下流優先論6  2019年水害の隠蔽                    (May 22, 2021)

 

Ⅰ 痕跡水位の集計結果における膨大な欠測

2019年10月13日、最高水位から約70cm低下した15:17

床上浸水したL5.50k付近の幼稚園(つくばみらい市小絹)

 

 2019年10月13日の台風19号による洪水で、鬼怒川最下流部では、2015年9月10日以来の氾濫被害に見舞われた。鬼怒川のほとんどの区間では4年前より水位が低かったのだが、写真の5.50k地点では4年前より1m以上も高い水位に達した。2015年には鬼怒川単独の洪水だったが、2019年は本川利根川の洪水により、支川鬼怒川の最下流部の異常な水位上昇が起きた。利根川の洪水現象は、最大の支川である鬼怒川の洪水現象と密接に相関しているのである。

 ところが、洪水の測量にあたった測量会社と下館河川事務所は、3.00kから7.00kまでの水位の測量記録を全部抹消してしまった。将来にわたって、この測量結果は永久に隠されたままになるだろう。利根川水系の治水政策を実施するうえで極めて重要な事実が、下館河川事務所の行為によって参照不可能になる。利根川水系全体の治水に破滅的影響を及ぼす可能性があるだろう。

 以下5ページにわたって、2021年2月に開示された、測量報告書を分析する。

 

 

痕跡水位観測業務が記録されている文書名と配列の概要

 

「H31鬼怒川下流部流量観測業務 業務概要」(令和2年3月、株式会社新星コンサルタント)

 

「平成31年度 H31鬼怒川下流部流量観測業務 現地調査報告書」(令和元年5月、株式会社新星コンサルタント)

 

 上記2文書については、2021年2月に関東地方整備局長が、3件のpdf形式のデジタルファイル(SUVRP001.pdf、SUVRP002.pdf、SUVRP003.pdf)として開示した。

 上記2文書の構成は雑然としていて、把握するのが困難である。SUVRP001.pdfとSUVRP002.pdfが、「H31鬼怒川下流部流量観測業務 業務概要」(令和2年3月、株式会社新星コンサルタント)のことのようであるが、さまざまのデータや写真が、ページ付けなしに雑然と束ねられていて、大項目、中項目、小項目を示す表題も一切ない。

 以下、文書の本文にはページ表記がないので(紙に印刷するとページ配列を示すものは何もなくなる)、pdfをディスプレイに表示した場合のサムネイルに付される連番をページ数として示す。

 SUVRP001.pdfのp.2に「目次」があるが、それは、SUVRP001.pdfのp.3からp.33まで目次であり、p.34以降には、項目名の表記、タイトルの表示がないまま、突然観測業務に際して作成された文書・図・写真等が並ぶ。p.34からp.135までが流量観測についてであり、p.136から突然、2019年10月13日の台風19号による出水の痕跡調査がはじまる。

 SUVRP001.pdfのp.136からp.141までが「鬼怒川痕跡調査一覧表」であり、3.00kから55.50kまでの痕跡高が示される。そして、p.142からp.166までが同区間の「鬼怒川平面図」として示される(ただし、後述のとおり、p.145に「7」、p.146に「6」と、順番が間違っている)。さらに、p.167からSUVRP001.pdf最終ページのp.177までが「鬼怒川縦断図」となっている(これも後述のとおり、p.167とp.168の順番が入れ替わっている)。

 ここからただちに表紙のないSUVRP002.pdfに続くようで、そのp.1からp.520までが流量観測時の写真であり、p.521から突然、2019年10月13日の台風19号による出水の痕跡調査時の地点ごとの写真(タイトルがないので、以下「地点写真」という。)がはじまる。すなわち、p.521の左岸3.00kからp.565の左岸55.50kに続いて、p.566の右岸3.00kからp.656の右岸55.50kにおいて観測員が痕跡の位置を示している写真と痕跡位置の「判断材料」と「判断精度」)が示されている。(以下略)

 そして、SUVRP003.pdfが「平成31年度 H31鬼怒川下流部流量観測業務 現地調査報告書」(令和元年5月、株式会社新星コンサルタント)のようだが、「令和元年5月」すなわち2019年5月の日付のついた報告書の中に、それより5か月後の、2019年10月13日の台風19号の出水の痕跡水位観測に関する文書がとびとびに掲載されるという、いかにしても理解し難い構成になっている。すなわち、SUVRP003.pdfのp.1200から突然、項目表示もなく、「縦断測量観測手簿及び計算簿」という、新星コンサルタントのネームの入った統一書式に測量値が記入された文書が始まる。p.1200からp.1231までが左岸の痕跡水位観測の結果、p.1232からp.1267までが右岸の痕跡水位観測の結果である。ただし、250mごとの距離標石地点での測量と、樋管・橋梁地点での測量は、別個に実施されるし、必ずしも順に測量するわけではないので、並び方はまちまちである。(以下略)

 


 

 

 報告書の形式的な混乱は、当然是正されるべきものである。このようなものを漫然と受け入れて問題にもしないのは到底理解し難いことである。下館河川事務所は報告書を本当に読んだのか、と疑われてもやむをえない。しかし、問題は報告書の内容である。まさに驚愕すべきものである。

 前述のとおり、SUVRP001.pdfに痕跡水位観測の結論として、「鬼怒川痕跡調査一覧表」「鬼怒川平面図」「鬼怒川縦断図」が示され、SUVRP002.pdf、SUVRP003.pdfに、その根拠となった地点写真と「縦断測量観測手簿及び計算簿」が列挙されているのであるが、その全部が問題となる。まず、この痕跡水位測量の結論部分の問題点を指摘する。

 「鬼怒川痕跡調査一覧表」(SUVRP001.pdfのp.136からp.141まで全6ページ、痕跡水位測定点(赤点)を結んだ青線(氾濫していれば河川区域外に及ぶ)を記入した「鬼怒川平面図」(SUVRP001.pdfのp.142からp.166まで全25ページ)、「鬼怒川縦断図」(SUVRP001.pdfのp.167からp.177まで全11ページ)を見ると、欠測箇所が異常に多い。なお、ここで欠測とは観測を実施しなかったというのではなく、観測は実施され、観測値は得られているが、最終的な数値・図面として報告されなかったことを指す。すなわち、観測によって得られたデータが、理由・根拠を示すことなく「不採用」とされ、結果的に相当箇所の痕跡水位があきらかになっていない。

 

 異様なことであるが、「鬼怒川平面図」と「鬼怒川縦断図」は乱丁となっている。すなわち「鬼怒川平面図」は「7」と「6」が逆順になり、p.145が「7」、p.146が「6」となっている。「鬼怒川縦断図」も同様の乱丁となっている。すなわち、1枚目(表題なし、pdfのp.167)が8.00kから13.00kまで、2枚目(表題なし、pdfのp.168)が3.00kから8.00kまでとなっている。

 初歩的なミスともいえるが、この種の文書としては致命的なものであり、上記のような文書表紙の日付の異常さとあわせ、重要業務の受託者としての基本的な能力欠如を物語る。このような報告書であっては、長く保管して後々参照する上で支障を生ずるのは確実である。受領した下館河川事務所は即刻訂正させ、再提出させるべきだったのに、それを怠って放置した。3000ページ近くを細部まで点検しなければわからないようなミスというのではなく、受領したその日のうちに全体をざっと見る程度ですぐに気づくような根本的錯誤なのであるのに、気づきもせず放置したのだとすると、下館河川事務所はページを開くことすらしなかったに違いない。無責任の極みである。

 それどころか、常識的には考えられないことだが、他の点を考え合わせると、行政文書開示にあたって、図を書き換えて差し替えた際にあわてて順番を間違った可能性がある。すなわち、「鬼怒川平面図」鬼怒川縦断図」いずれも、本来記載すべき氾濫の及んだ範囲を示す青線(平面図)ないし赤の折れ線(縦断図)を削除し、空白・空欄にしたものに改竄したこと、しかも2019年台風19号の際の特異的な高水位が記録された区間、しかもそこで氾濫による水害をもたらした区間について、高水位の数値(一覧表)、洪水が河川区域外に及んだ範囲(平面図)、縦断線形(縦断図)をすべて抹消し隠蔽したことが疑われる。すなわち、基本的な実務上の知識技能を欠く上層社員・幹部職員らが内密に大慌てで迂闊な操作をし、点検すら怠ったことが考えられるのである。これについては、Ⅳで決定的な証拠事実を摘示する。

 

 次ページ以降に、「鬼怒川痕跡調査一覧表」全6ページのうち3.00kから32.25kまでの3ページ(SUVRP001.pdfのp.136からp.138まで)と、「鬼怒川平面図」全25ページのうち、3.00kから6.75kまでの3ページ(SUVRP001.pdfのp.142からp.144まで、ただし順番を訂正して引用)、11.00k付近の1ページ(SUVRP001.pdfのp.146)、45.750k付近の1ページ(SUVRP001.pdfのp.160)、さらに「鬼怒川縦断図全11ページのうち1ページ目から5ページ目(SUVRP001.pdfのp.167からp.171まで、ただし順番を訂正して引用)を例示する。

 

(以下、新星コンサルタントの報告書の一部を引用した部分、とくに平面図や縦断図などは、もともと著しく小さな図や文字であるうえ極度に不鮮明なため、A4版の紙に印刷するとほとんど判読不可能である。各画像をクリックし、独自ウィンドウにしたうえで拡大していただきたい。)

 


 

 以上のとおり、浸水被害を生じた地点を含む3.00kから7.00k区間が、左岸・右岸ともに、連続的に、すべて欠測になっている。すなわち、一覧表においては全部のセルが空欄(「−」)となり、平面図においては、全区間で洪水到達範囲を示す青線が記載されていない。縦断図では痕跡水位の赤破線が不記載となっている。

 これにより、2019年10月の台風19号によってこの区間で発生した浸水被害の記録がまったく残らないことになる。同じように無堤部である地点で氾濫が起き水害を生じた筑西(ちくせい)市船玉(ふなだま)から伊佐山(いさやま)付近、すなわちL43.75kからL46.75kについては痕跡水位が記録され、平面図(上に引用した「平面21」、SUVRP001.pdfのp.160)には氾濫水の及んだ範囲が青線で記入され、縦断図で赤破線で記入されているのとは対照的である。

 とりわけ縦断図では、凡例によると、「痕跡調査高」について「ほぼ明確」の地点については該当地点に赤丸を、「想定」の地点については該当箇所に赤三角を付した上で赤破線を引くことになっている。3.00kから7.00kの両岸はもちろん、あとでも触れることになるL11.00kからL12.50k区間などでは、凡例に反して赤破線と赤三角をまったく記入していない。ある不当な意図のもとにあきらかな作為を施したことは、明白である。

 氾濫に至らなかった場所であったとしても、洪水の客観的データが残されないことにより、従来の河川行政の妥当性の検討および将来方針の策定に決定的な支障を生ずる。とりわけ甚大な浸水被害をもたらした区間についてのデータが全部抹消されているから、被害をもたらした氾濫についての最も基本的なデータが残らないことになる。これは、瑣末な瑕疵や不備などではなく、きわめて重大な情報改変がおこなわれているということであり、いかにしても看過できない。

 具体的にいうと、他の区間が2015(平成27)年9月10日の水害時より最高水位(痕跡水位)が低かったのとは対照的に、当該3.00kから7.00k区間の相当部分にあっては水位が50cm程度以上、とりわけ氾濫による床上浸水被害を生じたL5.50k地点では、108cm高かったのである(Vで詳述)。これは、計画高水位の設定ひいては計画堤防高の設定に関連を有する事実であるのに、それが一切記録されない。今後、現行計画高水位・計画堤防高の妥当性の検討が不可能となる重大事態である。

 これは、鬼怒川単独の事情に限らない。そもそも2015(平成27)年の前回洪水時の水位の縦断曲線と、2019(令和1)年洪水時の水位の縦断曲線とが大きくことなることになった理由が、本川である利根川の2015(平成27)年の前回洪水時の水位と、2019(令和1)年洪水時の水位との差異に起因することからもわかるとおり、本川利根川の治水方針全体において、支川鬼怒川の計画高水位の設定はきわめて重要な意味をもつ。利根川水系全体の治水方針策定においては、支川鬼怒川の出水時の痕跡水位データを参照することは、必要不可欠であるのだが、それが不可能になっているのである。

 3.00kから7.00kの区間以外における欠測箇所も膨大であり、それぞれ問題がある。その一部を例示すると、激特事業により築堤した左岸水海道元町(みつかいどうもとまち)の痕跡水位が不明となっている。激特事業による堤防の拡幅・嵩上げ箇所は数多いが、ここは拡幅・嵩上げではなく新造堤防である。2015(平成27)年9月10日には、この水海道元町の豊水橋(ほうすいきょう)からL11.000kの間の4箇所で溢水が起き、水防活動により大規模氾濫をかろうじて防いだ地点である。ところが、この区間は両岸とも欠測となっている。2回の洪水の比較も不可能であり、新造堤防の天端高と洪水の最高水位の照合もできない結果となっている。とくに、前述のとおり、3.000kから7.000kにかけては、前回洪水より概ね30cmから1m以上水位が高かったのに対し、水海道元町地点では逆に50から60cm程度水位が低かったという注目すべき現象が起きているのであるが、これら事実がまったく記録されない状態となっている。

 L21.00kを含む常総市三坂町(みさかまち)、ならびにL24.63k(関東地方整備局はこれをL24.75kとしてきた)からL25.35kにかけての常総市若宮戸(わかみやど)は、2015(平成27)年水害の原因となった2地点であり、それぞれ堤防の復旧ないし新造が行なわれたのであるが、その対岸(右岸)が連続的に欠測となっている。

 以上のように、連続的かつ膨大な数の欠測は、とりわけ重要地点に集中している

 かくのごとき事態は、いかにしても容認できるものではない。当然、再発防止策を講じなければならない。そのためには、今回の痕跡水位観測の不備が如何にして生じたのかを具体的にあきらかにしなければならない。そこで、以下、今回の観測をおこなった事業者の業務遂行状況の根本的な問題点を指摘する。今後の業務委託先の選定は、漫然と前例踏襲を続けるのではなく、慎重を期さなければならない。また万一今後も同事業者に業務委託するのであれば、業務遂行体制の根本的な改善が前提となる。抜本的改善なしに業務委託するのは失当である。

 委託者であり報告書の受領者である関東地方整備局下館河川事務所の業務運営状況にも問題がある。前述のとおり、ページ配列の乱れにも気づかず、乱丁を放置したというこの一点からもわかるとおり、漫然と業務を委託し漫然と報告を受けたことは否定し得ない事実であり、抗弁の余地はない。第3の報告書(SUVRP003.pdf)の日付が、「令和元年5月」となっているが、当該報告書の中に、それより5か月後(2019年=令和元年10月)の台風19号の痕跡水位について記述してあるという不手際すら見逃している。これらについて、いわば外形上の形式的なミスとして見過ごすことはできない。この程度の初歩的なところで誤謬をおかす受託企業や、それに気付きもしない行政機関は、治水という重要課題を遂行する資格をみずから放棄するに等しい。

 とりわけ、2019年台風19号の痕跡水位観測業務が、膨大な欠測の発生という結果におわり、結局のところ本来目的を達成できないという根本的問題があるにもかかわらず、そのことについて一切是正措置を講ずることをせず、これを放置している下館河川事務所の対応は根本的に誤っている。測量会社は他にも存在するから代替は可能であるが、鬼怒川下流部の治水を担当する主体は、現行法制上、関東地方整備局下館河川事務所が唯一であり、その職務を代替・代行しうる機関は存在しないのであるから、ことは深刻である。申立人は2019年3月以来、下館河川事務所には重ねて問題点を指摘し、報告書の記述の誤りを示したうえで、痕跡水位情報を再確認し記録を作成するよう求めたにもかかわらず、理由なくこれを無視し続けている。もはや下館河川事務所による改善・是正の見込みはないから、上級行政庁としての関東地方整備局の、さらには国土交通省としての厳正な対応が求められる。