5 転職斡旋業者が関与する「民間人校長」選考

 

 

 

 転職斡旋業者「エン」による募集

 茨城県教育庁は、2020(令和2)年に水戸一高・土浦一高・勝田中等学校に配属する予定で3人募集した。前年に続く2回目の募集である。ところが応募者は33人あったにもかかわらず、合格ゼロであった。11倍も集まれば十分とは思うが、よほど気に入らなかったのだろう。

 ふつうなら取りやめとするところだが、茨城県教育庁は、次の2021(令和3)年度募集から、転職斡旋業者の「エン・ジャパン」に募集業務を委託することにした。「エン」のウェブサイトの管理は杜撰で階層構造も支離滅裂で、なぜか2021年当時の募集ページが今も公開されている。103 文章の主語は茨城県教育委員会ではなく、求人斡旋業者「エン」である。

 

日本の教育は150年前のまま――学校にメスを入れた、茨城県。

日本の学校で見る「教師が生徒へ講義形式で教える授業」は、明治時代に導入されたと言われています。DXや新たな生活様式など社会が急速に変化する中で、学校教育は150年以上も前から大きく変わりません

この状況を変えたいと、茨城県教育委員会では2019年より学校教育の変革に乗り出しました。他県に先駆け公立校の中高一貫校化を推進し、“成長が最も大きい6年間”の環境整備に力を入れています。〔略〕

5つの中高一貫校を新たに設立。学校の未来を託す校長を募集。

〔略〕現場責任者である校長は、学校方針やカリキュラムの策定、教師や子どもたちの意識改革などを担う存在新しい風を教育現場に吹き込むため、今回の公募では、民間出身者を含め幅広い方からの応募を募ります。教育委員会や教職員の方、生徒たちと連携を取りながら、全国のロールモデルとなるような“より良い学校教育”を形にしてほしいと期待されています。

教員免許も業界経験も不問。前例のない発想が、教育を変える。

実は、茨城県教育委員会での校長職公募は今回が3期目です。1期目の公募では民間より2名の採用に成功。しかし、翌年2期目の公募では採用に至りませんでした。そこで今回、エン・ジャパン支援のもと、「日本の学校教育を変えたい」という情熱をお持ちの方を、広く公募することになりました。「エン転職」「ミドルの転職」を通じて応募を受け付け、入職後の定着・活躍までエン・ジャパンが一貫して支援します

着任される方には、これまでの慣例を踏襲するのではなく、たとえば民間企業培ってきた人材マネジメント力、業績指標の考え方など、他の分野で得た知見やノウハウ、経験を活かし、新しい発想で学校運営にあたってほしい考えです。そのため、今回の募集では教員免許の有無や教育業界の経験・知見は問わず、多様な人材を歓迎しています。「学校教育の改革」という貴重な経験と他にはない手ごたえを、ぜひ手に入れてください

 

 「エン」の社員か委託されたライターが書いたのだろう。ほとんどの人は、園児・児童・生徒・学生として「学校」にいたことがあるのだから、誰であれ、学校のことをまったく知らないわけではない。しかし、それはそこで働く者にとっての学校の実情がわかるということとは全く異なる。「エン」は、斡旋先の学校の実情について何もわからない者に、この文章を書かせた。

 

 教育業界の「知見は問わず」として違法行為誘発

 末尾に「教育業界の経験・知見は問わず」とある。そもそも「教育業界」という語は、公立私立を問わず、学校関係者であれば絶対に使わないだろう。そのうえで、「経験」はともかく、「知見」が不問とはどういうことだろう。これでは、「日本の学校」の制度と実態について何もわからないまま校長として赴任させることになる。新たに「教諭」になる場合とくらべてみる。新卒の教諭であっても、教育基本法、学校教育法などの教育法(法規)や「学習指導要領」などについては概略を学んでいるし、各教科の教育法(方法)を学んだうえで、2週間の「教育実習」も経験している(これが教員免許状を保有するということである)。教職経験のない教員であっても、「エン」のいう「現場責任者である校長は、学校方針やカリキュラムの策定、教師や子どもたちの意識改革などを担う存在」という命題が誤りであることはすぐわかる。たとえば、「カリキュラム」とは、「教育課程」のことだが、校長が「策定」するものではない。

 

各学校においては教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い,生徒の人間として調和のとれた育成を目指し,生徒の心身の発達の段階や特性等,課程や学科の特色及び学校や地域の実態を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。

(2018年版高等学校学習指導要領、第1章、第1款)104

 

 「各学校においては……適切な教育課程を編成する」とある。学校イコール校長ではない。学校という組織が内部で検討のうえ「教育課程」(カリキュラム)を策定したうえで、日々「これらに掲げる目標を達成するよう教育を行う」のである。「教育」は「教諭」の職務である(学校教育法〔昭和22年法律第26号〕第37条「教諭は、児童の教育をつかさどる。」、第62条により高校について準用)。校長の職務については、学校教育法第37条、第62条が「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」と規定しているのであるが、そこでいう「校務」は学校の業務の一部を指すのであり、決してそのすべてではない(校長が学校の業務を全部遂行する権限がある、と解釈すると、部分が全体を含むという端的な背理である)。校長は、授業を担当することはできない。たとえ教員免許状を持っていたとしても違法行為となる。105

 校長が「意識改革」をはかるとはどういうことだろうか。カルトの教祖か、ジャコバン派にでもなったつもりで、教職員・生徒・保護者の意識を改良変革しろといっているかのごとくであるが、子供じみた妄想である。大井川も県教育庁も、いろいろ言うが、具体的な中身がない。具体的に言ったものというと、「医学コース」とか農業高校での生産物販売禁止(批判されて撤回)とかだろうが、そもそも中身に問題があるし、「意識改革」ではないだろう。あるいは太田垣がやったような、お知らせモニター設置(他校の模倣)とか、教職員へのタブレット配布(無関係)だろうか。インド風発音英語での会話を無理強いするとかか。いずれにせよ、意識を改革するというのは、教員や生徒の内面に踏み込んでそれを改変しようとすることにほかならない。オーウェルやカフカの描く社会、ファシズム国家体制の部分的実現であり、当然日本国憲法違反である。

 校長は、「現場責任者」であると言う。「現場責任者」とは学校教育法上の根拠もないし、そもそも「現場」とか「責任」について、間違ったイメージをいだいている。たとえば建築現場の「現場責任者」(呼称は様々だが、いわゆる現場監督)について考えてみよう。建築現場の「現場責任者」は、「建築方針や建物の構造や建築計画の策定、職人や発注者である施主の意識改革などを担う存在」として行動することはないし、ましてや「新しい風を建築現場に吹き込む」ようなことはしない。それぞれの仕事は、建築士・設計者、整地掘削業者、測量業者、基礎職人、足場職人、搬入業者、建て方職人、クレーン操縦者、屋根職人、水道設備職人、大工職人、建具職人、内装職人、電気工事士、電気器具の取付業者、清掃業者、そのほかにも大勢の業者職人がするのであり、「現場責任者」は、全体の進行具合を確認し、とりわけ異なった工事や職人の相互関係(「取り合い」)を調整するのが仕事である。

 「建築現場は150年以上も前から大きく変わりません」などど言って、その「現場」に外資系のIT企業だとか、広告業者の社員を連れて来て、突然「現場責任者」にしたとして、工事の進行を確認し、業者同士の調整をはかったりすることなど、なにひとつできはしない。それどころか、職人を甘くみて「ばっさり」やったところで自分では釘一本打てない。無理してやれば電動釘打ち機で自分の指を釘付けしかねない。そんなところで「意識改革」と称してトンチンカンなことを言ったり、「新しい風」などを吹かしたりしたら、工事は停滞し、段取り不足から、異業種の職人が鉢あわせしたり、誰も来なくて工事が止まるなどし、さらには転落事故(交通事故とならんで労働災害中最多の事故)や下敷き事故などの労働災害が多発することになる。現場責任者とその所属企業は、労働安全衛生法違反の容疑で労働基準監督官による捜査対象となり、刑事訴追のうえ刑事罰(罰金・懲役)を受けるだけでなく、莫大な民事上の損害賠償責任を負うことになる。

 そんなところに「入職後の定着・活躍までエン・ジャパンが一貫して支援」すると称して、「エン」の社員が出て来たとして、何もできることはない。せいぜい、畑違いの外資やIT企業社員を「現場責任者」として送り込むことの、違法不当性、反社会性に気づいて、自分たちがいかに罪深いことをしているかを悟ることになることくらいだろう。

 そして、「プレイングマネージャーとして活躍してほしい」106などと意味不明の指示を出して放置した県教育庁の担当部局は、次年度の「「民間人校長」採用の事務処理に忙殺されて、「現場」の様子を見に行くこともできない。

 

 転職斡旋業者が選考過程に介在する

 本来は依頼者として高校教育課の管理主事が起案すべきところ、全部「エン」に丸投げし、できあがりを点検して可否を判断することもしていないようだ。脱字(最後の段落の「民間企業培ってきた」)もあるし、次のページ107では教育長の小泉元伸が「教育委員長」になっている。募集業務を委託した県教育庁は、「エン・ジャパン」が作成したこの文面のチェックすらしていないのである。とはいえ、教育庁は、文章化は丸投げしたとしても、内容上のポイントはすべて書いて渡すか言い渡してあるはずである。いくらなんでも「エン」の社員ないし下請けライターが一から考え出したはずがない。当然、責任は県教育庁にある。とはいえ、内容は具体的な点まで、すべて大井川が指示していることは明らかである。

 この公募は、「エン・ジャパン支援のもと」実施するのだという。これだけでは曖昧だが、応募の受付だけするのではなく、どうやら1次審査(簡単な経歴等のチェック)は、ディスプレイに写したデータを「エン」の担当者と高校教育課の担当者が、仲良く覗き込んでにやっている疑いが濃厚である。というのも、まさか全応募者のデータの入った「エン」のデータベースを、「エン」の社員を排除して県教育庁高校教育課が単独で操作するはずはない。「エン」の社員が、エクセルの1ファイルに取り込んだうえで、あれこれの条件で選択をかけて見せるのを、脇で一緒に眺めているということだろう。この1次審査でフルイにかけた者だけに初めて詳細な自己申告書を作成送信させる。これも業者と一緒に取捨選択し、Zoom ズーム(パソコン上での画像音声双方向同時通信。1対1から、多人数の同時通信とその視聴ができる)による3次審査に回すのだろう。(一連の手続きについて説明を求めたところ、「エン」への委託内容の確認などに2か月かかるし、どこまで内容を説明できるかはそのあと判断するとのことなので、やむをえず以上のとおり推測する。)

 「エン」に委託した結果、2021(令和3)年の応募者数はじつに1673人ということである。前年の33人から突然の50倍化である。そこから選ばれた4人(ただし1人辞退)となれば、資質能力経歴を兼備し、相当の覚悟のあるすばらしい人物だと誰しも思うだろう。しかし、「エン」での応募たるや、ネット上で「ポチッ」とやるだけのものだから、冷やかしか、とりあえず応募しておこうという程度で十分なのである。どんな高倍率の試験でも、実質的な競争倍率はせいぜい数倍で、そのほかは募集側から見れば問題外であり、応募側からすればとりあえず応募してみるという程度である。2019年の63人、翌年の33人は、本気で探した者だろう。それが突然1673人になったということは、本気で探したわけでもなく、ほんのついでで応募した者が大部分だということだ。応募要項など書類を取りよせて一連の文書を作成したうえで県教委の担当者に郵送する程度の手間すらかからず、ほかのお役所や団体・企業の求人といっしょに「ポチッ」とやっただけなのである。

 さらに気になるのは、「入職後の定着・活躍までエン・ジャパンが一貫して支援します」という文言である。斡旋して就職から3か月くらい経って、定着状況を問いあわせるくらいだったらありうるかもしれないが、「一貫して支援」とは穏やかではない。これでは、公立学校職員の職務遂行に対する不当介入、つまり公立学校の教育活動に対する干渉の宣言である。もちろん私立学校でも許されないだろう。

 

 転職斡旋業者が防衛省職員の個人情報を掌握する

 「エン」で募集をかけるというのは、大井川の指示で動く茨城県教育庁の独自の発想ではない。いまや中央省庁や一部の地方自治体でも流行していて、驚くべきことに防衛省も求人に利用している108。一般自衛官や上級幹部ではなく一般行政職であるが、その募集をおこなったところ応募者は1万5385人に及んだという。茨城の「民間人校長」の1673人とは一桁ちがう。テレビCMでは、日雇労務から「ヘッドハンティング」?までの各種転職斡旋業者のCMが花盛りだし、とうとう転職斡旋業者の社員を主人公とするテレビドラマまで放映されるご時世である(「転職の魔王様」2023年、主演:小芝風花・成田凌)。雇用の不安定化=国民全体の貧困化の時代趨勢はここまで来ているのだ。次は、「エン」のプレスリリース(報道機関向け宣伝文書)中の記述である。

 

本プロジェクトにおける当社支援サービス

 プレスリリースや特設ページ、採用HPの作成、Web広告での告知に加え、各求人サイトでの集客支援を実施。『エン転職』『AMBI』『ミドルの転職』とターゲットの異なる3つの求人サイトを活用することで、ターゲットへ網羅的に求人を届けました。オンライン適性テスト『Talent Analytics(タレントアナリティクス)』も提供。選考フローの支援を通じて、求職者と同社の適切なマッチングを実施しています109

 

 はっきりと「選考フローの支援」をしていると言っている。さきほど、「エン」は「民間人校長」の選考過程にタッチしていると推測した。1673人のデータを1、2週間で、高校教育課の職員2人で処理できるはずもないだろうということで、そうかも知れないと考えたにすぎないのだが、「エン」本人が言っているのだから、誤謬推理ではない。何十何百の求人が並ぶ転職サイトに参加すれば、通販サイトで表示される「おすすめ」をついクリックしてしまうように、茨城の「民間人校長」に応募する者が前年比50倍の千人以上も集まるだけでなく、そのデータはすでにエクセルに一覧表示されているだけでなく、「エン」が選択条件をいろいろ変えて試行し、二次検査(経歴などの売り込み文書の提出)に回す100人程度のリストを作成するのを、脇で見ていればいい。こうして簡単に一次選考を完了できるのだ。

 「エン」との委託契約料金は、71,5000円である。11月末まで、すなわち4次の最終選考までの料金で、期末手当を含めた年収の12分の1である。ここ3年間、募集人数にかかわらず同額である。多額の手数料が国や県の予算から、つまりは国民・県民が負担した租税から支払われるのである。

 おカネの問題もさることながら、営利目的の法人である一民間企業が、公務員の応募データ、とりわけ防衛省職員についてまで、その一部とはいえ応募データを全部掌握するとあっては、見逃すわけにはいかない。当然ながら合格して防衛省職員となる者の詳細な個人情報も掌握することになる。「エン」は外資系ではないようだし、当然「守秘義務」を課せられているのだろうが、デジタルデータはインターネットから切り離されているわけではない。『エン転職』『AMBI』『ミドルの転職』などインターネット上のウェブサイトからだけ応募を受け付けているのであり、そのあとの「選考フロー」も当然、全部が常時インターネットに接続されたコンピュータ上で保存・演算処理され、それらが「エン」・省庁・応募者間で頻繁にやりとりされるのである。

 経歴調査として当然 Google検索をするだろうし、Facebook、X(以前の twitterツイッター )から個人データを購入しての身許調査などもできないことではない110。マイクロソフトはChatGPTチャットジーピーティーの開発企業OpenAIオープンエイアイに出資していて、自社検索エンジンの Bing ビングに組み込む予定であるし、AmazonもAI開発に社運を賭けている。いずれGoogleなどの検索エンジンと生成AIは一体化する。そうなるとユーザーのデータは過去ものまで、あらいざらい生成AIに取り込まれることになる。たとえば、誰が、いつ、何を検索し、どのデータを何秒見たかだとか、メール本文の全部111もそこに含まれる。余計なお世話ではあるが、国を守るはずの防衛省・自衛隊が、こんなことで国どころかみずからの組織と人員を守れるのか、いささか心配になる。

 募集方法の問題点についてはこのくらいにして、個々の「民間人校長」についての検討にもどる。

 

 経歴も私生活も問題をかかえるつくばサイエンス校長

 つくばサイエンス高校(つくば市谷田部やたべ。以前の谷田部高校)校長の遊佐ゆさ精一については、重大な問題がふたつある。採用の際の経歴の評価の問題と、私生活上の信用失墜行為である。

 遊佐精一の経歴は一見するとまさに目を見張らせるものである。112

 

1999年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科博士(農学)
1999年4月 米国フォックスチェイス癌研究所研究員
2003年7月 スイスチューリッヒ大学医学部附属病院脳神経病理部上級研究員

2008年2月 東京大学疾患生命工学センター特任講師
2008年12月 テラ株式会社入社、研究開発部部長
2013年7月 テラ株式会社執行役員
2017年3月 テラ株式会社代表取締役副社長COO
2018年9月 テラ株式会社代表取締役社長
2019年3月 テラ株式会社取締役(現任) 

 

 農学博士としての外国の研究機関での経歴も華々しいが、福田や生井が「部長」どまりだったのに対して(ヨゲンドラはわずか2か月)、遊佐は「代表取締役社長」である。

 このテラ株式会社は創業者の取締役社長矢崎雄一郎のもとで、2009年にジャスダック113に上場、2012年ころまでは順調だったが、2014年以降は業績が悪化して8期連続で赤字となり、2018年に医療法人医創会との不適切取引など数々の法令違反があり、9月に取締役会が矢崎を解任しかわって遊佐が取締役社長に就任した。しかし、翌年にかけて売り上げが低下し、遊佐は2019年3月にヒラの取締役となる。2020年には出資者がインサイダー取引で東京地検特捜部により起訴される騒ぎとなり、2021年12月に東京証券取引所により「監理銘柄」114に指定され、2022年8月5日に東京地裁により破産手続きが開始された(負債総額1億8765万円)。115

 この2022年夏というのは、「エン」による公募に遊佐が応募し、選考がおこなわれていた時期である。11月に採用決定した後、遊佐は「エン」のウェブサイトに書いている。あと3日で赴任するという「2023年3月29日」の日付のあるウェブサイトの記載である。116

 

会社の経営は教科書通りにはいかず、決して平穏ではありませんでしたが、教育現場においても、予期しない様々な問題が起こることでしょう。それら問題は経営におけるものと同じとは言えないものの、私のアカデミックなバックグラウンドが学生の研究の手助けに、またマネジメントのそれが学校経営の手助けになればと考えています。

 

 1次選考の9月下旬から最終選考の11月上旬の各段階で、遊佐がどのように説明したのかはわからない。問題は、面接した大井川らがテラ株式会社の極度の業績悪化や累積する違法行為と不法行為、とりわけ8月5日のテラ株式会社の破産手続き開始を知っていたかどうかである。

 民間企業等での管理職経験を必須のものとしているといっても、まさか破産した企業の取締役であり、一時は代表取締役社長もしていたということで良いはずがない。そのような経歴の者が高待遇で雇用され、「学校経営の手助けになれば」などとうそぶくのを許す県民はいない。大井川だと「失敗をおそれず」という能天気なスローガンを持ち出し、どんな人でも失敗することはあるのだから、再チャレンジのチャンスを与えるのはいいことだ、くらいのことを言いそうである。しかし、そういう言い訳は通用しない。テラの事情を知らなかったとしたら杜撰な選考だといわざるをえないし、知っていて採用したとなると責任は極めて重大である。

 さらに遊佐精一については、週刊文春117が、2022年1月7日に妻の欄に自分で署名した離婚届(自分の分は知人が署名)を区役所に提出したために、妻が東京家庭裁判所に離婚無効を申し立てた件を報道した。これについて、遊佐は週刊文春に対して次のとおり述べたという。

 

記事が出ることは一見最悪なことかもしれません。しかし、その結果、生徒の中から正義感の強いジャーナリストを目指す子が現れたら、これは素晴らしい出来事になります。私の経験全てが、高校生の役に立ったら良いと願っているので、それはそれで本望です

 

 さきほどの「エン」に載せた文章以上の、開き直った言辞である。この件での、定例記者会見での大井川の説明は次のとおりである。

 

知事:教育委員会のほうで本人から状況をお聞きして、記事に書かれているような内容が本当に合っているのかどうか。それは事実の把握というのは、相手方から話も聞けないということもあって困難であるというふうに認識しております。

  いずれにしても、非常にプライベートな話ですので、これ以上我々として対応する、あるいはコメントする立場にないのかなというふうに思っています。〔……〕

読売:一応確認ですが、いわゆる採用において適切な選考であったと、そういう認識は変わらないということですか。

知事:適切に選考したつもりです。118

 

 教育委員会が十分に「事実の把握」の努力を払ったとはいえない。それをいいことに、大井川は「プライベートな話」だとして言い逃れようとしたのである。一般の校長や教員であれば、職務に関すること以外の個人的な事柄であっても「信用失墜行為」として、懲戒処分に処せられる。しかも、県教育庁は、募集要項で「教育公務員としての高い倫理観に根ざした、教育的情熱にあふれる方の応募をお待ちしています。」119としていたのだ。土浦一高のプラニク・ヨゲンドラについてもそうであったように、「民間人校長」についてだけ「プライベートな話」だとして不問に付すことはできない。

 しかも、これらの「民間人校長」は、大井川が直接面接して採用したのである。経歴として申し立てたテラ取締役の件は、職務に不適合と判断すべき事例だったのに見逃してしまったうえに、有印私文書偽造罪(刑法第159条)の疑いもあるとあっては、「適切に選考した」と強弁するのはいくらなんでも無理だろう。こういうことがあるから、あらゆる組織において、最高責任者たる者はいちいち具体的なことに直接手をくだすのをなるべく避けるのである。それはただの保身術であるともいえるが、その則を超えた大井川は自己の保身に失敗したのである。

 

 文科省からの天下り「民間人校長」

 のこる2名、水戸一高の御厩祐司と勝田中等教育学校の下山田芳子は、「エン」に挨拶程度を載せただけで、他の6人のようにあちこちから取材を受けたり、県教育庁の許可なしに営利企業のウェブサイトなどで私念を公表したりはしていないようだ。

 事件事故などがあると、各学校において校長が教職員に対して報道機関の取材には応じないよう箝口令かんこうれいを敷くのが通例である。また、県教育庁が校長以下教職員に対して、取材に応じないよう命令することもある(2021〔令和3〕年の水戸農業高校の件)。その当否はさておき、本物の「民間人校長」たちは、世話になった転職斡旋業者、身内といってもよい広告業者、お得意先の経済誌などから求められるままあらゆることを話してしまい、挙げ句の果てには選考の内情などまでペラペラと喋ってしまう。一方で、そういうところの誘いがないこともあるが、本籍文科省の御厩や本籍茨城の下山田は、勝手知ったる教育行政機関や学校の則るべき慣習にしたがい、言うとしても当たり障りのないことにとどめておく。他があまりにもひどいので、この2人がじつにまともに思える。

 それはさておき、毎年ひとりずつ割り当てて文部科学省の顔を立てておき、クレームが付けられないようにしておくのは、大井川の狡猾な作戦である。文部省へ「出向」していた小山田など、本籍地に戻したうえで普通に「昇任」させれば足りるわけで、わざわざ「エン」の公募を通す必要などないのに、こうして保険を掛けておいたのである。文部科学省は、茨城県教育委員会の管理下の学校での違法行為その他の不適切な事象の数々に、おいそれと口出しできない状況に置かれてしまった。

 「民間人校長」たちは、あるいは学校教育法上の職務規定を完全に無視し、何の根拠もないイベントを勝手に校内で催し、出身会社の宣伝を垂れ流す傍若無人の振る舞いに及び、あるいは週刊文春で11人中2人がスキャンダル報道されるなど、数年前の大阪府よりよほど悲惨な状況である。これは文部科学大臣による都道府県教育委員会に対して是正措置を講ずべきことを求めるべき事例である。とはいえ、省令(学校教育法施行規則)で〝無免許校長〟を許すことで今日の無軌道ををみずから招来したこともあり、毎年ひとりずつ「民間人校長」を送り出してしまったとあっては、文部科学省はいまさらの介入には二の足を踏むかもしれない。文部科学省としては、こうなると分かっていれば御厩の「出向」などさせなかったのに、判断を誤った。

 かくなるうえは、文部科学大臣は御厩を任期途中で引き揚げたうえで、地方教育行政の組織および運営に関する法律第49条に基づき、茨城県教育委員会に対して「〔法令〕違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求める」べきである。

 

 

 

103 https://www.enjapan.com/project/ibaraki_2108/

104 https://www.mext.go.jp/sports/content/1384661_6_1_2.pdf

105 「茨城教育研究所通信」第35号、2023年、https://ibakk.web.fc2.com/35tuusin.pdf

106 2023年募集文

107 https://www.enjapan.com/report/ibaraki_rp/

108 https://prtimes.jp/a/?f=d725-682-a3c355c78738222cbae487a7fb98568e.pdf

109 https://corp.en-japan.com/newsrelease/2023/33556.html

110 ユーザーはそれらのSNSプラットホームを「無料」で便利に使っているつもりだが、じつはあらゆるデータを無料で提供しているのである。だからといって、いまさらアカウントを削除したりすると、自分で自分のデータを見ることができなくなる。全データは会社のサーバーコンピュータに残っているのにその自己コントロールが一切できなくなるだけの話である。こんなものを学校で児童生徒に積極的に使うように教えるのは由々しきことである。

111 電子メール本文は最初から読まれている。メールのアプリケーションプログラム画面に広告が表示される時代のことだが、ブラウザソフトウェアでGメール(グーグルのウェブメール)画面を開いて、「このところ不順な天候が続きますね。」と挨拶文のついたメールを受信したところ、脇に「生理不順」に聞くとかいう漢方薬の広告がついていた。受信したのはGメールのアカウントだったが、送信元は通常のプロバイダが提供するメールアカウントだった。アマゾンなどの通販サイトを閲覧した時に送り込まれる内緒の目印(クッキー:ユーザー識別情報。特に3rd party cookie:摘み食いできるクッキー)を盗み見するなどして、関連商品を売り込んできたのでもない。あきらかにグーグルのサーバーコンピュータは、送受信するメール本文をそのつど全部読んでいる。

112 次の記述から抜粋、https://irbank.net/E22621/officer?m=遊佐精一

113 東京証券取引所が運営する新興企業(「ベンチャー企業」)向けの株式市場

114 ある株式が上場廃止基準に抵触する恐れがある場合に指定される

115 帝国データバンク、2022年8月5日、https://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/4909.html

116 2023年3月29日、https://corp.en-japan.com/newsrelease/2023/32458.html

117 2023年5月18日号、https://bunshun.jp/articles/-/62709

118 https://www.pref.ibaraki.jp/bugai/koho/hodo/press/19press/p230519.html#a13

119 https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/wp-content/uploads/2023/07/youkou2023.pdf