16, July, 2019
若宮戸の河畔砂丘の広大な土地を購入した太陽光発電業者の「B社」は、西側の砂丘の畝(下の2014年3月22日撮影のGoogleEarthPro画面の上3分の1あたりの段差が残っている部分)を完全に掘削し(ただし、iPhone X のノッチのように出っ張りますが)、東側の工場跡地の草地(画面下半分の低平地)と同じ標高にしたうえで、そこに発電能力180万ワットの発電所を設置しました(ただしくは毎時180万ワット〔https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/302961/101400004/〕。10の6乗=100万ワット以上のものを俗にメガ・ソーラーと言うようです。なお、原子力発電所の一般的な発電量は、毎時100万キロワット程度ですから、3桁異なります。原発はさしずめ、ギガ・ニュークリアというところでしょうか)。
ソーラーパネルの設置工事がほぼ終わったのが2014(平成26)年7月ころで、まもなく操業が開始されましたが、1年とすこしあとの2015(平成27)年9月10日、掘削した砂丘跡からの大量の氾濫水によって損壊しました。「自業自得」かと思いきや、「B社」の太陽光発電所は損害保険金で全部補償されたとのことで、ほぼ同規模で再建され今日に至っています。
前ページで、1178番地についての「顛末書」と、1173−1番地についての「顛末書」のあきれた中身をみました。これが「顛末書」1通(「B社」の場合は2通でしたが)で勘弁してやってしまったのが妥当だったのかどうかについては、もうすこし全体を見てから考えることにしましょう。ひき続き、若宮戸の河畔砂丘においてソーラー発電業者の「B社」がおこなった違法行為と、それに対する行政機関の対応状況について検討します。
「B社」が、2014(平成26)年4月2日づけで常総市役所農政課振興係に提出した文書全14ページを再掲します(2列に表示します。クリックすると拡大表示します)。
1「小規模林地開発概要書」p. 1.
2 「小規模林地開発概要書」p. 2.
3 「小規模林地開発概要書」p. 3.
4 「小規模林地開発概要書」p. 4.
5 「顛末書」
6 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 1.
7 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 2.
8 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 3.
9 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 4.
10 「顛末書」
11 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 1.
12 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 2.
13 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 3.
14 「伐採及び伐採後の造林の届出書」p. 4.
「顛末書」を受けて提出された「伐採及び伐採後の造林の届出書」をみます。6ページから9ページ目が1178番地についての「伐採及び伐採後の造林の届出書」、11ページ目から14ページ目が1173−1番地についての「伐採及び伐採後の造林の届出書」です。
それぞれの「伐採及び伐採後の造林の届出書」には付属図が2ページずつ付きますが、本来それぞれの番地についてのものであるはずのところ、13ページ目の1178番地の地図は8ページ目の1173−1番地の地図のコピーをそのままつけたために番地表示が誤っているうえ場所も区別がつかず、9ページ目と14ページ目とはそれぞれの番地を表示しないで、両方にマルをつけてコピーして添付する杜撰さです。もっとも前述のとおり、本来は地番ごとに分けて作成するものではなく、両地番を併記して全体について1通作成すべきものなのです。分けてはいけないものを分けた上、中身は区別されていないのです。常総市役所農政課の担当者はそんなことには気がつかなかったようで、そのまま即日受理してしまったのです。
「1 森林の所在場所」では、「大字若宮戸 字中川原」とすべきところ、「若宮戸大字 中川原字」になっていますが、ここも訂正されていません。本来なら、このような内容上の不備のある文書は無効でしょうから、返却のうえ改めて書き直させるのが筋です。しかし、この程度のことは内容のデタラメさ加減の前ではまったくの些事です。
この2通の「伐採及び伐採後の造林の届出書」は番地の表示とそれぞれの「伐採面積」の数値が違うだけで、内容は同一です。2通の本文2ページ分を並べて再掲します。左が1178番地、右が1171−3番地です(クリックすると拡大表示します)。
前にも触れましたが、砂丘の畝の部分の樹林を一本残らず伐採し、全域にソーラーパネルを設置して発電所にしようというのですから、伐採後の造林はするはずがないのです。どういうわけか全域について「天然更新」による「造林」をおこなう旨記入した上で、全部を抹消して訂正印を押しています(訂正印の印影は非開示情報ということで黒塗り)。
「B社」は、何もわかっていない、何も考えていないまま、書類を作成したのです。そのままだと「天然更新」による「造林」をおこなうことになってしまい、あとあと面倒なことになったところですが、提出の時点で農政課の窓口でご親切にも抹消するよう教えてもらったのです。
「B社」は行政書士、司法書士、弁護士などの専門家/法曹の助言指導を受けていないようです。届出書の全体構成から記入事項のいちいちにいたるあらゆる点で、それら専門家では絶対にしない錯誤に満ちた書き方をしていることから明らかです。1通にすべきところ2通にわけるとか、ありえない造林面積を記入したうえで全部抹消しているとか、専門家どころか一般の素人でもありえないミスだらけで、企業経営に必要な最低限の文書事務を遂行するための資質能力に疑問を抱かせるのです。この調子だと、会社設立の際のさまざまの事務処理、たとえば会社の登記をするのは到底無理でしょうから、その時だけ司法書士に依頼したか、あるいはまわりにいる関係者にいちいちご指導ご助言をもらいながらきりぬけ、そのあとはそういう費用のかかることはしないで、その都度の手続きをなんとか切り抜けてきたのでしょう。
あの結構な面積のある土地を入手するにあたっては、契約書は不動産屋が作ってくれたのでしょうし、こまかい「筆」に分かれていたかもしれませんが、それらを合筆したうえで、所有権移転登記をするに際しても結構な費用を払って司法書士に代筆させたのでしょう。「届が必要の事をしらなかった」などとふざけたことを言って その届出をしないことには、次に進まないわけですから。
「B社」は無断伐採した経緯・理由として「伐採に届が必要の事をしらなかったため」(原文のまま)と書いていますが、しかし現時点で問題なのはその事自体ではなく、だったらどうして、伐採どころか掘削までしてしまった4月2日になって、一転して、しかも唐突に、届出文書を大慌てで作成し、常総市役所に提出することになったのか、ということです。しかも、文書の趣旨が180度変わるような削除訂正まですることが、どうして可能なのかということです。
(あ) 「伐採に届が必要の事をしらなかった」人が、なにゆえ、突然、届出をすることにしたのか。届出の必要性を教唆したのは誰でしょうか?
(い) 伐採後造林するといったん書いた人が、なにゆえ、突然、削除訂正したのか。削除訂正の必要性を教唆したのは誰でしょうか?
まず、問(い)から考えます。
森林伐採に届出が必要であることを教唆したのは、行政書士・司法書士・弁護士ではありません。「B社」は行政書士・司法書士・弁護士と顧問契約をしていそうもありません。無関係の行政書士・司法書士・弁護士がわざわざ教えてやることなど到底ありえません。一時的に行政書士・司法書士・弁護士に依頼したとしたら、こんな杜撰な届出書が作成されるはずはありません。それどことか、まともな行政書士・司法書士・弁護士なら、こんな森林伐採や砂丘掘削などやるべきではないと言い、仕事の依頼は受けないでしょう。まして、無届で伐採してしまったあとになって、「顛末書」やいまさらながらの届出書を提出すべきだとして文書作成を引き受けてくれる行政書士・司法書士・弁護士をみつけるのはもはや無理でしょう。
もちろん、のちに被害者となる住民が助言するなどありえないでしょう。理由は考えるまでもないでしょう。
なお、当然、本人が自分で気づいたなどということではありえません。企業経営者として一般的知識をもち、必要な能力資質をそなえ、なにより社会的責任についての自覚を持ってさえいれば、いろいろ調べたりしているうちに何かの拍子に気づきもするでしょうが、この可能性はほとんどないでしょう。
こうなるとおのずと範囲は限られてきます。
造林計画を抹消すべきことを教唆したのが誰かは、比較的簡単にわかります。当然行政書士・司法書士・弁護士ではありません。いまさら土壇場になってからそんなことを教えるくらいなら、あんな記述はしない、させないでしょう。ほんの1時間でも余裕があれば出発前に書き直すことも可能なのですが、それもしていないわけです。たいして記入事項があるわけではないので、なにも窓口までいってから慌てて直すのではなく、出発前に作成し直せばすむわけです。そうしないで、けっこうみっともない削除訂正をして提出したとなると、教唆は、提出後におこなわれたに違いありません。つまり、社長が、はいこれです、といって手渡したものを、窓口で応対した職員が手に取ったうえで目をとおした後に行なわれたと考えるほかありません。削除訂正すべき事を教唆したのは、窓口の市役所職員以外にはありえません。
「2 伐採の計画」中の「伐採面積」は、おおいに問題となるところです。1178番地と1171−3番地の両方をあわせた森林伐採面積が1ha(10,000平方メートル。縦100m・横100m。だいたい野球場の内外野あわせたくらいの広さ。約3000坪)以下であれば、「届出」でよいが、1ha を超えると、都道府県知事の「許可」が必要になるのです。内容しだいでは「許可」されないということも起こりうるのです。
樹木を伐採できなければ、樹木が生えているその下の砂丘の掘削もできないことになります。伐採しないで砂丘の掘削だけするのは不可能です。
だからといって太陽光発電所が設置できなくなるわけではなく、森林になっている砂丘部分をそのまま保存し、東側のもともと低平な家具工場跡地に、4割程度規模を縮小して設置すれば良いだけの話です。それがいやなら買わなければいいのです。もともと持っていたか相続したかで、やむをえず有効活用したいというのではなく、わざわざ土地を探して不動産業者の仲介で購入し、そこに政府の方針にもとづく高額での売電により大きな利益がみこめる太陽光発電所を設置するのが最初からの計画です。つまり、「B社」ははじめから砂丘を掘削して平らにするつもりだったのです。
伐採面積が1ha を超える場合には、その伐採に都道府県知事の許可が必要となる「地域森林計画」の対象となる森林を、「五条森林」というのだそうですが、その規定は次のとおりです。アンダーラインのところに注目ください。そのあとに、「地域森林計画」を含む「森林計画制度」全体の体系図を示します。( http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/sinrin_keikaku/pdf/taikeizu24.pdf )
森林法
(開発行為の許可)
第十条の二 地域森林計画の対象となつている民有林(第二十五条又は第二十五条の二の規定により指定された保安林並びに第四十一条の規定により指定された保安施設地区の区域内及び海岸法(昭和三十一年法律第百一号)第三条の規定により指定された海岸保全区域内の森林を除く。)において開発行為(土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為で、森林の土地の自然的条件、その行為の態様等を勘案して政令で定める規模をこえるものをいう。以下同じ。)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。(以下略)
森林法施行令(=政令)
(開発行為の規模)
第二条の三 法第十条の二第一項の政令で定める規模は、専ら道路の新設又は改築を目的とする行為でその行為に係る土地の面積が一ヘクタールを超えるものにあつては道路(路肩部分及び屈曲部又は待避所として必要な拡幅部分を除く。)の幅員三メートルとし、その他の行為にあつては土地の面積一ヘクタールとする。
住民の生命や財産については一切顧慮することはないものの、みずからの当面の金銭上の利得の追求には熱心な「B社」の社長は、一体にすべき届出を誤って2つに分割したうえで、合計1ha 以下となる伐採面積「0.1359」と「0.5769」を記して提出したのです。足すと0.7128 ha です(全14ページの最初の「小規模林地開発概要書」には、合計 7129 ㎡ つまり0.7129 ha と誤記しています)。
常総市若宮戸の25.35k近辺で「地域森林計画」の対象となっていた森林(いわゆる「五条森林」)は次のとおりです。
「いばらきデジタルまっぷ」https://www2.wagmap.jp/ibaraki/Portal >「地域づくり」の一番下>「森林計画図(茨城県)」>「エリア選択」の「茨城県西地域」>地図中の常総市を選択し、市北部の旧石下町若宮戸へスクロールします。この薄青が五条森林です。ダイレクトには、https://www2.wagmap.jp/ibaraki/MAP?linkid=19832121-b303-4623-9c9a-5c5981784839&mid=87 です。なお、現在バグがあるようで、iOSとAndroid では表示できません。Windows, MacOSなどのパーソナルコンピュータで閲覧してください。
背景を「一般地図」「地形図」「航空写真」から選択できます。下の1枚目が「地形図」、2枚目が「航空写真」(衛星写真)です。なお、これが最大縮尺です。水色が「五条森林」です。
1枚目の「地形図」は、「A社」や「B社」による伐採・掘削前の時点のものです。
2枚目の「航空写真」は、水害後の堤防建造工事中です。「A社」は撤退しましたが、「B社」はパネル配置が少々変わっただけで、もとのとおりの再建工事が完了したところです。定期的な「五条森林」の見直しがまだおこなわれていないようで、背景画像ではもはや存在しない森林が、「五条森林」の水色でそのまま表示されています。
若宮戸における「B社」の行為について検討する上では、当時の状態がわからなければなりません。「いばらきデジタルまっぷ」は、いずれはさまざまの時期・態様の背景画像を選択できるようになるでしょうが、今ここでは自分でやってみるほかありません。例によって、GoogleEarthPro から借用した過去の画像を背景にして、そこに「五条森林」を重ねて表示してみます。衛星写真画像は、2015年2月2日撮影です。つまり、「A社」の発電所と「B社」の発電所がともに完成した段階です(あと7か月で大水害が起きることになります)。今までのように、河道が画面上になるように回転させたうえ、拡大して表示します。
「A社」「B社」の両発電所の完成後の Google 画像と重ね合わせることで、「品の字」土嚢の堤防もどきが表示されます。これは、わかりもしないど素人の住民がありもしない洪水の危険を言い立てるので、国土交通省下館河川事務所としては絶対大丈夫だと確信しているので実効は度外視のうえで紙の封印紙を貼るくらいの気持ちで、「B社」にお願いし「B社」の土地の外縁部に置かせていただいたものです。これによって「B社」の土地と「A社」の土地との境界線、「B社」の土地と左上にみえる「小林牧場」鶏舎の土地との境界線がだいたいわかります。(それ以外の北・東・南側の「B社」の土地の土地所有上の境界はわかりません。)
このとおり、土地所有上の境界と「五条森林」の境界は一致しません。微妙な食い違いがあるというのではなく、まったく別の線引きがされていて、何の対応関係もないのです。
法務省の公図・登記情報をもってきて重ね表示をすれば、土地所有関係についてはもうすこし精細に表示させることができます。しかし、肝心の「森林計画図(茨城県)」の方は、これが画面表示の最大限界です。もちろん正確で詳細な原図はあるに違いありませんが、それは見ることはできません。2019年7月現在でも、「五条森林」の管理を管轄する常総市役所農政課を含めて、参照しうるデータはこれで精一杯です。
しかも、「いばらきデジタルまっぷ」においてこの「森林計画図(茨城県)」データが公開されるようになったのは、2019年4月1日です。つい、最近です。5年前の2014(平成26)年4月2日、届出を受けた時点で、常総市役所はこの「いばらきデジタルまっぷ」すら見ることができませんでした。もちろんそれより精細で正確な図面もありませんでした。窓口の職員が何をみたのか、あるいは何も見なかったのかはいまのところはっきりしませんが(尋ねましたが回答はありません)、見たとすれば、次の茨城県庁の「5条森林図」という図面のようです。
茨城県のウェブサイト「5条森林図ダウンロード」(http://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/rinsei/shinrinzu/gojo.html)で、紙の印刷物をpdf ファイルにしたものを閲覧・ダウンロードできます。これもやはり、順にメニューをたどって地域を特定して行き、表示されるのは、次のものです(http://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/rinsei/shinrinzu/gojo_files/H28_5forest-08211_15-02.pdf )。
右上隅に描き加えた青四角がさきほど図示した範囲です。小さくて見づらい、などという次元ではありません。ほとんどわからない、と言ったほうがいいでしょう。
こうして、一挙に、問題点があきらかになります。常総市役所農政課振興係は、提出された「伐採及び伐採後の造林の届出書」の記載事項が真実のものであるかどうか、その場でただちに確認することはできない、ということです。つまり、確認できないのに即日受理するという大失態を演じたのです。届出に記載された「森林の所在場所」は、地番表示があるので、ゼンリンの住宅地図でも見ればだいたいはわかるでしょう。しかし各地番の区画・境界線と「五条森林」の区画・境界線がどのように対応しているのかを明示した図面は存在しないのです。届出者が図面を作成し提出してあればわかりますが、「B社」はそれを提出していません。8ページ目は、市北部の地図に小さく場所が記入してあるだけです(13ページ目も同じ)。つぎの9ページ目はタイトルの通り「境界標写真位置図」であるにすぎず、別の趣旨目的のための図面がほとんど意味もなく添付されているのであって、どこが伐採する森林であるのかはまったく示されていません(14ページ目も同じ)。森林の伐採届であるのに、その森林がまったく示されていないという、とんでもない文書なのです。ふつうの小学生でも夏休みの自由研究などでは、これよりきちんとした図を描けるでしょう。このような事務能力の者が会社を経営し、治水上の重大な結果を引き起こすことになる行為を働いたのです。道路交通法違反にたとえると、シートベルト不着用程度の軽微な違反などではなく、無免許・酒酔いで数十トンの重量のある大型自動車を運転し、信号無視して猛スピードで交差点につっこむようなものです。
伐採対象森林が図示されていないのですから、その面積は絶対にわかるはずがありません。届出書2通で合計0.7128 ha であるというのですが、その算定根拠は一切示されていないのです。合計1ha を超えれば知事の「許可」が必要となるということは、1ha を超える場合ではなく、1ha 未満である場合にこそ厳正な申告が求められるのです。この事例がまさにそれなのですが、数値の根拠がまったく提示されていないのです。根拠が示されていない以上は、その正否について判断することは不可能です。かりに判断するとしたら、他の点が全部デタラメであるのですから、この面積だけが真正であると信じることはできない、というほかないでしょう。
こんなデタラメな文書を提出すれば、本来なら受理されないわけで、そうなると伐採・掘削にとりかかることができず、パネル設置に遅れがでるわけですから、「B社」自身にとっても何のメリットもないのです。図面を作り、算定根拠を明示することはそれほど難しいことではありません。対象となる土地区画の図面に森林の外縁を結んだ多角形を記入して、それをいくつかの三角形に分割してそれぞれの底辺と高さを記入する、要するに土地登記の際のような図面を作成して添付すればよいのです。しかし、それをしなかったのには、それ相応の理由があったのです。伐採届の提出が必要であることを教えられた数日前の時点で、「B社」はその森林すべてを地盤の河畔砂丘もろとも完全に破壊し、東側の平坦地とまったくひとつながりにしてしまっていたのです。だから、どんなに伐採する森林を図示したい、その面積を算出したいと願ったとしても、なにせ現物がない、痕跡 trace すらないのですから、絶対に不可能なのです。
登記簿を含めて、伐採前の森林の状態を記録した文書は、どこにもありません。「いばらきデジタルまっぷ」への「五条森林」データ登載は5年先ですし、紙の「常総市 5条森林図 15-02」は、もちろん見ているはずもないのですが、万一見たとして、そこから対象森林を切り分けることはできません。結局のところ、どうやっても図面を作ることは不可能だったのです。たぶん、なんとなく図面を描いてみて、大雑把に面積の数値を記したのでしょう。まさかそんな図をつけると、実態と違うじゃないかと指摘されて藪蛇なので、この際記入欄に数値だけ書いただけで出してしまおう、といったところでしょう。そのときのメモ書きなどとっくの昔になくなっているでしょうから、今後これが問題になったとしても、自分で再現することもできないでしょう。
ついでに、住所・氏名についても瞥見しておきます。
中身以前の届出者の住所・氏名は大丈夫かというと、そうでもないのです。一般市民がさまざまの届出をする場合、「身分証明書」の提示を求められることがあります。その場合は、自動車運転免許証とか健康保険証などで用が足ります。ところがこの件の場合、会社として森林伐採をするのですから個人として届出をすることはありえません。法人の役員が届出者となります。その場合、運転免許証では用が足りません。実際、黒塗りの具合から見て、会社所在地(たとえ自宅住居を法人の所在地にしていたとしても)、役職名、氏名を記入し、大きさからみて会社印らしきものが押印してあるようです。となると、会社の登記簿謄本と印鑑証明書が添付されない限り、身分証明ができないことになります。この届出では、それらの証明書を添付するようにはなっていません。そこまでうるさいことをいうことない、などと暢気なことを言っている場合ではありません。銀行だって、たとえ自分名義の定期預金でも、通帳と印鑑だけでは絶対に払い戻してはくれず、身分証明書の提出を求められます。中古車の売買でも印鑑証明書は必須です。数千本の樹木を伐採しようというのに、中古車の売買より雑な取り扱いが許されるはずはありません。
この住所・氏名の件は、さらに重大な意味があるのです。常総市役所が「顛末書」で勘弁してしまったのは、無届伐採について刑事罰が定められているが、「初犯」の場合にはただちに告発するのではなく「顛末書」でよいとする林野庁の通達のいささか軽率な解釈によっているのです。しかし、「初犯」かどうか、いかにして知りうるというのでしょうか? 検察や警察は有罪判決を受けた者についての記録を保持しているわけですが、権限を持つ者がしかるべき手続きを経て閲覧しうるのであり、調べるのには少々手間がかかり、即座に知ることなど到底不可能です。この森林法の無届伐採で「顛末書」で済ますべきかどうかの判断のためだなどと言っても、検察・警察が照会に応じて即日回答するなどありえないでしょう(森林法違反により告発があった場合には、警察・検察自身がおこなう捜査の過程で調べるでしょうが)。市区町村役場には犯罪歴の文書があるようですが、用途は選挙権・被選挙権の欠格事由の判別等のためであり、農政課職員が業務上必要だといって閲覧できるようなものではありません。まして、各市町村のデータは、全国民を網羅するものではなく、当該市町村に本籍を置く者について一定期間保管するだけです。本籍も住民登録もない者について、常総市役所が犯罪歴を知ることは不可能です。さらに、前述のとおり、法人企業の役員として届け出た場合、個人としての住所は記載もされないわけですから、調べようもないのです。
「B社」の役員や、あるいは法人としての「B社」が「初犯」であるかどうかなどいかにしても知り得ないのですが、常総市役所は調べもしないで「初犯」に違いないと決めてかかり、重大事案であるにもかかわらず未成年者の軽微な悪行をたしなめるくらいのお気軽な「顛末書」で済ましてしまったのです。
さらに「顛末書」で済ました場合、それは犯罪歴には当然含まれないわけで、警察・検察であってもそんなことを記録することはありません。「顛末書」で済ませている限りは、何度同じ違法行為をはたらいたとしてもその都度それは「初犯」であり続けるわけで、告発されることは未来永劫ありえないのです。
形式的な外形的事実にすぎない住所氏名程度でこれほどの問題があるのです。
「B社」による森林伐採後の河畔砂丘の掘削 2014年4月21日 逆井正夫氏撮影
届出事項に戻ります。
「伐採樹種」が「くぬぎ」一種類だけ、「伐採齢」が一律「20年」というのも、おかしな話です。調査など一切しないでデタラメを記入したのです。これも、同じ事情によるものです。なにせ、現物がないのですから調べたくても調べられないのです。せめて、隣接森林をしらべて、それを書いてしまう程度の弥縫策もありうるのですが、「B社」はその程度のこともしなかったのです。それというのも、文書を出したほうがいいと言われて大慌てで書かなければならないのに、近くに住んでいるわけではないから、そう簡単に見に行くこともできないのでしょう。かりに見に行ったとして北側と南側の樹林はけっこう急峻で素人が入り込むのは困難です。単位面積当たりの本数を数えるのも容易ではないし、そもそも樹木の種類などまったく分からないのです。樹齢など想像もつかないに違いありません。昼間行ってもたいへんですが、明日までに文書を作成しようというので夜にでかけでもしたら、漆黒の闇で身動きもとれません。
事前に届け出る、ということの意味はこういうことなのです。事前届出を怠ると、届け出ること自体が不可能になるのです。現実を破壊してしまったあとで、その現実について必要事項を記入しようにも、後の祭りです。こうなると、嘘をでっちあげるしかないのですが、嘘をつくというのはなかなかに骨が折れることです。あとで、報道機関による取材への対応状況について見ることにしますが、この「B社」の社長さんは、嘘をつくのもあまりお上手ではないようで(それはそれでたいへん結構なことですが)、話をはぐらかし、もっともらしく聞こえる絵空事をペラペラ喋りまくって聴き手をうまく丸め込むプロの詐欺師の風情はなく、子供じみた嘘や見え透いた作り話で言い訳をするけれども、それがいちいち個別具体的な事実に対応していて、かえって隠そうとしている本当のことや、裏事情をしゃべってしまうのです。
「伐採の期間」には3月10日から4月30日とあります。実際には、グーグルの衛星写真によって、全世界的に公然周知の事実となっているように3月22日にはすでに伐採は完了し、砂丘自体もなかばまで掘削されていました。届出日の4月2日には掘削もあらかたおわっていたようですから、とんでもない虚偽を記入したのです。
かりに無届で伐採を始めてしまい、途中で届出が必要であることを知ったという言い訳が本当だとしても、こんな「伐採の期間」を届け出ることはありえないのです。伐採の届出は着手前90日以降、30日前までにしなければならないのです。届け出なければならないことを知ったのが数日前、かりに3月31日(月曜)だったとします。ただちに伐採作業を中止したうえで、中1日おいて4月2日(水曜)に届け出たとして、伐採を再開してよいのはどんなに早くても30日後の5月2日です。いくらなんでも、もう始めてしまったのだからといって、ズルズルと作業を続けることなどできるはずがありません。常総市役所としては、「自然更新」による「造林」の誤りを教えてやったのと同じように、伐採の期間は、たとえば「5月2日から○月○日」と訂正するよう教えてやるべきだったのです。この「期間」の錯誤は、現地調査というひと手間をかけたのちにやっと知りうるようなものでなく、一見して明らか、じつに単純な錯誤です。あまりにも単純な錯誤ですから、うっかり見逃したのではなく、わかったうえで敢えて容認したのでしょう。
話をもどすと、その現地調査もじつに簡単なことです。常総市役所から現地まで自動車で20分ほどですから、なんだったら本人といっしょに現地を見にいったとしても、1時間もかからずに確認できたはずです。どこを伐採したのか判別に少々手間取るなどということもありません。差し渡し200mにわたって根こそぎにしてしまって、もはや枝葉のひとつも残っていない、完璧な砂原になっているのです。もっとも枢要な部分でこんなとんでもない嘘を書くということは、通常ではとても考えられないことなのですが、あえてそうしたのは、半分は会社経営の能力力量の限界だったということでしょうが、のこりの半分は、それでも絶対大丈夫だと確信するそれ相応の理由があったということでしょう。
さきに見た通り、「B社」は、一体にすべき届出を誤って2つに分割したうえで、1178番地については「0.1359 ha 」と、1171−3番地については「0.5769」と記して提出したのです。足すと0.7128 ha であり、許可が必要な1ha 未満なので届出だけで済む、ということでした。しかし、これをそのまま信じてよいのか、よくよく考えなければなりません。他の点が全部デタラメであるのですから、この面積が真正であると信じることはできない、というのがふつうの判断でしょう。
先に見た「A社」の届出の場合も、かろうじて地番はわかりますが、「五条森林」の区画でいうとどこのどの部分に該当するのかはわかりません。しかし、当該地番の全域を伐採対象とするというのですから、登記情報から伐採面積は一応わかります。このように、一応わかるのは、当該地番の全域が伐採対象となるという、いわば偶然的事情によるのであって、申請方法そのものが妥当だったというわけではありません。それに、河川区域内の樹木を無断で伐採し、掘削するという、河川法上の違法行為を宣言しているのですから、穏やかではありませんが……。
届出を受けた常総市役所は公図ならびに詳細な森林計画図で届出内容を確認したうえで、詳細な現地調査をおこなうべきだったのです。ごく小規模だったり、あるいは間伐などの軽易な作業であり、とりわけ治山治水上の問題を生ずることがない箇所で、しかもすでに状況を熟知している森林であれば、いちいち現地確認するまでもないかも知れません。しかし、この件は、根拠も示さずそう言っているというだけですが一応1ha 未満とはいうものの、それでも1ha に近い面積について皆伐のうえ更新もおこなわず全部を裸地にしてしまう大規模開発であること、さらに大河川である鬼怒川の沿岸の、人工堤防のない区間の河畔砂丘上の森林なのですから、当然治水上の影響について判断する必要があったのです。端的には伐採によって氾濫の危険性が生じないかどうかを、判断しなければならなかったのです。
「B社」による河畔砂丘上の森林伐採は、河畔砂丘それ自体の掘削と不可分一体のものであり、一般的な環境保護という程度の発想で処理できるような問題ではなかったのです。
治水上の問題を度外視したとしても、「B社」の発電所は火災の危険性も高いのです。ソーラーパネルの下は砂地のままで、通例おこなわれる防草シートの敷設もしていないのです。雑草が繁茂しパネルに接触しあるいは絡みつき、さらにそれが枯れた場合、発火の可能性が高まります。2014年夏の完成から翌年の水害まで1年少々でしたし、水害後の再建からはまもないため、畑地の黒土などとくらべると比較的雑草の繁茂しにくい砂地であることもあって、まだ雑草が伸び放題にはなっていません。しかし、「ムツウロコ堤防」の基壇だったところなど、砂ではなく水害後に客土された土壌がある部分などでは、すでに雑草が伸び始まっています。売電価格はどんどん低下し今後あまり儲からない施設となっていくなかで、管理や最終的な撤去がきちんとおこなわれる保証はありません。発電パネルの耐久限界もあり、老朽化して放置されることがないとは言い切れません。河畔砂丘を平然と掘削した実績があるわけで、災害防止についてまったく無神経である会社(=経営者)の体質を思うと、不安は払拭できません。
常総市役所は、1ha 未満の「五条森林」伐採は許可制ではなく届出が義務付けられているだけであり、所有者から提出された伐採届は、だまって受理するしかないと思い込んでいるようなのです。ふつう届出は、書式が整い要件を具備し届出事項を証明する根拠が揃っていて、初めて受理されるのです。書式は間違っている、要件を具備しているとは言えない、届出事項を証明する根拠が示されない場合には、そんな届出は絶対に受理してもらえません。常総市役所はまったくのデタラメを許してしまったのです。
もちろん、「B社」による河畔砂丘掘削は事前に、もっと早い時機に、抑止できたのであって、それをなすべきだったのは第一に国土交通省であったことは、言うまでもありません。国土交通省は、このあとのページで明らかにするとおり、1965(昭和40)年の新河川法に基づく直轄管理開始にあたって、左岸24.63kから26kまでの若宮戸河畔砂丘についてはその東側縁までを河川区域に指定すべきであったのです。それを正当な理由なく回避し、若宮戸河畔砂丘全域の掘削を容認したことが本件水害の原因となったのです。
そのうえで、あえて「B社」による河畔砂丘のうち東から二番目の砂丘の掘削を抑止することができた機会がなかったか、あったとすればその主体となりえた機関はなかったかを問うているのです。それこそ、まさに今見ているこの瞬間でした。常総市役所が適正な対処をしていれば、「B社」は森林の伐採をすることができず、したがって河畔砂丘を掘削することも不可能だったのです。
「B社」はすでに伐採と掘削をほとんど完了してから届出に及んでいるのですから、もはや手遅れだったとも言えます。しかし、そうでもありません。違法な伐採をおこなったのですから、当然、常総市役所は、現状復帰を命令すべきだったのです。伐採だけであれば植林を、掘削までしたのであれば土盛りのうえで植林をさせるべきだったのです。
森林伐採のうえ河畔砂丘を掘削して設置された「B社」の太陽光発電所 2019年5月
水害後に作られた堤防(右)は、ここを大きく迂回して河道ギリギリのところに築造された。
河道に近すぎる堤防は浸透により脆弱化しやすく、増水時には洗掘される危険性も高い。
最後に、先にみた問(あ)について考えることにします。「伐採に届が必要の事をしらなかった」人が、なにゆえ、突然、届出をすることにしたのでしょうか? 届出の必要性を教唆したのは誰でしょうか?
2014年3月28日に、「B社」による砂丘の掘削がはじまってまもなく氾濫の危険性を察知した住民が、下館河川事務所鎌庭(かまにわ)出張所(常総市新石下)を訪問し、即座の対応を要請しています。これには常総市役所の道路課長も同席しています(http://kinugawa-suigai.up.seesaa.net/pdf/09-03-wakamiyado-kyogi.pdf)。これに対して鎌庭出張所長はつぎのように言ったのです。
河川区域がどういうふうに決められているかというと、ハイウォーターいわゆる水が上がった時、これはいまこの線は洪水で1秒間に4千㌧水が流れるというときに、どういう水位になるかというのを計算して、それをこうやって結んでいったものなんですよ。つまりハイウォーターになってもここまでしか水がきませんと。
「ハイウォーター」とは、「計画高水位」のことです。所長は若宮戸河畔砂丘の河川区域境界線が「計画高水位」にあわせて設定されたと、あきらかな虚偽の説明をしたのです。これについては、別ページ(若宮戸の河畔砂丘 13)で具体的かつ詳細に検討しますが、いまここでは、住民による国土交通省への請願にさきだち、住民が常総市役所への請願をおこなっていたこと、そしてこの2014年3月28日の鎌庭出張所への請願に常総市役所の職員が同席していたことを確認しておくだけにします。
さて、若宮戸での溢水についてははやくも水害当日のうちに、太陽光発電所建設のために砂丘が掘削されたことが大規模な氾濫の原因だと指摘されています。これについて、9月15日に「日刊スポーツ」が次のとおり報道しています。ただし、ウェブサイト上の記事はすでに削除されていて現在は見ることはできません。あちこちで引用されたものがあるので、それをここに引用します。
常総ソーラー業者正式手続き主張 市の対応に訴訟も
日刊スポーツ 2015年9月15日2時16分
http://www.nikkansports.com/general/news/1538297.html
茨城県常総市を流れる鬼怒川の大規模水害で、 川岸に大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建設した民間業者が 砂丘を掘削したことが氾濫に与えた影響が取りざたされてる問題を受け、 建設業者が14日、日刊スポーツの取材に応じた。
建設業者社長(45)は、掘削した砂丘が「自然堤防」という認識がなく、 同市側に対し、正式な手続きを踏んでいることを主張した。
鬼怒川の氾濫により大きな被害を受けている常総市若宮戸地区の住民が、 「自然堤防の掘削が原因」と主張している。 掘削工事が始まった昨年3月から一貫して反対してきた住民は被災後、 涙ながらに訴えていた。
この問題を受け、メガソーラーを設置した建設業者の社長が取材に応じ、 高さ2メートル、長さ150メートルあったとされる砂丘に対して 「自然堤防だという認識すらなかった」と話した。 社長によると、13年末に土地を購入した際の重要事項説明書にも 「自然堤防」という記載はなく、「見た目でもいわゆる砂の丘で、 川の氾濫を食い止められる堤防には見えなかった」と振り返った。 高さについても当初から「中央部分は2メートルもなかった」と話した。
社長や地元住民によると、「自然堤防」一体〔一帯〕には 1964年(昭39)の東京五輪前、もう少し高い丘だったという。 社長は「東京五輪の(環境整備の)ために、その砂を売ったと聞いた。 その後たまたま残ったのが、あの部分に残ったみたいです」と話した。 メガソーラー設置のため、14年1月から工事を開始。 同年3月ごろに地域住民から砂丘掘削工事に対する反対の声が上がり、 同市と国交省下館河川事務所の担当者と協議した。 河川事務所側からは、住民の不安を払拭(ふっしょく)するために 土のうを積ませてほしいと頼まれ「快く許諾した」という。 その際、河川事務所からは「土のうを積まなくても、 こちら側からは河川の水は来ないだろう」と言われ、 さらに担当者から「自然堤防」という単語は出てこなかったという。
同じ時、同市職員から事業に関する届け出を求められ、 社長はそれに応じ、正式な手続きを踏んだという。 同市役所の都市整備課によると、1万平方メートル以上の 土地の切り崩しを伴う場合は市の「開発許可」が必要。 社長によると今回掘削した砂丘は7000平方メートルで 申請の必要はなかったため、事前の届け出はしていなかった。 掘削はしなかったメガソーラー設置面積を含めると 約3万平方メートルだという。
社長は「近隣住民の不安も分かるので、 土のうは4メートルでも5メートルでも積んでもらっても良かった」と振り返る。 ただ、同市の対応には納得がいかない。 「打ち合わせもして、正式な手続きを踏んだ。 それなのに市の人間がテレビで、砂丘の掘削が越水の原因だと言っていた。 このままでは訴訟も辞さない」と話した。
じつに興味深い記事です。
アンダーラインを付した部分は、「自然堤防」をめぐるなんともチグハグなやりとりです。「B社」社長が掘削したのは河畔砂丘 river bank dune の〝畝〟ridge であって、「自然堤防 natural levee 」ではありません。「自然堤防」だと誤認している記者の追及はまるでトンチンカンです。「重要事項説明書」にそんなことは書いてあるはずはないし、社長にそんな「認識すらなかった」のは当然です。社長は別にすっとぼけているわけではありません。「自然堤防」を掘削したのが氾濫の原因だと判断していきりたつ記者と、「堤防」でないものを掘削して何が悪いと開き直る「B社」社長とのやりとりは、まったく噛み合っていないのです。噛み合っていないのに、勘違いのもとでやりとりが続くのですから、まさに落語の「蒟蒻(こんにゃく)問答」です。
「蒟蒻問答」はいまだに続いているのですから手がつけられません。水害後に現地を見物しに来た国策派の治水利水学者の多くが「自然堤防」だと言い続けただけでなく、国土交通省関東地方整備局の広報が「いわゆる自然堤防」と混ぜ返したのに反国策派のナイーブな「専門家」や法曹が軽率に乗せられ続け、「河畔砂丘」という正しい用語を使うのをいまも躊躇っているのです。
それはともかく、ボールド体にした部分がいま検討している件です。「B社」の社長の言う「正式な手続き」とは、まさに2014年4月2日の森林法に基づく伐採の「届出」のことに違いありません。
「 同市と国交省下館河川事務所の担当者と協議した」というのがいつのことで、何についてのものかはっきりしませんが、前後の記述からすると、すこしあとの4月10日に、常総市役所職員も同席のもとで下館河川事務所の副所長から「品の字」土嚢積みをお願いされて、太っ腹にも承諾した時のことを言っているようです(http://kinugawa-suigai.up.seesaa.net/pdf/09-03-wakamiyado-kyogi.pdf)。農政課に森林伐採の「届出」に行ったのは4月2日ですから、「同じ時」ではありません。
「同じ時」ではありませんが、「同市職員から事業に関する届け出を求められ、 社長はそれに応じ、正式な手続きを踏んだ」とあります。「B社」社長は、「事業に関する届け出を求め」たのは常総市職員であると明言したのです。誤解の余地はありません。いつのことかというと、おそらく3月28日以降、そしてあきらかに4月2日以前です。「B社」の社長はもちろん鎌庭出張所での住民による要請には同席していませんが、その直後、つまり3月28日(金曜日)当日あるいは、土曜日と日曜日を挟んだ、3月31日(月曜日)、4月1日(火曜日)、4月2日(水曜日)のどこかで、常総市役所職員が「B社」社長に諸届出をおこなうよう教唆したのでしょう。
教唆された「B社」社長は、とりあえず太陽光発電所に関する図面などを何枚か持った上で、4月2日に常総市役所に行き、農政課で「顛末書」と「伐採及び伐採後の造林の届出書」を提出し、教えられた訂正を施したのでしょう。
記事ではそのあとに、「同市役所の都市整備課によると、1万平方メートル以上の 土地の切り崩しを伴う場合は市の「開発許可」が必要」とあります。これは農政課への森林伐採の届出のことではなく、都市整備課(2017〔平成29〕年4月に都市計画課と改称)に対する、土の採取の届出のことです。これも同じ4月2日のようです。窓口に来た社長に対し、都市整備課は、「常総市土地開発事業の適正化に関する指導要綱」(https://www1.g-reiki.net/joso/reiki_honbun/r251RG00000916.html#e000000048)によれば「開発区域の面積が1ヘクタール」以下であるので届出は不要だと返答したということです。「社長によると今回掘削した砂丘は7000平方メートルで 申請の必要はなかったため、事前の届け出はしていなかった」というのは、このことです。ここでも、面積については、社長がそう言ったというだけで、図面等の根拠が示されたのでもなく、もちろん現地調査もしていないわけです。農政課の場合であれば、1ヘクタール以下なので許可のいらない「届出」があったことにしてくれたのですが、都市整備課はおなじく1ヘクタール以下なので、「届出」も一切不要としてくれたのです。(このような都市整備課の対応が妥当であったか否かについては、別に検討する必要があります。)
農政課の件と都市整備課の件がごちゃごちゃになっているのですが、蒟蒻問答なりに、事実関係に全部符合します。
核心的事実は明らかです。「B社」の社長は、農政課と都市整備課に届け出るよう、常総市役所職員から教えられたのです。その際、常総市役所職員は、「B社」社長が、無届で森林を伐採してしまっていたうえ、掘削もだいぶ進行していたことを知っていたのです。この核心的事実には疑いの余地はありません。だからこそ、社長はこう言うのです。
ただ、同市の対応には納得がいかない。 「打ち合わせもして、正式な手続きを踏んだ。 それなのに市の人間がテレビで、砂丘の掘削が越水の原因だと言っていた。 このままでは訴訟も辞さない」と話した。
「打ち合わせもして、正式な手続きを踏んだ」! あんな間違いだらけの書類で、しかも伐採どころか掘削までほとんど終わったあとになって虚偽の届出をしておいて、どの口がそんなことを言うのかと呆れはするものの、たしかに「打ち合わせ」のようなこともしているし、「正式な手続きを踏んだ」ことにしてもらったことは紛れもない事実です。お怒りは、まったくもってごもっとも。そうであれば、ぜひとも、「訴訟」を提起していただきたいところです。
そしてまた、常総市役所としては、違法行為をした企業経営者が、なんの反省もなしに「訴訟」などと虚仮威しに出ていることに屈することなく、虚偽の届出をした「B社」と「B社」社長に対しては、違法に伐採した森林と、もちろんそれが生えていた河畔砂丘について、原状回復を命令すべきでしょう。