若宮戸河畔砂丘における第2の氾濫地点の24.75k地点(正しくは24.63k、若宮戸の河畔砂丘2参照)
河川区域境界線ともなっている市道東0280号線を深さ6mまで掘削した巨大な押堀(2015年12月18日)
Aug., 10, 2019
2019年2月8日づけで改訂された現行の「守谷(もりや)市防災ハザードマップ」です(http://www.city.moriya.ibaraki.jp/iza/bousai/bousaiguide/guide.html )。右に凡例部分を摘記しました。
左上から右下方に流れるのが利根川ですが、鬼怒川の合流地点をはさんで広大な河川区域(灰色)が広がっているのが目を惹きます。左岸の「菅生(すがお)調節池(ちょうせつち)」と「稲戸井(いなとい)調節池」、右岸の千葉県柏(かしわ)市側の「田中調節池」です。
この「調節池」について見ることにします。
利根川は、元来は江戸湾(東京湾)に流れていましたが、徳川政権により、江戸の水害対策兼水運路建設のために(これについては甲論乙駁で、「諸説あります」というところです)鬼怒川・小貝川へ接続してそれを本流とし、江戸川を分流とする流路の大改造がおこなわれました。別ページ(若宮戸の河畔砂丘15)で触れた鬼怒川の常総市内守谷(うちもりや)・守谷市大山新田付近を含む区間の掘割による小貝川との分離もその一環です。こうして、日本列島最大の河川である利根川は、渡良瀬(わたらせ)川・思(おもい)川と合流後、一部を江戸川に分流するものの、そこから河口まで、それまでの2倍の距離にあたる120kmに及ぶきわめて低平な区間を流れることとなったのです。しかも従来無関係だった鬼怒川・小貝川と合流することによる大幅な流量増大もあって、利根川の治水はきわめて困難なものとなります。
次は国交省による「河道目標流量」グラフです。(国土交通省関東地方整備局の「利根川水系利根川・江戸川河川整備計画【大臣管理区間】(平成29年9月変更)」46ページ。http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000169.html)
「河道目標流量」では、江戸川分派によって流量が5000㎥/秒減少するいっぽうで、渡良瀬川・鬼怒川・小貝川が合流しても、流量が増えないことになっています。これこそ「調節池(ちょうせつち)」「遊水地(ゆうすいち)」によるものです。(同、附図3-2)
渡良瀬川の合流点近くには、「渡良瀬遊水地」が設置され、洪水時に利根川への流入量をゼロにしたうえ、鬼怒川と小貝川の合流点近くには、「菅生調節池」と「稲戸井調節池」「田中調節池」を設置して、利根川本流の流量増大をゼロにすると言うプランです。
つぎは、関東平野中心部の低平地、約100km区間の流路です(同、附図3-2)。
そのうち85.5kから125kを拡大したものです。
小貝川が合流するのは、田中調節池の末端の少し先、79k付近です。
水害翌日の菅生調節池の航空写真です(2015年9月11日11時08分、グーグル・クライシス・レスポンス、DSC02750.JPG。reference4B 参照)。
河川水はふだんは低水敷を流れますが、増水時には両岸の高水敷が冠水します。98.5k地点の紅白鉄塔が立っている左岸高水敷は耕地、右岸高水敷は樹木の配列からわかるとおりゴルフ場です。
さらに水位が上昇すると、左岸高水敷から、上下の堤防より一段低くなっている越流堤(えつりゅうてい、黄線)を経て菅生調節池に流入します。こうして利根川の水位を下げておいてから鬼怒川を合流させるのです。さきほどの「河道目標流量」グラフで、鬼怒川が合流しても利根川の流量が増えないのは、こういう仕組みになっていたからです。
菅生調節池に引き込んだ洪水は、利根川の水位低下を待って、大木水門のゲートを開放してもとの利根川へ排水します。
左の写真は、右手前が97.5k地点の左岸堤防、紅白鉄塔、住居・牛舎等です。左奥は1km先の左岸高水敷上の紅白鉄塔です(2015年11月)。
中国東北部(「満州」)から引き揚げた大八洲(おおやしま)開拓団が、1946(昭和21)年に集団を維持したまま利根川と鬼怒川との合流地点の後背湿地に入植し、現在にいたっています。移住当初は、洪水のたびに住居等が浸水被害を受け、ひどい場合には流失するほどでした。現在は、鬼怒川との合流地点の突先近くの盛り土上に住居や牛舎が建てられ、そこだけは浸水を免れるようになっています。
2015年9月の鬼怒川水害に際して、住居や牛舎は浸水を免れましたが、さきほどのグーグルの写真のとおり、耕地は全部冠水しました。しかし、水害を受けた地域とは見なされません。
つぎは、「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp/ ) 画面左上の「情報」ボタン(これが「トップ」)から、2015年9月11日の「推定浸水範囲」を表示したものです。青線で囲まれているのが「推定浸水範囲」です。画面下方、鬼怒川と利根川の合流点が菅生調節池です。菅生沼とその周囲は浸水したと見なされているのに、水面が連続している菅生調節池との境界には空色の線が引かれ、そこから先は何もなかったことにされています。「遊水地」や「調節池」は、「河川区域」であり、増水時に冠水しようがしまいが、それは「浸水範囲」とは見做さないということです。
次の写真は、この菅生調節池の周囲に数箇所立てられている「河川区域概図」です。白い四角がたくさんあって、ここに掲載するにあたって白抜きにしたかのごとくですが、そうではありません。もとの看板にある修正箇所です。ひとつは、2002(平成14)年に守谷町が守谷市になった際の修正です。下から1行目と3行目は、もとは「建設省利根川上流工事事務所」とあったのでしょうが、2001(平成13)年に「国土交通省」になり、2003(平成15)年に「河川事務所」に名称変更した際の修正です。
そして、「上記の概要図に示す から上の土地( )は利根川の です。」は、おそらく、「上記の概要図に示す朱線から上の土地( )は利根川の河川区域です。」ということでしょう。修正が必要だったとは思えませんし、丸括弧内は不明ですが……。
「地理院地図」(https://maps.gsi.go.jp/ )の「治水地形分類図・更新版」で、「守谷市防災ハザードマップ」と同じ範囲を表示しました。国土地理院の地図を含め、国土交通省が作成・公開しているいかなる文書・地図にも「河川区域」は表示されません(国土地理院は国土交通省のなかの一機関です)。信じがたいことですが、「治水地形分類図」と銘打つ地図にさえ「河川区域」境界線が明記されないのです。さきほどの菅生調節池に立っている錆びた看板は「河川区域境界線」が公然と掲げられている稀有なる例外です。
なお、当然ながら、国土交通省によるもの以外に日本全国の河川区域を表示している地図は、印刷物ならびにインターネット上のデータを含めて、存在しません。さすがのグーグルマップ、ヤフー地図、マピオン、ゼンリンもこればかりは完全にお手上げです。
とはいうものの、洪水ハザードマップとなると、まさか「河川区域」がどこなのかを明記しないわけにはいかないでしょう。これほど広大な「河川区域」の明示を回避し、白抜きにでもしようものなら、浸水のおそれのない白抜きとの区別がつかないことになり、洪水時に住民が河川区域に避難するという最悪の事態を招きかねません。水位上昇時に最も危険な地点である「河川区域」を、「ハザードマップ」に明示するのは、当然のことです。
という次第で、冒頭にあげた「守谷市防災ハザードマップ」に明示されている「河川区域」は、氾濫時の浸水深予測とあわせて、国土交通省から直接情報提供を受けたものであり、それを守谷市役所が図化したものなのです。くどいようですが、なぜ「直接」なのかというと、浸水深予測は国土交通省がおこなっているわけですし、「河川区域」データについても国土交通省以外にそれを知る組織はどこにも存在しないからです。
それでは他の市区町村のハザードマップはどうなっているのでしょうか。当然、どこの市区町村のハザードマップもおなじに決まっていると言いたいところですが、案に相違してそうでもないのです。
じつは守谷市のハザードマップを見たのは、別ページ(若宮戸の河畔砂丘15)で鬼怒川の最下流部の更新世段丘(こうしんせいだんきゅう、いわゆる洪積台地〔こうせきだいち〕)部分で「河川区域」がどのように設定されているのか検討した際に、念のため該当する常総・つくばみらい・守谷3市のハザードマップがどうなっているのか心配になって、各市役所のウェブサイトを覗いてみたということだったのです。そうしますと、驚いたことに、「河川区域」をきちんと描いているのは守谷市だけだったのです。
まず、守谷市のハザードマップのうち、最北部の大山新田付近を拡大します。
詳細はさきほどの別ページで触れたとおり、更新世段丘末端部を掘り割るようにして大河川が流れるなどということはありえないわけで、この区間は江戸幕府による人工河道です。しかも、理由は不明ですがなぜか守谷市と常総市の境界が入り組んでいるのです(おそらく新河道掘削以前の、ここの更新世段丘と完新世低地(いわゆる沖積低地)の地形に沿った村界の名残りと思われます。)。画面下が守谷市大山(おおやま)新田、上が常総市内守谷(うちもりや)、右がつくばみらい市絹の台(きぬのだい)です。次に、この3市のハザードマップの重複部分を並べてみます。守谷、つくばみらい、常総の順です。
上段の守谷市の「河川区域」は、常総市内守谷部分に少々ずれた部分はありますが、おおむね正確です。
中段のつくばみらい市は、市界も少しずれていますが、「河川区域」がまったくデタラメです。守谷と常総の市界の曲折を勝手に「河川区域」境界線にしてしまっています。そう思いたい気持ちはわかりますが、これはいただけません。とはいえ、つくばみらい市ではなく他市のことなので大目にみることにしましょう。
下段が常総市です。南岸は、なにをもってこんな線になったのかわかりませんが、デタラメです。それでも今やここは耕作地もしくは耕作放棄地がほとんどで、住宅は一軒もありませんからさほどの害はないでしょう。
しかし北岸は西側は旧来の農家群、東側は新しい住宅団地のすぐ間近なのに、「河川区域」のほとんどが無記入で、白地の安全地帯とまったく区別がつきません。「河川区域」と安全地帯との境界線もありません。これは有害で、みすごすわけにはいきません。
常総市は2015年の大水害の当事者だったのに、これは由々しきことです。常総市の現行のハザードマップについては他の部分も検討しなければなりませんが、それは後ほどにします。
守谷のハザードマップからたまたま利根川の一部の「河川区域」がわかったのですから、この僥倖を無駄にせず、利根川沿岸の他の市町のハザードマップを瞥見することにします。(クリックで独自ウィンドウとしたうえで、虫眼鏡ツールで拡大表示します。ただし、もともとの各市区町村の pdf データの方が精細です。)
各市区町村のハザードマップは、検索エンジンで「〇〇市 ハザードマップ」で最初に出てきますから、URLは記しません。(ただし坂東市は「洪水ハザードマップ」だと、別の情報ページとなるので、ここだけ記します。www.city.bando.lg.jp/page/page005224.html )
なお、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」では、日本列島全域のハザードマップの表示と、全国の市区町村の個別のハザードマップの検索・表示ができます(https://disaportal.gsi.go.jp)。
守谷市に隣接する取手市のハザードマップです。利根川左岸の下流側です。北西方向から続く更新世段丘の最末端部上に市街が発達し、もとは鬼怒川を合わせていた小貝川の最下流部の氾濫原は広い水田地帯になっています。
凡例のとおり、「河川区域」が灰色で明記されています。守谷市同様、広大な調節池(稲戸井調節池)があるので、白抜きにするなどのゴマカシをせず、きちんと描いているわけです。
さらに、左上のタイトル下に、こう書いてあります。
「国土交通省が平成29年に公表したデータをもとに作成しております。」
守谷・取手の対岸の千葉県柏市です。これも凡例のとおり、「河川区域」が灰色で明記されています。守谷市や取手市同様、広大な調節池(田中調節池)があるので、白抜きにするなどのゴマカシをせず、きちんと描いているわけです。
さらに、右上のタイトル下に、こう書いてあります。
「浸水想定区域図は、国土交通省関東地方整備局(利根川上流河川事務所。利根川下流河川事務所・江戸川河川事務所)が、想定最大規模降雨に伴う洪水により、河川(手賀川、大堀川、大津川を含む)が氾濫した場合の浸水の状況をシミュレーションにより予測したものです。手賀沼については、千葉県が、想定最大規模降雨に伴う洪水により、手賀沼が氾濫した場合の浸水の状況をシミュレーションにより予測したものを含んでいます。」
河川の管轄の違いを踏まえて、シミュレーションの主体を明記しているもので、見習うべき態度です。
柏市の右岸上流側の千葉県野田市です。醤油醸造で有名な街です。市界の外は薄灰にして何も描かないことにしているようです。いざ避難となった時、住民はそこへ避難してよいのか、あるいはそこを通ってその先へ避難してよいのか、判断に迷うことでしょう。
柏市は、「河川区域」も明示しない方針のようで、利根川・江戸川の高水敷は白抜きにしてあります。しかし首尾一貫しません。利根川の対岸に「木野崎」というかつての利根川の流路に由来する飛び地があり、菅生調節池の一部になっています。ということは「河川区域」であるのに、ここだけは白抜きにせず、浸水深を図示しています。同じく菅生調節池となっている守谷市大木、同板戸井、常総市菅生については、薄灰にして無視しています。
隣接市域を無視したうえ、「河川区域」について矛盾した彩色をするなど、非常に問題の多いハザードマップです。隣町の柏市とは大違いです。
茨城県、すなわち利根川左岸にもどって、守谷市の左岸上流側=北西側の坂東(ばんどう)市です。市域を8枚に分けるかなり詳細な図です。左は、そのうちの一枚です。
「河川区域」を灰色で図示しています。市域が菅生調節池に一部かかるところはゴルフ場になっています。数年に一度冠水します。
栃木県栃木市のハザードマップ中の、渡良瀬遊水地の部分です。ちょっと前の藤岡町、かつての谷中(やなか)村がいまや栃木市に組み込まれているのです。
灰色の「河川等範囲」は栃木市の新発明用語のようで、まったく意味不明です。「等」などと言いながら、「河川区域」より狭いのです。渡良瀬遊水地をあえて白地にしてしまったため、周囲の大深度浸水地域に囲まれて、まるで安全地帯のようになってしまっています。
「河川区域」を曖昧にすると、とんでもない不都合が生ずるということです。
なお、渡良瀬遊水地の一部は、平地ダムである渡良瀬貯水池になっています。
国土交通省は、「水害ハザードマップ作成の手引き」で、つぎのとおり言っています(32ページ)。
(http://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/saigai/tisiki/hazardmap/index.html)
市町村界に近い住民にとっては、隣接地域の地形状況や浸水状況がわからないと、適切な避難行動が行えない場合も想定される。このため、水害ハザードマップの作成範囲は、住民等の生活範囲なども念頭に、当該市町村の範囲に加え、市町村界の外側についても含めて作成する必要があり、これらの範囲について地図、浸水情報、避難場所等を表示する必要がある。
野田市はこのガイドラインを無視しているわけで、作成作業をやりなおすべきです。
問題は「河川区域」ですが、上記「手引き」でも、「洪水浸水想定区域図作成マニュアル(第4販)」でも、「河川区域」については、ひとことも触れていません。「遊水池」「調節池」にもいっさい言及しません。国土交通省の「河川区域」隠しは、ここまで徹底したものなのです。
(http://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/tisiki/syozaiti/pdf/manual_kouzuishinsui_171006.pdf)
さきほど一部分だけ見た常総市の現行のハザードマップについて、他の点も見ることにします。
なお、常総市域のかなりの部分で堤防の新設・嵩上げ工事がおこなわれていて、2019年現在でも状況は大きく変化していますが、現行のハザードマップはそれらの工事に着手する前の状態についてのものです。とはいえ、築堤・嵩上げ工事完了後も、浸水予測はほとんど変わらないものと思われます。というのも、浸水シミュレーションは越水や破堤のおこりやすさはもちろん、堤防の有無とも無関係のものだからです。せいぜい変わるとしても、無堤区間に堤防が新設されれば、河川区域境界線の線引きが多少変化する程度です。
問題点を指摘し始めるとキリがないのですが、4点だけに絞り、下流側から順にみていくことにします。
(1)くりかえしになりますが、左岸の守谷市側に飛び地になっている地点です。「河川区域」の灰色がデタラメです。画面中央部の西に流れている左岸側も不正確ですが、右岸側の「河川区域」をほとんどカットして白抜きにしているので、まるで「安全地帯」です。
ここでは、2015年の水害時には、増水した河川水が逆巻いてそれはそれは強烈だったそうです。
(2)鬼怒川左岸が、三坂や若宮戸のある石下(いしげ)町との合併前の水海道(みつかいどう)市の中心市街地です。新八間堀川の人工河道が街を二分しています(八間堀川は、今は分流となったきぬ医師会病院脇の河道で小貝川に流れていました)。
八間堀水門と八間堀川排水機場(地図には併設されている下館河川事務所の水海道出張所)のある新八間堀川河口より下流の、国道354号の豊水橋(ほうすいきょう)、鬼怒川水海道水位・流量観測所のある左岸一帯が白地になっています。ここは西から続く更新世段丘(洪積台地)の末端部分ですが、どうしてここを鬼怒川が掘り割って流れているのか不思議な地形です。水海道市街地で最も標高のたかい地点で、かつて江戸・東京にいたる水海道の水運拠点だったところです。
標高が高いのですが、ここは堤防がありません。水位・流量観測所の手前から下流側には堤防があるのですが、その天端(てんば)より低いのですから、「山付き堤」の「山」にあたるというわけでもありません。白抜きの安全地帯のはずですが、2015年の水害時にこの堤防のない地点で小規模ながら溢水(いっすい)が起きています。詳細は、別ページ(八間堀川問題8)で示したとおりで、水防活動による土嚢積みでかろうじて溢水の拡大を防いだのです(再掲する写真は、左側が http://ameblo.jp/goemonn-dog/ による写真です。その後このブログは閉鎖されてしまったようです。撮影時刻は上の観水公園が正午ごろ、下の堤防が途切れるところが12時10分±10分です。右側は同じ場所の2016年2月8日)。そこが、このとおり白抜きの安全地帯になっています。
下の左は、国交省の「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp)の表示です。浸水予測データは同じですが、背景の地形図がよく見えるので引用します。左図の「水海道元町」の「道」あたりの無堤部分で溢水が起きたのです。右はグーグルマップです。
ハザードマップの浸水予測はあくまでもシミュレーションによるものですから、他地域と同様の計算をしてこうなったというのでしょう。現実に溢水が起きた地点について、安全であると表示しているのですから、そのシミュレーションは氾濫予測としては誤っているということです。アルゴリズムが悪いのか、入力した初期条件が不正確だったのかわかりません。たぶん両方でしょう。そんなものを、水害後に改定したハザードマップに堂々と載せる神経は、とうてい理解できません。
さらに理解できないのは、改定前のつまり水害当時のハザードマップ(このページの末尾に掲載)では、ここは白抜きにはしていなかったのです。ここでの溢水は近隣住民はもちろん市役所職員であれば周知の事実なのに、改訂版でわざわざ間違ったわけです。
「河川区域」を徹底的に忌避する下左の「ハザードマップポータルサイト」では、とうとう八間堀川(新八間堀川)が河川としてすら描かれず、浸水深5m以上の土地として描かれています。ひどい話です。
(3)つぎは、三坂(みさか)付近です。若宮戸と並ぶ大規模な氾濫が起きた21k地点です。
ここに限らず、紫斜め格子で「洪水氾濫」による「家屋倒壊等氾濫想定区域」が図示されています。三坂の破堤地点では、激烈な氾濫流のために数多くの家屋が基礎から引き剥がされて流されたり、あるいは地盤が抉られて傾斜したりしました。テレビ局がヘリコプターをホバリングさせてライブ配信したので、記憶も鮮明なのですが、「想定区域」は現実に起きた家屋倒壊の範囲に一致しません。
これはグーグルマップが2019年現在も表示している2015年9月18日ないし19日の衛星写真画像です。
氾濫流が残した土砂がかなりの範囲に広がっています。黄丸が有名な「ヘーベルハウス」です。軽量鉄骨造の「ヘーベルハウス」が倒壊・流失しなかったのは、それが木造家屋でなかったからではなく、基礎として鋼管が打ち込まれた上に建築されていたからです。躯体構造ではなく、基礎が決定要因なのです。凡例にあるとおり「木造家屋」にこだわるのはいささか不正確です。
ハザードマップにいう「洪水氾濫」による「家屋倒壊等氾濫想定区域」は、だいぶ狭すぎます。これも浸水深予測同様に、シミュレーションによるものなのでしょうが、現実はそれをはるかに上回ったわけですから、いまさらこういう的外れの予測を勿体ぶって掲載すべきではありません。
(4)最後に常総市の鬼怒川最上流部の若宮戸(わかみやど)の河畔砂丘(かはんさきゅう)地点です。
「溢水地点」とあるのが、25.35k前後約200mにわたって「B社」が掘削し、国交省がそこに申し訳程度の「品の字」積み土嚢を置いた地点です。若宮戸ではもう1箇所、24.75k(正確には24.63k)でそれに迫る大規模な「溢水」が起きているのですが、忘れたふりをしています。国土交通省でさえ、どんなに目立たないようにではあっても25.35kだけ触れて24.75k(正確には24.63k)は無視する、などということはしないのです。この若宮戸の1点集中は、いいかげんな情報をもとにあれこれ記事や論文を書いた報道企業や自称「専門家」と同じです。軽率で無責任な遠方の傍観者ならいざしらず、水害の当事者である市役所がこれほどまでに事実に疎いのはどういうことなのでしょうか。(若宮戸河畔砂丘における氾濫の全体像については、別項目をごらんください。)
ここでも「河川区域」(右は1966年の建設大臣告示の「河川区域」図面)を隠蔽したために、謎の白抜き地帯が河道にそって左岸一帯に広がっています。右岸の更新世段丘や左岸の砂丘(R2)や砂丘(R1)の残丘のように、標高が高いために「安全地帯」となっている地点を示す白抜きと区別がつきません。(R=リッジ〔畝〕については、別項目参照)
いささか不正確ですが、左岸の紫斜め格子の河道側の外縁が「河川区域」境界線のようです。語るに落ちるとはこのことで、「河川区域」データをもとに紫斜め格子を描き込んだこと、それでいて「河川区域」情報を隠したことを自白したのです。国土交通省主演、常総市役所助演による見え透いた猿芝居です。
紫斜め格子も不正確です。(3)の三坂同様、「家屋倒壊等氾濫想定区域」は、狭すぎます。実際に、若宮戸の近接した2箇所でかなり激しい氾濫流により、もっと広い範囲で地盤の洗掘や住宅の損傷が起きています。
ついでに旧版、つまり水害当時のハザードマップの若宮戸部分もみておきます(その下は全体図)。現行版で白抜きになっている24.63kから下流が、そこだけ他にない意味不明の灰色になっています。市道東0280号線・市道東0272号線・市道東0283号線などが、「河川区域」境界線や浸水深の差異の境界になっています(右の市道番号図は、http://kinugawa-suigai.seesaa.net/category/26365120-1.html)。
現行版では浸水しない箇所とされているR1の残丘やR2なども、まったく考慮されていなかったようです。そこが避難先として最善かどうかは別問題として、浸水深予測でもっとも重要な要素である土地の標高についてまったく無頓着なのです。現行版もいろいろ問題ありですが、旧版のハザードマップは桁違いのインチキぶりで、いかなる根拠理由にももとづかないデタラメな塗り絵だったのです。
しかし、報道企業や「専門家」たちは、こうしたことはまったく気づくこともなく、ハザードマップは正確だったと思い込んだうえで、そんな自分たちの能天気ぶりを棚にあげ、ハザードマップがあったのによく見もしないで逃げ遅れてヘリコプターのお世話になったと言って、被災者の常総市民をさんざん小馬鹿にしていたわけです。
若宮戸の河畔砂丘 3 (準備中)
若宮戸の河畔砂丘 8 土嚢越水(準備中)
若宮戸の河畔砂丘 9 (準備中)