「B社」が掘削した砂丘断面と、水害後の土嚢積み「仮堤防」
25, May, 2019
鬼怒川左岸25.35k付近の若宮戸(わかみやど)では、水害の前年の2014年に「B社」が約200mにわたって河畔砂丘を掘削したことにより、2015年9月10日早朝から午後にかけて激甚な氾濫がおきたのですが、国土交通省は、この掘削は河川区域外の行為であるので権限がおよばない、としてこれを拱手傍観(=容認)したのです。もちろん、国土交通省(旧建設省)がおこなった河川区域の設定じたいが河川法に違反し不適当だったのであり、前提が成り立たないのですから、そんな言い訳は到底通用しません。
ところで、河畔砂丘(かはんさきゅう、 river bank dune )はその名称からしていかにも砂がむき出しになっているように想像されるのですが、多くのばあい松などの自然林になります。常総市若宮戸の河畔砂丘でも、明治時代の迅速測図(じんそくそくず、1880-86年)に、植生が「松」であったことが明記されています。
「32,25」という三角点の表示があり、東側の自然堤防部分とは10m以上の標高差があったことがわかります(フランス人の指導による測量であったため、小数点が「.」でなくフランス式に「,」になっています)。2葉の図の継ぎ目になっていて、図法に微妙な差異がありますが、おおむね砂丘列が3列になっていたることがわかります(このほか河道側にも小規模な砂丘列らしいものがあります)。三角点はおそらく最も標高の高いところに置かれたのでしょうから、河道から一番離れた東側の砂丘列が一番高かったようです。この地図だけからはわかりませんが、以後の地図や現況と照らしあわせると、中央の砂丘列、河道近くの砂丘列と順に低くなっているようです。
河畔砂丘 river bank dune は、河川水で運ばれてきて河道や高水敷に堆積した砂が、定常風(このあたりでいえば冬の北西季節風である「日光おろし」)によって、吹き上げられて風下側(鬼怒川の場合は東岸)に堆積して形成されたものです。つまり河畔砂丘は「風成」の地形です。ひとやまのかまぼこ状ではなく、3列から5列程度の畝とそれらの間の谷とで形成されるるのが通例です。河畔砂丘は「風成」の地形ですから、増水時に河川水が高水敷を越えて流出し、まず粒径の大きな砂利、ついで砂、遠ざかると粘土の細かい粒が堆積して形成される「水成」の地形、すなわち自然堤防 natural levee とは本質的に異なります。
若宮戸では、東側の最高峰の畝は3つほどの残丘を残してすべて掘削され、現在ではほぼ消滅しています。膨大な量の砂は、東京をはじめとする土木工事と建築工事におけるコンクリートの原材料になりました。それと比べるとずいぶんもとの姿を残している中央の畝には、アジア太平洋戦争に従軍した大日本帝国兵士と軍馬のために、地元の稲葉石油店の先代当主が建設した巨大な鉄筋コンクリート造の慰霊塔(ストゥーパ)が鎮座しています。その上流側が今回問題となった「B社」による掘削の対象となったのです。なお、若宮戸の第二の氾濫地点である24.75k付近(ただしくは24.63k付近)の最初の溢水経路は、この中央の〝畝〟を常総市道東0280号線が横断する地点でした(市道が溢水の原因だったというわけではありませんが)。
比較のために、氾濫の翌日、2015年9月11日の航空写真を引用します。
植生の話にもどると、水害直後の地上写真(若宮戸の河畔砂丘2、および3〔準備中〕)からわかるように、この中央の畝は現在では松ではなく、人為的な植林により落葉広葉樹のクヌギを中心とする樹林となっています。という次第で、砂丘を掘削してその砂を売り飛ばし、できあがった低平な土地に太陽光発電所を作るためには、その前に、このクヌギなどの樹林を伐採しなければならないのです。このページと次ページでは、砂丘掘削の第一段階としての森林伐採について検討することにします。
今回もまた、「kinugawa-suigai.seesaa.net」が公表している資料を利用させていただきます。「kinugawa-suigai.seesaa.net」のたいへんなご努力がなければ、鬼怒川水害の3大原因地点のひとつ、すなわち若宮戸25.35kにおける砂丘掘削の第一段階としての森林伐採の事実は知られることはなかったでしょう。
(3大原因地点のそのほかの2地点は、三坂=左岸21kと、若宮戸=左岸24.75k付近〔ただしくは24.63k付近〕です。八間堀川(はちけんぼりがわ)の大生(おおの)小学校近くではありません。)
まず、「A社」による森林伐採について見ることにします。「A社」の太陽光発電所は、河畔砂丘の中央の畝の西側、一部河道側の畝にかかっていますが、おおむね河道側=西側の低い畝との間の低平地の樹林を伐採して建設されました。
つぎが、「A社」が常総市役所農政課に提出した「伐採及び伐採後の造林の届出書」全3ページ(http://kinugawa-suigai.up.seesaa.net/image/waka-11-1.pdf)です。
3ページ目が伐採する森林の範囲を図示する地図なのですが、元の彩色がなくなって白黒になってしまったようです。たぶんラインマーカーか何かで塗ったとおぼしき部分を、右のサムネイルに赤で記入しました。
これだけ見るとずいぶん簡略な文書だという印象を受ける程度ですが、問題山積です。
まず、3ページ目の地図には河川区域境界線が描かれていません。境界線がどこにあるのかはっきりさせなければなりません。ところが、それがなかなか簡単にはいかないのです。
国交省の文書は、どれもこれも河川区域の線引きが不正確=デタラメで、地図ごとに大なり小なりズレているのです。いちばんひどいのは「鬼怒川平面図」(http://kinugawa-suigai.up.seesaa.net/pdf/kinugawa-heimenzu1.pdf)です。利根川との合流点から71.75k地点まで、国土地理院の5000分の1地形図に、航空測量に基づくデータを加えて作成された詳細な地図なのですが、驚くことに河川区域境界線が示されていないのです。堤防があるところでは、境界は堤内側(河道の反対側)の法尻(のりじり)ですから、なんとか想像できるのですが、若宮戸のような無堤地帯では、どうなっているのかいないのか、何が何やらさっぱりわからないのです。しかも、その河川区域の境界線の設定如何、端的にいうとその不適切さが水害の原因となったのですから、とんでもない話です。国交省のやることは一事が万事、この調子です。
常総市新石下にある下館河川事務所鎌庭出張所に行って河川境界線を教えてほしいというと、大判の地図が数十枚束にされて筒状に丸められたものを出してくるのですが、コピーはさせない、写真撮影もさせないそうです(2015年の水害直後の実情)。開示請求すれば出さないとは言わないようですが、かなりの費用と2か月近い時間を要します。あれだけの大水害を引き起こしておいて(当人らはそうは考えないようにしているのでしょうが……)、この体たらくです。
ということで、一般の国民が手にできるまともな河川区域境界線図は存在しないのですが、とりあえず築堤案の作成を委託された設計会社の文書(http://kinugawa-suigai.up.seesaa.net/pdf/waka-7-1.pdf)から若宮戸の25.35k付近の「河川区域想定線」を読み取り、それをこの届出書の地図と重ね合わせて表示してみます。設計会社の技術者にさえ、まともな河川区域図を渡していないということです。だから「想定線」なのです。
下左は、さきほどの届出書の地図を時計回りに90度回転したもの、下右が建設技術研究所の文書中の図の一部です。
(以上、資料はすべてhttp://kinugawa-suigai.seesaa.net/が公表しているものです。心より感謝いたします。http://kinugawa-suigai.seesaa.net/がなければ、事実は永久に隠されたままでした。)
傾きを調整したうえで、半透明にして重ね合わせるとこうなります。
粗略な届出書の地図にはこう描いてはあるが、しかし、いくらなんでも本当に河川区域の樹木の伐採をするはずがない、と思いたいところです。実際はどうだったのでしょうか。
どうすれば結果を知ることができるでしょうか。常総市役所は現地調査などしているはずはありませんし、国土交通省も同じでしょう。そんなことはない、現地調査はした、とか言い出しそうな気もします。聞けば嘘でもそう言うに違いありません。しかし、万が一にも本当に現地調査をしたのだとしたら、常総市役所と国土交通省は以下の事実を隠蔽していたことになります。
次の写真は、マイクロソフトが運営するウェブサイト Bing が「公表」している衛星写真です。撮影日時は明記されていないのですが、別ページで同様の衛星写真を日付順に並べてみたとおり、2013年6月4日以降、2014年3月22日以前です。届出書のとおりの期日で「A社」による伐採がおこなわたのだとすると、2013(平成25)年10月20日以降、2014(平成26)年3月22日以前ということになります。(なお、これと次の2枚は、2004年ころの測量結果にもとづく等高線と重ね表示をしています。別ページ参照)
若宮戸河畔砂丘の土壌がむき出しになっています。こまかく見ると「河川区域想定線」の外側(河川区域。画面下方)は整地も行われたようで白い砂がむき出しになっていますが、内側(画面上方)については整地まではしていないようで色調がちがっています。しかし、樹木を伐採したことはあきらかで、伐採前の写真と比べるとはっきしりします。
次は、 GoogleEarthPro が公開しているもので、 2013年6月4日に撮影された伐採前の衛星写真です。この2枚を比べれば、「A社」は河川区域内まで伐採する旨を届出たうえで、実際に河川区域内の樹木まで伐採したことは明らかです。
次は、2015年2月以降、水害がおきた9月10日までの間に撮影された Yahoo の衛星写真に、等高線と、河川区域境界線を書き加えたものです。
「A社」の太陽光発電パネルはギリギリで河川区域の外のようです(北西の角、画面では右上肩が少々はみだしていますが、今のところは誤差の範囲内として無視することにします。なにせ「想定線」ですから、はみ出している、と断定するわけにもいきませんので)。
その周囲のかなり広い範囲に伐採・掘削されて露出した砂丘の砂が見えています。特に赤線上方の河道側、つまり河川区域内が最大で20m近く侵食されているのがわかります。(カクカクとのたくっている「品の字」土嚢の堤防もどきの上流端と下流端の直線距離が約200mです。)
常総市の決裁体制もたいそう気楽なものです。市長・副市長・部長・次長へはもともと回付もされない取り扱いのようで、決裁印のゴム印欄には斜線かバツ印がついているのですが、なんと閲覧決裁するはずの課長の印影も見えません。官僚組織ではろくに見もしないで押印だけするというのならよくあることですが、見たのに押印しないなどということは到底ありません。担当の農政課振興係長からあがってきた届出文書は農政課の課長補佐までで閲覧決済が終わったようです。「甲乙丙丁(こうおつへいてい)」の「丁(てい)」にマルがついています。重要度最低ランクの文書だということのようです。
届出者が記入した文言は住所氏名のほか、わずか数十文字です。なにより雑な地図一枚だけで、具体的な説明も写真もいっさいありません。これでは現況はもちろん伐採の影響がどうなるか、まったくわかりません。市役所が届出にもとづいて現地確認を実施したのかどうかもわかりません。というより、こんな図一枚しかないのでは現地確認や厳密な審査のしようもないでしょう。そもそも河川区域内まではみ出して伐採すると宣言しているのに、まったく問題になっていないのですから、きちんとした審査などしていないことは明白です。
適当な例がみつかりませんが、たとえば一般の国民・市民が関係するものでいうと、住宅建物の「建築確認申請」とか、法務局での「表題登記」、あるいは自動車の「車検」などが具体的かつ詳細であることと比べると、はるかに影響の大きな行為なのに、とんでもない規制緩和?ぶりです。「形だけ」ですらありません。まともな形になっていないのですから。
伐採区域に等高線が入り込んでいることからわかるように、この場所にはいくらかの起伏があったようです。ほぼ水平に整地して発電パネルを設置したのですから、「A社」も砂丘の掘削を少々やっているようです。「B社」による大規模な掘削にくらべれば規模は千分の一以下でしょうから、たいしたことはありませんが、河川法違反の行為であることは明白です。常総市役所は、河川法違反の伐採と掘削を見逃したのですが、それというのも「河川区域」についてまったく無頓着だからです。知っていて違法行為を黙認したのではなく、何も知らないので何も気づかなかったのです。
これはこれで看過できない問題ですが、さらに驚くことには国土交通省下館〔しもだて〕河川事務所(筑西〔ちくせい〕市)や下館河川事務所鎌庭〔かまにわ〕出張所(常総市新石下〔しんいしげ〕)が河川法違反の伐採と掘削を見逃していたことです。
国土交通省が「河川区域」について知らない、「河川区域」内で違法な伐採や掘削がおこなわれたことにまったく気づかない、などということは「ありえない!」ことです。当今の感嘆詞「ありえない!」です。そんなことがあってはならない、あるべきではない、という「当為〔とうい〕 Sollen (ゾレン。ドイツ語)= ought」の意味です。しかし、関連する情報を踏まえて現時点で判断すると、あってはならないことが、「事実(ザイン。ドイツ語)= is 」としては、「あった」のです。
水害後の被害者団体との交渉の席上、国土交通省本省(霞ヶ関)の職員が明言したとおり、鬼怒川左岸の常総市若宮戸の河畔砂丘一帯は、国土交通省が実施する河川パトロールの対象とはなっていませんでした。もちろん、実際に車を走らせて巡回するのは委託先の企業の職員です。巡視ルートは河畔砂丘を迂回していたのです。
この信じがたい行為(なすべきことの不作為、懈怠〔けたい〕)を何とか正当化しようとして、いつもの悪癖をつい発揮してしまい、「道路がないのでパトロール車両が入れない」と口からでまかせを言ってのけたのです。他の場合なら、そんなものか、茨城の田舎だもんな、道路なんかあるわけないさ、それじゃあしょうがないな、で終わるところでしょう。しかし、即座に現地住民にその嘘を指摘されたのです。道路はあるのです。しかも、トヨタのランドクルーザーか三菱のパジェロのような最低地上高に余裕のある四輪駆動車でも入れないような悪路ではなく、最低地上高15cm程度のごく普通の乗用車やライトバンでも難なく入れる道路が縦横に走っているのです。国土交通省の役人は、現地をよく知ったうえで騙すために虚言を弄したのではなく、現地には行ったことも見たこともないのに、ついついいつもの虚言癖を発揮して薄っぺらな言い訳を発話してしまったのです。たとえご案内つきのお気楽な視察だったとしても、一度でも現地に行ったのであれば、当然車で乗り入れ、自分の脚で歩くわけですから、道路の有無についてこんなデタラメを言う可能性は、絶対にないのです。
鬼怒川水害がほかの事案とおおきく異なるのは、被害者住民があらゆる事実を知っているということです。そして、国土交通省本省以下、関東地方整備局(さいたま市)、下館河川事務所、鎌庭出張所にいたるまでの、被害者住民の前に出てきてペラペラと喋った職員らが、現場を知らないし行ったことも見たこともない、そんな気はさらさらない、そればかりか、関連する文書を読んだことがないどころか見たこともない、そもそもそんなものがあることも知らない、ということです。
水害の前年の2014年、「B社」による砂丘掘削がいままさに実行されている時点で、国土交通省は、河川区域の外の民有地だったので権限が及ばないので、掘削を止めることはできないと言っていたのです。よくよくご留意いただきたいのは、水害後になってあとから言い訳をしているというだけではないのです。いてもたってもいられず、なんとかしてほしいと懇願する住民に対して、河川区域の外のことなので「B社」による掘削をやめさせることはできない、そもそも若宮戸で氾濫はおきない、あそこで氾濫するくらいならその前に水海道(みつかいどう。石下町との合併以前の水海道市の市街地)が水浸しになるのだから、若宮戸だけについて先に対策をたてることはしない、と訳のわからないことを言っていたのです(2014年3月28日、下館河川事務所鎌庭出張所長=後述)。
鬼怒川水害では、あとになってわかったに過ぎないことを、さも自分たちは事前に知っていたのだと思い込んで、被災者住民や市役所を馬鹿にする新聞記者、大学教員、自称「専門家」が雲霞のごとく大発生し飛び回りました。ハザードマップの通りになったと勘違いしたうえで逃げ遅れた住民を馬鹿にし、冠水するところに市役所を建てたうえ避難民を受け入れたのはけしからん、など言いたい放題です。あげくは自分は三坂で破堤するのを以前から警告していたとか言い出す始末です。困ったことに本気でそう思っているので、頑として自説を譲らないのです。何を見ても何を聞いても自己全能感から脱却することはないのです。巻末の答えをみてから数学の問題集を解いてみせ、それで勉強した気になっている中学生のようなものです。
若宮戸の25.35kについて、砂丘掘削によって水害発生の危険性が高まったことを予想した人たちは違います。その人たちは、水害発生の前に、その危険性を認識していたのです。そしてまさに言った通りになったのです。
社会的責任などまったく顧慮していない営利企業のやりたい放題です。公共の福祉をまもるべき国土交通省、そして農林水産省から市町村役場にいたるまでが、完全な思考停止、判断停止、任務放棄の状態なのです。
ここでは、「A社」による、河川区域を違法に蚕食する森林伐採や砂丘掘削については、以上のごく簡単な指摘にとどめ、今のところは全部保留して検討を続けることにします。
下が森林伐採の届出にかんする根拠法令です。さきほどの文書の1枚目、届出日と項目2「伐採の計画」の末尾の「伐採の期間」をご覧ください。とりあえず、伐採開始日(2013年10月20日)の30日前までに(9月19日)届出がなされていたことだけ確認して次に進むことにいたします。
森林法
(伐採及び伐採後の造林の届出等)
第十条の八 森林所有者等は、地域森林計画の対象となつている民有林(第二十五条又は第二十五条の二の規定により指定された保安林及び第四十一条の規定により指定された保安施設地区の区域内の森林を除く。)の立木を伐採するには、農林水産省令で定めるところにより、あらかじめ、市町村の長に森林の所在場所、伐採面積、伐採方法、伐採齢、伐採後の造林の方法、期間及び樹種その他農林水産省令で定める事項を記載した伐採及び伐採後の造林の届出書を提出しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。(以下略)
森林法施行規則(=農林水産省令)
(伐採及び伐採後の造林の届出)
第九条 法第十条の八第一項の届出書は、伐採を開始する日前九十日から三十日までの間に提出しな ければならない。
つづいて、「B社」が常総市役所農政課に提出した「伐採及び伐採後の造林の届出書」と関係文書全14ページ(http://kinugawa-suigai.up.seesaa.net/image/waka-11-2.pdf)です。これもhttp://kinugawa-suigai.seesaa.net が提供している資料です。
とりあえず、全部引用します。クリックすると拡大表示します。
1「小規模林地開発概要書」p. 1.
2 「小規模林地開発概要書」p. 2.
3 「小規模林地開発概要書」p. 3.
4 「小規模林地開発概要書」p. 4.
5 「顛末書」
6 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 1.
7 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 2.
8 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 3.
9 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 4.
10 「顛末書」
11 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 1.
12 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 2.
13 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 3.
14 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 4.
一見して異様な印象を受ける文書群です。同じようなページが繰り返し現れますが、同一ページを誤って繰り返しpdfにしてしまったというわけではなく、このとおり14ページがまとめて提出されたのです。5つの文書からなっていますが、一括して2014(平成26)年4月2日づけで提出されたようです。「A社」の届出書には受領印はありませんでしたが、こちらは。5つ全部の表題部横にいちいち提出日当日の4月2日づけの受領印が押されています。
内容を詳細にわたって検討する前に、まずこの14ページの構成について簡単にみておきます。
3、9、14は同一内容、つまりコピーされたものですが、下に再掲し、まずこれから見ていきます。書き加えた赤矢印のところの地番表示に注目ください。
実際にはこのあと、赤矢印の1178番地と1171–3番地のふたつの土地をあわせたところに「B社」のソーラーパネルが設置され、翌年9月10日の水害当時を迎えることになるのですが、4のp. 4.「常総市若宮戸第2太陽光発電所」の図面を見ると、このうち1178番地は除外される計画になっています。
このように届出文書と実際との食い違いがあり、それだけでこの「B社」の届出には大きな瑕疵(かし)があることになります。それだけではなく、届出文書のなかでもこの食い違いが起きています。
さらにみてゆくと、届出内容が180度改変されるような重要項目の「訂正」がおこなわれています。「B社」は伐採後は全域を裸地にしてソーラーパネルだけを設置するつもりでいるのに、届出文書には伐採後に「天然更新」による造林をおこなうと記入しておいて、いざ提出となったらそれを抹消し、訂正印を押しているのです(印相が非開示情報とされ黒塗りになっています)。本質的部分でのこうした「訂正」行為は、通常ありえない支離滅裂なものです。何も考えないで文書を作成し、提出の段になって窓口で教え諭され、まったく異なる内容に「訂正」して届け出たのです。あきれた話です。婚姻届を出すつもりで、離婚届に記入し、大あわてで「訂正」させろと騒いでいるようなものです。
文書の有効性が根底からくつがえるようなとんでもない錯誤だらけです。こんなものを却下するわけでもなく、有効な文書としてただちに受理してしまう常総市役所農政課の業務執行方針は理解しがたいものがあります。とはいえ、この文書は有効なものとして通用してしまったようですから、そういうものとして見ていかざるをえません。
全14ページは、つぎのとおりの構成になっています。
1から4の「小規模林地開発概要書」
1178番地と1171–3番地のふたつの土地の森林を伐採し、このうち1178番地を除き、1171–3番地に発電所を設置するという趣旨
5の「顛末書」と6から9の「伐採及び伐採後の造林の届出書」
1178番地についての届出。1178番地の森林を伐採し、その全域と1171−3番地をあわせて太陽光発電所にするという趣旨。上記1から4の「小規模林地開発概要書」ではここは発電所にはしないことになっているのと矛盾する。
10の「顛末書」と11から14の「伐採及び伐採後の造林の届出書」
1171−3番地についての届出。1171−3番地の森林を伐採し、その全域と1178番地をあわせて太陽光発電所にするという趣旨。
1から4の「小規模林地開発概要書」は、宛先も作成・提出日もないのでこれだけ見るといったい何のことかよくわかりませんが、5以下の文書を「添付文書」として茨城県庁に提出する際の本体ということです。1ページの左下に「添付書類」とあるように、常総市役所から茨城県庁に回付される際には、5から14までが「添付書類」としてその「写し」が添付されたようです。
じつは6から9と、11から14とは、地番ごとということで分けて届け出たようですが、これは誤りであり、本来は1通の届出書の中に地番を併記し、当然伐採面積を合計して記入しなければならないのです(http://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/rinsei/keikaku/keikaku/contents/bassai-todokede/documents/03_bassai-rei.pdf)。
形式上の錯誤だらけですが、そんなことで引っ掛かっている場合ではありませんから、内容の検討に入ります。
まず2枚の「顛末書」です。5が1178番地についてのもの、10が1171−3番地についてのもので、内容は同じです。10を再掲します。
「顛末書」とは、いわゆる「始末書」のことのようです。軽微な問題行動におよんで周囲に迷惑をかけたことについて、謝罪のうえ改悛の情をあらわす、という程度のものを想像しますが、内容は強烈です。「B社」は、このあとすぐにソーラーパネルを設置するあの土地の、とりわけ問題となっている河畔砂丘の樹林を、無届けで伐採してしまったというものです。これだけのことをしたならば後述する森林法の規定にしたがって刑事罰があたえられるべきところですが、「始末書」で勘弁してもらえるのです。一般の国民・市民が、たとえば自動車を運転して、ごく軽微な道路交通法に違反する行為、駐車違反とか15km/h程度の速度超過をしたとしても、こんな「顛末書」程度で勘弁してくれるなどのことは絶対ないでしょう。森林法の執行状況の異常性は他に例をみないものです。
「顛末書」の書式も異様です。「今後、立木の伐採にあたっては関係法令を遵守し、適切な手続きを行います。」との本文の文言と、「4 再発防止に向けた対応」欄の全文、すなわち「今後は、法令を遵守し、伐採を行う前に、「伐採及び伐採後の造林の届出」を行います。なお、これに違背した場合には、森林法違反として告発等がなされることについて十分理解致しました。」は、あらかじめ印字されていて、無届伐採という違法行為をおこなったご当人は、それに署名捺印するだけですむのです。そもそもこんな始末書一枚で見逃すことじたい間違っていますが、どうしても一筆とるというなら、せめて写経でもさせるようにこころをこめて自筆で書かせるべきでしょう。
「これに違背した場合には、森林法違反として告発等がなされることについて十分理解致しました。」とありますが、いままさに顛末書1枚(「B社」の場合は2枚ですが……)で勘弁してしまうということは、常総市役所自身がこの言葉を蹂躙していることになります。今回気持ちのこもらない顛末書1枚(「B社」の場合は2枚ですが……)ですましておいて、どうして次は告発だということが「十分理解」されるというのでしょうか。こういう出鱈目で済んでしまえば、どうせ次も「顛末書」で済むことを「十分理致」させるのが関の山でしょう。
しかし、こんなことは序の口です。
「2 無届伐採の内容」によると「無届で伐採を行った期間」は、「3月10日〜4月2日」です。
文書の提出日は2014(平成26)年4月2日ですから、文書上は、「B社」の社員が常総市役所2階の農政課の窓口で、あれこれやり取りをしているその瞬間にもバリバリと伐採していたことになります。
それはそれでひどい話ですが、事実はそのような程度ではないのです。。
文書の提出日の2014(平成26)年4月2日の10日前の3月22日に撮影された、GoogleEarthProの衛星写真画像です。別ページで一連の衛星写真に等高線を重ねて総覧しましたが、まさにこれが、その「無届伐採」の真っ最中のものです。
パーソナルコンピュータに「Google Earth Pro」のアプリケーション・ソフトウェアをインストールし(Windouws, MacOS, Linux 用が揃っていて、いずれも無料)、起動すると画面の上部に15個ほどアイコンが並びます。その真ん中の時計アイコンをクリックすると、左上にこのようなスライダが現れ、地域によって異なりますが、ここ若宮戸でいうと過去25年分の一連の写真を表示させることができます(タブレットやスマートフォン用のGoogleEarthにはこの機能はありません)。等高線の重ね合わせをせずに、少し近寄ったうえ、擬似的ながら3D表示にしてみます。
「無届で伐採を行った期間」の「3月10日〜4月2日」というのは、まったくの虚偽です。10日前の3月22日の時点で、樹木はただの1本も残っていません。それどころか、河畔砂丘をさしわたし200mにわたって掘削する工事が、このとおり、ほぼなかばまで進行していたのです。届出日の4月2日は、掘削はほぼ終了しています。つづいて4月から6月にかけてソーラーパネルの設置工事が進行することになります。6月下旬には、例の「品の字」積み土嚢の堤防もどきの設置工事がおこなわれまです。こころのこもらない始末書は、内容もまったくのデタラメだったわけです。
もちろんこんな取り扱いは許されるものではありません。森林法第10条の8が定める届出を怠り、無届で伐採をおこなった場合については、森林法第208条がつぎのとおり罰則を定めています。
森林法 第二百八条 次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
(以下略)
本来ならば、常総市長は、「B社」の社長 and / or 法人としての「B社」を刑事告発しなければならなかったのです。告発してもいい、告発しなくてもいい、というのではありません。違法行為を知った公務員がそれを見逃すことは到底許されることではありません。まして、たまたま通りがかりに犯罪がおこなわれたことを知ったとかいうのではありません。当の事項を管掌する機関なのですから、違法行為の告発は絶対的義務なのです。文書上は常総市長高杉徹(当時)には一切報告していなかったことになっていますが、口頭では報告したとのことですから、市役所全体の責任は免れません。
当然、伐採作業は中断させるべきところでした。
河川区域の外の民有地のことなので何もできない、などと情けないことを言っている国土交通省は国民の生命・自由・財産を守る気概などはなから持ち合わせていなかったのですが、常総市役所がちょっとがんばって、河畔砂丘とそこにあった森林の原状復元を命令するくらいのことをすればよかったのです。そうしていれば、17か月後のここ25.35kからの氾濫はごくわずかのものに押しとどめることができたはずです。
しかし、感想めいたことを述べるのはまだ早いようです。「B社」の無届伐採の中身について、全体像をみたうえで考えることにしたいと思います。
ページあたりの容量が限界に近づきましたので、ページブレークとします。