ってからにすべきでしょう(取ろうとして取れるような責任ではありませんが……)。

 西浦は、どの程度の根拠を持ってこんな放言をするのでしょうか。素人考えで、実際には10倍以上だろう、しかし100倍まではいかないかもしれない、という程度の推測が成り立つかもしれません。それにしても、この放言もまた、「個人的」なものであるはずもなく、まして不用意に口がすべったなどということも到底考えられません。「41万8千人死亡」との辻褄あわせのための数値でしょうし、それはそれで危機感を煽るという宣伝効果を狙う官邸・厚労省の意図にもとづくものと考えるほかないのですが、この「10倍」にはそれなりの算出根拠があるのかもしれません。

 

 

 これは、前ページ末尾に引用した、茨城県庁(本庁と保健所)が受けた「電話相談件数」です(2020年4月1日に「中核市」となった「水戸市保健所」を含みます。水戸市の3月分までは中央保健所の数値に含まれるのですから、この行の3月までは「0」でなく空欄とすべきものです。その程度の杜撰な集計表なのです)。

 「相談」の内容は一切わかりません。それどころか、重複分を除いた「相談」者数もわかりませんし、どのような症候の訴えがあったのか、そのうちどれだけについてPCR検査を許可し、どれだけを拒否したのかもわかりません。そこからどれだけの感染者が判明したのかもわかりません。また、この「相談」を経ずにPCR検査を実施した件数も人数も、ここからはわかりません。「相談」でPCR検査を拒絶したのに、あとで感染が判明した事例の有無もわかりません。

 しかし、厚生労働省はこれらの内訳を全部把握しているのです。この47,695件の全部について、日時・年齢・性別・氏名・住所・勤務先在学校名・症候と経時変化・基礎疾患の有無と病名病状・海外渡航状況・感染者との接触状況・家族構成などを報告させているにちがいありません。まさか紙のはずはなく、当然、保健所段階でエクセルに入力させて毎日定時に報告させているに違いありません。連日にわたって重ねての「相談」があった事例もコード番号を割り振っておけば、重複なく採録されるはずです。

 「クラスター対策班」を含む厚生労働省の官僚、そして「専門家委員会」の委員ら、そして国立感染症研究所の官僚・医師らは、当然、全都道府県の集計表を見ることができるわけで、聞き取って記録した症候に適当な段階点をつけたうえで、それらを好きなように関数処理しうるのです。相談件数と感染判明者数との相関程度なら、誰でもあたりをつけることができます。右は茨城県における感染者数のグラフです。これと感染者報告をあわせて見ると、感染者出現前後には出現地を管轄する保健所の「相談」件数が急増しています。厚労省・専門家委員会・国立感染症研究所のメンバーであれば「相談」内容の全データをもとに、「実際の感染者数」を推測してみることができるわけです。もちろん、こんな操作で正確な「実際の感染者数」がわかるはずはありませんが、任意の線引きを設定した上でVLOOKUP関数で試算してみて、さまざまやりたい放題に推定してみることはできます。「37.5℃が4日」であっても、「帰国者」ないし「感染者との濃厚接触者」でなければ、PCR検査拒絶なのですが(前ページの横浜市のマニュアル参照)、もしそのうちの或る割合(例えば8割!)はじつのところは感染者だと想定するとどうなるかは、エクセルの関数をちょちょいのちょいでいじくってみれば、いかようにも算出できるわけです。

 こうした試算をしていないはずはないでしょう。当然、やっているでしょう。事実上は厚労省の公式見解というほかない、「実際の感染者数は、感染確認の10倍以上はいるかもしれない」という発言にはこうした背景事情もあるのでしょう。

 悪魔の所業です。

 PCR検査を禁止しているかぎり、感染者の発見はきわめて困難、というより実際上不可能です。感染者の発見を怠って感染者を放置すれば、そのうち相当の割合が重症化し、そこから相当数の死者がでます。さらに、この感染者が無症候あるいは軽症のうちは市中や家庭で、重症化すれば(運良く入れればの話ですが)医療機関で感染源となって次の感染者をうみだすことになります。PCR検査をしなければ、隔離はできません。官邸・厚労省・国立感染症研の方針は、感染者発見を回避することで、感染者隔離を原理的に不可能にするものです。

 それでは、官邸・厚労省・国立感染症研は、いっさい隔離をしないのでしょうか? 官邸・厚労省・国立感染症研は、隔離をせずしてCOVID-19事態にどのように対処しようというのでしょうか? もちろん、そんなことはありません。官邸・厚労省・国立感染症研は、独特の隔離戦略をもっているのです。以下、官邸・厚労省・国立感染症研の、PCR検査なき隔離戦略とは何か、検討します。

 

「有名人」のコロナ感染比率はきわめて高い

 3月以降のテレビ・新聞を見ていると、「有名人」のコロナウィルス感染が著しく多いことに気づきます。異常と言ってよいほど、「有名人」の割合が高いのです。

 まさか厚労省や都道府県庁が個人名を発表したりはしませんから(愛知県庁のミスはありましたが)、感染した「有名人」がみずから公表する形をとって所属団体が広報するようです。「有名人」とか「著名人」といったところで、定義・範囲が決まっているわけではありませんから、厳密な議論にはなりえませんが、ざっとその人数はどのくらいなのか、推定してみます。各種「紳士録」に収載されていた人数は、十数万人というところのようです。新型コロナに感染した、あるいは亡くなったということで、テレビ・新聞・週刊誌などで話題になるような「有名人」「著名人」の総数は、最大でもその程度ですが、堅いところでそのざっと十分の一というところでしょう。「8割おじさん」西浦博の「10倍」発言もどきの、根拠もない法螺話でまことに恐縮ですが、日本の総人口のざっと1万分の1というところです。

 「緊急事態宣言」発出からほぼ1か月、2020(令和2)年5月8日現在の、厚労省発表による新型コロナ感染者数は、15,547人、死亡者は557人です(下は厚労省のウェブサイト中の記事です。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#kokunaihassei 「内訳」はなんだかわけのわからない記述ですが、「公式発表」の感染者数と死亡者数だけを見ておくことにします。)西浦博先生にいわせると、実際の感染者数は、この「10倍」だそうですが、ここではあくまで、厚労省公式発表の感染者数・死者数で考えます。

 総人口の1万分の1程度である「有名人」の感染者は、人口比どおりだとするとひとりかふたりで、死者はなし、となるはずでしょう。しかし、テレビ・新聞等で取り上げられる「有名人」の多さはどういうことでしょう。かりに一桁ずらして、「有名人」は総人口の千分の1程度だとしても、「有名人」の感染者は十数人で、死者はせいぜいひとり、のはずです。サンプルの取り方を間違った、あるいは恣意的だ、などのために何らかの誤差がある、などというものでは到底ありません。

 そもそも「有名人」の定義・範囲を明確にすることは不可能ですから、テレビ・週刊誌・インターネット記事などで話題になっているようなところを瞥見してみます。そもそも曖昧な概念ですし、放送局の「情報部」制作の番組とか週刊誌ネタまで全部含めて典拠を示すことはしませんが、「報道局」制作の「ニュース」で取りあげられるあたりまでを見ておくことにします。インターネット上には、感染者名や経緯を一覧にしたものさえいくつもあります。)

 「有名人」「著名人」をいくつかの類型に分けてみます。まず、「芸能人」です。「日本タレント名鑑」掲載数が11,000人ほどだそうですが、「有名人」である「芸能人・タレント」はどんなに多めにみてもその1割とか2割でしょう。人口比でいえば、十万分の1とか2ですから、感染者は一人か二人のはずですが、エポックメイキング(後述)となる4月23日の岡江久美子まででも、ざっと20人以上は感染し、そのうち岡江久美子・志村けんや狂言師善竹富太郎など数人がなくなっています。「一般の方」とは二桁ほど違う感染率です。

 次に、「プロスポーツ選手」です。スポーツに特段の興味のない人でも知っているようなきわめて著名な人だけでなく、特定ファン層のあいだで知られている段階まで入れると、母集団(クラスター)はかなり多くなります。プロ野球だと、各球団の「支配下登録選手」70人の合計が840人、Jリーグ所属のサッカー選手が1400人ほどですが、それぞれ「有名人」となると、OBまで入れてもせいぜいその2割ほどでしょう。そこから、阪神の数人のほか元監督の梨田昌孝、氏名はあきらかになっていないようですが、サッカーJリーグでも数人が感染しているようですから、かなりの割合です。バスケットボールのBリーグでは、5人が感染したようです(氏名非公表)。

 忘れてならないのが「大相撲力士」です。序の口まで全部入れても700人弱で、「有名人」といってよい幕内だとその1割、「親方」などの興行幹部を含めて100人少々というところですが、やはりここでも高田川親方・白鷹山の2人が感染し、そのほか幕下以下の4人も感染し、次の場所は中止となりました。

 なお、無観客興行となったこの春場所(3月場所、3月8-22日)について、力士らは「声援」がなくてやりにくいなどと心にもないお愛想を言っていましたが、桟敷席に陣取る人相・態度のよろしからぬ観客をテレビ画面の大写しで見なくて済むうえ、取組そのものになにやら荘厳さが漂い、逆によかったという人もいます。それをいうと、観客が試合や演奏そっちのけで喚いたり跳ねたりしている他のスポーツ試合や、音楽コンサート(ライブ)も同様かもしれません。そういう意味で、プロスポーツ試合は芸能の一種ですし、「アマチュア」を標榜さえしなくなった「オリンピック」も同様です。「芸能」と「スポーツ」の線引きはできないかもしれません。

 その「芸能」=「スポーツ」にプラットフォームを用意立てするのが、テレビ局・新聞社・週刊誌出版社などの報道関連企業群です。「不要不急の外出自粛」を伝声連呼しているうちに、自らの企業活動そのものが「不要不急」だったと自覚するにいたったようで、テレビドラマのスタジオ内外での撮影をとりやめ、ストックしてあるVTRで穴埋めをしたり、出演者が自分の邸宅から zoom で参加したりして急場を凌いでいます。

 放送・再放送されるのも、「これはコロナ以前に取材したものです」とか、「コロナ以前の〇〇年に放送したものです」と言い訳しないと放映・視聴できない番組ばかりで、制作者・視聴者がいかに能天気に生きてきたかを思い知らせるものとなっています。もともと絵空事だったとはいえ、政府方針のもと国民の生命をまもることが根本目的ではないという医療制度の本質が露呈したいま、医者ドラマなどみても白々しいだけです。

 唯一の例外?は、綾瀬はるか・大沢たかおの「仁」の再放送です。幕末の江戸の神田あたりにタイムスリップした現代の医師がコロリ(コレラ)流行に遭遇し、果敢に患者隔離と看護を実行し、さらにミカンのカビからペニシリンを抽出するのですが、それを既成の幕府医療勢力が妬んで妨害し、権力をもって取締ったうえ、ついには製薬所の焼打ちまでするのですが、なにやらPCR検査禁止や後述する受診差別などの一般国民無視の現状を想起させるものでした。国家医療体制のもとでもっとも危険な場に置かれた無力な医療労働者たる医師たちの姿を知ったいまとなっては、そのほかの超能力天才医師があらゆる困難を一挙解決する絵空事の医師英雄物語など、とても見るに耐えないのです。いずれストックが枯渇する前に、1960年代までのテレビのように、昼間は「テストパターン」でも表示し、夜間は停波すべきでしょう。

 テレビ朝日では、「報道部」のスタッフら10人以上がPCR検査を受け、3人(富川悠太アナウンサー、総合演出担当、その妻の赤江珠緒アナウンサー)の感染が判明したほか、「濃厚接触」したとして190人が「自宅待機」したようです(4月20日、web「東スポ」)。

 つぎに、「政治家」とその周辺、いわゆる「要人」です。「日刊ゲンダイDIGITAL」(4月13日)が、「日本人要人の陽性反応第1号」だとするのが、日本サッカー協会(JFA)会長の田島孝三です。スポーツ興行組織はオリンピック推進勢力の一員であり、3月23日の「延期」決定前の感染判明だったこともあり、この少々違和感のある「要人」視も的外れではないようです。国会議員・大臣の秘書あわせると数千人になりますが、秘書が何人か感染しています。諸外国のように、首相などの政権中枢まで感染がひろがる状況にはまだなっていないようです。

 これら「有名人」たちは、感染経路まで詳細かつ正確に広報されるわけではないのですが、なんとなくヨーロッパなど先行して感染が拡大していた地域との人的交流がさかんである人たちのようです。本人がヨーロッパなどから帰国後に発症したというより、ヨーロッパ由来のウィルスを持ち帰った人たちとの人的交流が盛んな集団(クラスター)に属する、というところでしょう。もちろんそればかりでなく、この外国との交流の盛んな人たち(クラスター)と類縁関係がありそうですが、「接待を伴う飲食店」にふだんから出入りしていた、とか、邸宅でしばしば「会食」をしているひとたち(クラスター)です。当たり前と言えば当たり前で、ほとんど誰とも会わずにずっと家に閉じ籠っていれば感染機会はずいぶん少ないでしょうが、そんな「有名人」は、(元「有名人」をのぞいて)すくなくとも3月まではあまりいないでしょう。

 「有名人」は、相対的に感染しやすい各分野のクラスターに属すると言えば言えるのですが、ここで、別のもっと本質的な可能性が浮かび上がってくるのです。

 

「有名人」の多くは保健所に電話しない

 2月以来、約3か月の間に感染があきらかになったこれら「有名人」は、みずから何時間も話し中がつづく保健所に電話し、あの極めて厳重な条件をクリアして指定医療機関を紹介してもらってPCR検査を受けたのでしょうか? 建前上は、国民全員が必ずそうしなければならないわけです(旅行・定住を問わず外国人も同様)。実際そのようにしてやっとのことでPCR検査を受けた「有名人」もいるかも知れませんが、全員がその手続きを踏んだのではないことは明らかです。まず、みずから広言した大臣の西村康稔です。数日前の病院視察に随行した内閣官房職員が感染判明したため、自分は何の症状もなかったもののPCR検査を受けたというのです。そういう抜け道を使ったことがいかにおかしなことか、まったく気づかないとみえて、よせばいいのにそれをTwitterに書いたものですから、当然轟轟たる批難を受けることになったわけです(HUFFPOST、4月28日。https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ea7b039c5b6085825783ae3 ツイッター画面のスクリーンショットも)

 「検査は、立場上、総理をはじめ閣僚、国会議員と近い距離で接する機会が多く『危機管理』の観点から、医師と相談し自費で受けました」と追加で言い訳しているのですが、「危機管理」というなら、そのまま永久に「自宅勤務」?を続け、星野源の曲にでもあわせて犬と遊んでいればよいのです。「自費」に至っては、「不要不急」の過剰診療だったと自白しているわけですし、「医師と相談」など意味不明です。国民にPCR検査を事実上禁じているかぎりは、政権中枢にいる自分たちがその国策方針に反した不法行為をおかすことになるのです。しかもよく読むと、「ご心配をおかけしておりましたが、濃厚接触者に該当しないと保健所により確認された…」などと、ずいぶんおかしなことを言っています。4月21日に、国立感染症研究所は「濃厚接触者」とは「発症当日」以降に感染者と接触していた者としていたのを「発症の2日前」以降に変更しているのですが、そのうえで「濃厚接触者に該当しないと保健所により確認された」にもかかわらずPCR検査を受けているのですから、どうやら西村は感染研の定義やそれにもとづく保健所の判断も信じていないということです。こんな短いつぶやきに、これほどまでの支離滅裂な言明が詰め込まれていることには、呆れるしかありません。政権中枢の「要人」にあるまじき態度です。ついでにいうと、感染した内閣官房の職員もこの抜け道を通ったことはあきらかでしょう。こういう脱法行為?が蔓延しているということです。

 元「要人」の橋下徹も、微熱の3日目にPCR検査を受けています。それまでは、PCR検査を皆が受けると医療体制に過重な負担をかけるから、とくに若いものは発熱しても家に閉じ籠っていればいいなどと、医学的にも間違ったことを吹聴していたのですが、自分はちゃっかりとPCR検査を受けたというのです(https://lite-ra.com/2020/04/post-5399.html)。「保健所の判断」によるものだと言っているのもおかしな話で、微熱では絶対に検査はさせないのですから、やはり裏道を通ったとしか考えられません。保健所に濃厚接触者ではないと言われても信用しない西村にせよ、ふだんは尊大な言動を弄するくせにいざとなるとうろたえてしまう小心者の橋下にせよ、たんにコロナ感染を懸念するというのではない異様な畏怖、国民を差別する特権集団の一員としての過剰な恐怖心、ファシスト・レイシスト特有の疑心暗鬼的心性を垣間見せているのです。官邸・厚労省・国立感染研の隔離戦略の本質なのですが、それについては後で検討することにし、話を戻します。

 政権中枢とそれに近い者たちが通る裏道は、「有名人」たちの多くも密かに通っていると考えないと、全体を矛盾なく捉えることはできません。「プロ野球」・「大相撲」をはじめオリンピックに収斂する「スポーツ」関連の「有名人」たちは各自が保健所に電話するのではなく、各所属組織の導きによって検査を受け療養・治療へと誘われるのでしょう。「芸能人」であれば、所属事務所の導きによって、報道企業の関係者・従業員であれば報道企業の導きによって、PCR検査を受け療養・治療へと誘われるのでしょう。「セレブ」たちは普段から病院で朝早くから受付機に並んで順番取りをしたうえで、窮屈な待合室で長く待たされて診察や治療を受けるなどということはしていません。特別の伝手がなければアクセスできない特別個室に「入院」したうえで、迅速かつ高度の高額な保険外医療を受けているのですから、今回のCOVID-19でも同じように特権的対応をうけることになるというだけです。

 もちろん、コネにも強弱があり、特例取り扱いにも、軽重や緩急のばらつきはあるに違いありません。芸人の黒沢のように、最初はなかなか相手にしてもらえず、あちこち頼み込んだ挙句にやっとPCR検査をうけることができたという例もあります。それでも、「一般人」であれば、最後までだめだったでしょう。膨大な数の「一般人」が数時間も話し中の電話口で待たされ、やっとつながったとしても、ニベもなく断られ、相手からの「ガチャ切り」で突き放されるのです。自宅で苦しみ、あるいはやむを得ず働きに出てゆき、ひどい場合には重症化し、そのまま自宅や路上で絶命することになるのです。

 情報がさほどないので断定はできませんが、「有名人」であっても、この裏道を通らなかったのが岡江久美子だったのでしょう。普段から家事手伝い人をおかない生活をしていたようです。近所の医院にかかり、「37.5℃で4日」の基準によって自宅で放置されて、急激に増悪して亡くなったようです。所属事務所は、死亡のお知らせのなかで、ことさらに癌治療をうけていたことを告知し、翌日のテレビ番組はさっそく、癌治療による免疫低下が死亡の原因であるかのように、囃したてました。ずいぶん手早い虚偽宣伝ですが、国民に医療行政の悪質さから目を逸させる効果はなかったようで、「37.5℃4日」の問題性を強く訴えました。岡江久美子の死去は、エポックメイキングとなったと言えるでしょう。

(5月13日に高田川部屋の高武士〔たかぶし〕関が亡くなりましたが、死去後、4月4日に重篤な症状で新型コロナ感染を懸念した高田川親方らが保健所に電話したもののつながらず、5日も同様で、さらに複数の病院に診察を拒否され重篤化をまねいたと報道されています。高武士の感染について、相撲協会は4月10日に匿名のまま発表していました。さらに、親方自身がこのあと発症し4月23日のPCR検査で感染が確認され、白鷹山は症状はなかったが24日のPCR検査で感染が確認されたとのことです。高田川親方と白鷹山の検査は、高武士の「濃厚接触者」だったために実施されたのでしょうから、裏道ではないようです。それはともかく、同部屋の1例目の高武士の場合、幕下以下ということで、特別扱い?がされなかったということなのか、真相はわかりません。なぜこのような疑問をもつかというと、春場所〔3月場所、3月8-22日〕の際、千代丸〔ちよまる、西前頭15枚目〕は高熱が2日続いたためにPCR検査を受けているからです。結果的には陰性で別の疾病だったとのことですが、これはあきらかに通常のルートでは検査が拒絶される事例であり、感染判明となれば場所の途中中止となるため、相撲協会が特権行使したかもしくは厚労省が特段の配慮を加えた結果、検査が実施されたことが明らかだからです。5月17日追記

 はっきりしているのは、感染した「有名人」は、PCR検査を受けた、ということです。一般の国民は、感染判明した患者の「濃厚接触者」と認定されれば、多少は緩和されるようですが(次ページでみますが、それでもきわめて制限的です)、そうでもない限りまずPCR検査を受けることはできないのです。もちろん、政治権力と繋がりのある特権集団の庇護のもとにある「有名人」であっても、必ずしも感染を疑わせる症状があってもただちにPCR検査を受けられるわけではないようです。その点で、微熱で検査を受けさせてもらった橋下徹や、何ら症状なく「濃厚接触者」ですらないと認定されたのに検査を受けた西村康稔などは、特例取り扱い対象者のなかでも、頂点の一段階下あたりのクラスター(集団)に属する者なのでしょう。

 

みずからを隔離する特権集団

 

 PCR検査を大規模に実施して感染者を発見しただちに隔離・治療することで、感染者自身の生命をまもり、同時に感染拡大を防ぐことができるのです。すなわち、PCR検査を事実上禁止すれば、感染者を発見することは極めて困難であり、隔離・治療ができないので感染者の生命を損ない、同時に感染を拡大させることになります。にもかかわらず、日本政府とそれに追随する多くの医療機関経営層や医師会幹部が違法不当なPCR検査拒否による隔離妨害政策を強行しているのです。4月7日の「緊急事態宣言」が当初の期限としていたゴールデンウィーク明けの5月11日月曜から、「37.5℃4日」の条件を「緩和」することになったようですが、あいかわらず保健所への「相談」は撤廃していません。韓国やヨーロッパに輸出される日本製全自動検査機器によるPCR検査を妨害し、時代遅れの手作業による感染研・保健所中心のPCR検査体制はまだ維持されていますから、本質的には変わっていないのです。官邸・厚労省・感染研の隔離拒否体制は当分続きます。

 官邸・厚労省・感染研がその本来の隔離にかわって、当初から施行している日本的隔離体制は、権力中枢と、権力中枢を支える勢力を、自余の一般国民から隔離するというものです。なんのことはない、国家権力の自己隔離です。略図を描いてみると下のようになります。右が現行の「隔離」体制ですが、「検疫」線に破れがあるのは、実際にはかなりルーズになっているということなのですが、これについては別に論ずることにします。

 次ページでは、西浦先生も属する厚労省「クラスター対策班」による「クラスター潰し」の現実を見ます。これもまた、きわめてルーズです。